北朝鮮情勢緊迫でGPSの精度が落ちている?

GPSは今や生活に欠かせませんが……(写真:アフロ)

GPSの精度が落ちている?

北朝鮮情勢が緊迫する中、SNS上で「GPSの精度が落ちている」という書き込みが散見されています。実際、ツイッターで「GPS」と検索をかけてみると、「GPS」に続いて、「おかしい」「精度」といったワードが検索候補に上がってきており、それなりに広がっている話題なのかもしれません。

「GPS」とツイッターで検索をかけると…
「GPS」とツイッターで検索をかけると…

結論から言うと、GPS精度が意図的に落とされているかというと、それは少々怪しいのではないか? と思います。ここでは、かつて行われていたGPSの精度劣化措置と、その解除、補正手段等について解説したいと思います。

かつてあった精度の劣化措置

元々、GPSは航空機や艦船の測位といった軍事用途に開発されたもので、現在も運用は米空軍が行っています。2017年4月現在、31基のGPS衛星が地球を周回していて、複数の衛星(最低4基)から発せられる信号を受信機が受信し、それぞれの信号の遅延時間などを計算することで、受信機の現在位置を割り出すことが出来ます。

GPSが発する信号は、軍事向けと民間向けの信号は分かれていて、かつては民間向け信号はSA(Selective Availability:選択利用性)と呼ばれる精度の劣化措置がなされており、100メートルの精度しか保証されていませんでした。

しかし、2000年5月に当時のクリントン大統領はSAを解除する声明を出し、これによって保証される精度は10メートルにまで向上し、GPSの民間利用の実用性が大きく増しました。今ではカーナビのみならず、ほぼ全てのスマートフォンにもGPS受信機能は備わっていて、私たちも地図案内などの機能を享受しています。

このようなSAの経緯があったことから、「(北朝鮮情勢緊迫で)GPSの精度が落ちている」と言われているのかもしれません。しかし、前述したクリントン大統領の声明では、SA解除が宣言されており、次世代のGPS衛星ではSA機能自体が搭載されないことになっています(現在はまだありますが)。

日本をほとんどカバーする補正手段

また、海上保安庁は日本各地に「ディファレンシャルGPS」と呼ばれる地上局を27箇所に設置しており、ここからGPSの精度を上げるための補正信号を出しています。かつてSAが有効だった時代は、これらの補正手段で実用的な精度に近づけていました。そのため、日本のほとんどの地域では、例えSAが復活したとしても、精度を保ちつつサービスを享受するのが可能と言われています。

ディファレンシャルGPS局と有効範囲(海上保安庁サイトより)
ディファレンシャルGPS局と有効範囲(海上保安庁サイトより)

そもそも、今やGPSは世界的なインフラとなっており、位置精度が急激に劣化した場合、ディファレンシャルGPSのような補正手段が効かない地域で誤差や精度低下が起きた場合、大きな問題となるはずです。例えば、国土地理院は、火山活動や地震活動の観測のため、ディファレンシャルGPSの範囲外を含む日本中にGPS受信機を組み込んだ電子基準点を設置しており、24時間態勢で変動を観測しています。もし重大な誤差が生じた場合、大騒ぎになると思いますが、今のところ特に発表はありません。

もっとも、アメリカはGPS信号の妨害手段を持っているとしています。しかし、それらはおいそれと使われるものではなく、平時である現在使うとは考えにくいでしょう。妨害手段の手の内を明かしてしまうと、相手に対策を施される恐れがあるわけですから。

以上のことから、GPSの精度が落ちているという主張は少々怪しいと思います。これまでも大きな自然災害がある度に、雲の形などの自然現象が怪しかった、という話がたびたび見られます。しかし、それらの自然現象はごくありふれたもので、自然災害があったから注目されただけ、という例がほとんどです。元々、スマホ等に組み込まれたGPS受信機は、様々な問題からやや誤差が出ていますが、その誤差を北朝鮮情勢の緊迫で気にする人が増えただけの話のように思います。

【参考となるサイト】

内閣府宇宙開発戦略推進事務局「衛星測位入門」

海上保安庁交通部サイト