安倍総理「森羅万象」発言。歴代総理はどう発言?

衆議院予算委員会での安倍総理(写真は2018年11月撮影)(写真:つのだよしお/アフロ)

 統計不正問題が焦点となっている最近の国会ですが、それに関連して本日6日の国会答弁での安倍総理の発言が話題になっています。国民民主党の足立信也参議院議員から、特別監察委員会の報告書を読んだかについて問う質問への答弁の中で出た発言で、以下の通り報じられています。

 足立氏が「テレビの前の方はガクッときたと思う。大事なことなのに残念」と返すと、首相は「総理なので森羅万象すべて担当している」と説明。「さまざまな報告書があり、すべて精読する時間はとてもない。世界中で起こっている(ことに関する)電報などもある」とし、自身の多忙ぶりに理解を求めた。これに対し、足立氏は「気持ちは忖度(そんたく)いたします」と皮肉った。

出典:首相「森羅万象すべて担当」 でも統計不正報告書は未読

 この「森羅万象すべて担当している」という総理の答弁が、ネットで大きな反響を呼び、Twitterでは「森羅万象」がトレンド入りする事態にまでなっています。

Twitterトレンド入りした「森羅万象」
Twitterトレンド入りした「森羅万象」

 森羅万象とはどのような意味でしょうか。三省堂のスーパー大辞林によれば、「宇宙に存在する、すべてのもの」とされています。辞書通りに意味をとるなら、安倍総理は宇宙に存在するすべてのものを担当していることになり、神に近しい存在ととれるわけです。

森羅万象(イメージ)
森羅万象(イメージ)

 もちろん人間ひとりでそのようなことはできませんから、ネット上で大きな反響を呼んだのでしょう。Twitter上では「森羅万象担当大臣」というタグまで作られ、これもトレンド入りしています。

 しかし、この言葉は本来の意味通りにとるべきなのでしょうか? 国会答弁や霞が関において、比喩的に使われている言葉だという意見がありました。ここでは過去に国会で、「森羅万象」がどう使われてきたかを見ていき、安倍総理がどのような意味で使ったかを考えてみましょう。

 まず、安倍総理の過去の発言です。今になって騒がれていますが、総理になってから既に「森羅万象」を複数回使っています。

 私の場合は、もちろんこの予算について、森羅万象全てのことについてお答えをしなければならない立場ではありますが、全てのことについては、しかし、それは全て私が詳細を把握しているわけではありません。

出典:安倍晋三(総理大臣) 平成30年02月20日

 政府が取り扱っている森羅万象全てを私が説明できるわけでは当然ないわけでございますから

出典:安倍晋三(総理大臣) 平成29年11月28日

 過去の安倍総理の発言を見る限り、総理という立場は森羅万象を取り扱うものだが、その全てを自分ひとりで把握・説明はできない、という認識は以前から持っていたようです。総理の立場が森羅万象を取り扱うというという認識を、他の総理大臣も持っていれば、安倍総理の発言は国会答弁における意味を踏襲したものだと言えるでしょう。

 では実際に過去の総理大臣で、森羅万象を使った人はいるのでしょうか? 結論を先に言うと、過去にもいました。

 率直に申し上げて、そういう御指摘そのものには十分反省をしなければならないと思っております。と同時に、総理という役割はまさに森羅万象のことに対して対応しなければなりませんので、それぞれの役割が内閣全体としてはあるわけでありますから、私が細かいところまで全てを知っているかと言われれば、率直に申し上げて、そこまでは承知をしていない。

出典:菅直人(総理大臣) 平成23年04月18日(強調部引用者)

 上記の菅総理(当時)の発言は、東日本大震災における政府対応を巡る答弁の中で出たものですが、総理の役割は「森羅万象のことに対応」としており、また細かいところまで総理個人が知ることはできない、という意味において、今回問題になっている安倍総理のものとほぼ同じものだと言えます。しかし、当時この菅総理の発言が話題になった記憶はありません。

 また、過去の総理大臣が職分的な意味で「森羅万象」を発言した例は、他にもありました。その中でも、特に総理や政府が森羅万象を所掌するような意味合いを持つものを取り上げてみます。

 稲葉議員に対する内閣に対する質問書の答弁書で申し上げましたように、やはり現在の憲法の理念、民主主義、平和主義、基本的人権の尊重、国際主義等々のこの理念を堅持する、これがまず前提でございます。その上に立って、そして戦後、政治、経済、文化、社会、森羅万象にわたっていろいろ見直しを行い、そして二十一世紀を目指した日本の基礎工事、土台づくりをやろう、こういう趣旨でございます。

出典:中曽根康弘(総理大臣) 昭和60年02月07日

 誤解があるといけませんから。森羅万象日本であることは何事も憲法に関係がございます。

出典:宮沢喜一(総理大臣) 平成04年06月10日

 私は、今回のケースは当然政務三役が把握すべき問題だったと、そう思いますが、同時に、政務三役、まあ厚生省(注:原文ママ)の場合、五人か六人だと思いますが、森羅万象についてどこまでをある意味役所の方で対応し、どこからのものはきちっと上げさせるか、こういうことも含めて、これからの政権運営の中でしっかりと対応するよう指示をしてまいりたいと思っております。

出典:菅直人(総理大臣) 平成23年03月08日

 このように過去の総理大臣による国会答弁をみれば、政府や法が森羅万象を取り扱うもの(できるかどうかは置いて)というのは、広くある認識のようです。

 このような国会での森羅万象認識について、面白い答弁がありました。石破茂議員が、田中角栄元総理から聞いた話として紹介しています。

 私も、御縁あって、昭和五十五年以来、田中角栄先生にいろいろなことを教えていただきました。私が政治に入る機会をつくってくださったのも田中角栄先生であります。

 よく先生がおっしゃっておられたのは、国会議員は何が一番おもしろいかということをおっしゃっておられました。それは、法律をつくることが一番おもしろいのだということを私は角栄先生から何度か教えていただきました。この世の中で起こる全てのこと、森羅万象という言葉をお使いになりました。川には河川法あり、海岸には海岸法あり、森には森林法あり、道路には道路法あり、田畑には農地法あり、この世の中における森羅万象全てのことを法律が律しておる、国会議員にとって一番の仕事は法律をつくることだ、そういうふうに私は教えをいただきました。

出典:石破茂(衆議院議員) 平成24年02月02日(強調部引用者) 

 つまり、田中角栄元総理の言葉では、森羅万象に関わるのは総理だけでなく、国会議員全員がそうだ、という意味のようです。言い換えるなら、国会議員全ては「森羅万象担当議員」ということになります。

 ここまで見ると、安倍総理の「森羅万象」発言は字義通りに捉えればおかしいですが、国会答弁における歴代総理大臣の答弁を踏まえるならおかしなものではなく、むしろ与野党問わない認識を継承したものだと言えると思われます。

 現政権に問題が山積しているのは事実ですが、こういう問題の無い話ばかり話題になるのもどうなんでしょうね……。