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登山その前に。登山計画書の提出を

dragonerWebライター(石動竜仁)
登山の際は登山計画書の提出を(写真:焼岳(筆者撮影))

御嶽山噴火の報道が連日続いていますね。噴火当初は噴火映像のインパクトに圧倒されましたが、心肺停止で発見される遭難者の数が時を経るに従って増えていくのが痛ましいです。

今回の噴火による遭難者の数ですが、報道によると噴火から3日経った今でも正確な数は分かっていないそうです。

29日午前8時から長野県庁で開かれた非常災害現地対策本部会議後、陸自松本駐屯地の広報担当者は、「安否不明者は41人に上る」と明らかにした。連絡が取れない人や周辺の駐車場に放置された乗用車の所有者などを基に集計。山中に取り残されている人の数は正確につかめていない。

出典:読売新聞:「御嶽山噴火、不明者の総数つかめず」

発表されている遭難者の総数は連絡が取れない人や、駐車場に放置された自動車から割り出しているようですが、公共交通機関の利用者や単身登山者が多く含まれていた場合、実際の遭難者はもっと増えるかもしれません。

未だに遭難者の総数が分からない理由として、登山者の登山計画書未提出が挙げられます。登山計画書(登山届)とは、登山の日程、ルート、参加者等の情報を記入した書類の事で、主要な山の登山口には投函するポストが用意されています。投函された計画書は回収され、いざ遭難が発生した際、救助のための重要な参考情報となります。

登山計画書の様式例(長野県)
登山計画書の様式例(長野県)

今回の遭難に限らず、登山計画書が100%提出されていれば、遭難者の名前から人数まで遭難発覚から短時間で分かりますが、現実には登山者の8割が計画書を提出しないと言われています。御嶽山は3000メートル級の高山ですが、七合目までロープウェイも整備されており、コースによっては日帰り登山が可能な事から、”お手軽な山”という認識もあります。その事も計画書の未提出に繋がったのかもしれません。

計画書未提出で遭難から救助まで14日を要した例

今回は噴火という大災害でしたから、直ちに登山者の遭難の事実が知れ渡ったため、不明者の総数が分からない程度で済んでいます。しかし、登山計画書未提出で遭難した場合、遭難そのものに気付かれずに救助活動が始まるのが遅れる、あるいはどこで遭難したのかすら分からない可能性があります。

実際に2010年に埼玉県秩父山地の両神山で発生した遭難では、登山者の男性が40メートル滑落して骨折し、身動きが取れない状態になりましたが、男性は計画書の投函ポストを見落として未提出のまま登山していた上、行き先を告げた家族が山の名前を覚えていなかった等の悪条件が重なり、救助まで14日を要した例があります。この例では、男性が登ったのは両神山だと警察が特定したものの、どのルートを使ったが最後まで分からず、救助隊は広範囲の捜索を強いられる事になりました。遭難14日目で男性が発見されたのは沢で、あと数十分発見が遅れていたら大雨による増水に流されていたという、ギリギリの状況での救助でした。

ネットでも可能な登山計画書の提出

登山計画書提出の有無で、生死を分ける事になるかもしれないとお分かり頂けたと思います。1~2枚の紙を書く数分間の手間で、生存の可能性を上げる事が出来るなら、それは有効な投資ではないでしょうか。

しかし、どうしても書くのが億劫な方もいるかもしれませんし、先の例のように投函ポストを見落とす可能性もあります。近年はネットでも計画書を受け入れている自治体があります。現在問題になっている御嶽山は岐阜・長野両県に跨る山ですが、岐阜県はメールによる計画書提出が可能で、長野県ではメールフォームによる提出の他、公益社団法人日本山岳ガイド協会が運営する登山SNS「コンパス」と提携し、SNS上から提出する事も出来ます。この他の自治体、警察でも、ネットでの計画書受付を行っている所がありますので、登山の際は事前にチェックしてみるとよいでしょう。

今は遭難しても携帯電話で救助を呼べる、と考える方もいるかもしれませんが、携帯が圏外で助けに呼べなかった遭難例は数多くあります。そもそも、山は人間の生活空間ではなく、突発的な災害・怪我等のリスクは数多く存在し、ちょっとした事から誰もが遭難者になり得ます。ほんの少しの手間でリスクが減らせるのなら、手間を惜しむ理由は無いのではないでしょうか。

※この記事は、dragoner.ねっと「登山その前に。登山計画書の提出を」のYahoo!ニュース向け配信版です。ブログ版では遭難に関する書籍の紹介も行っています。

Webライター(石動竜仁)

dragoner、あるいは石動竜仁と名乗る。新旧の防衛・軍事ネタを中心に、ネットやサブカルチャーといった分野でも記事を執筆中。最近は自然問題にも興味を持ち、見習い猟師中。

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