阪神タイガースジュニアのセレクションに過去最多の応募者が殺到!
■「NPB12球団ジュニアトーナメント」
今年もこの季節がやってきた。関西近郊の小学6年の野球少年少女が熱くなる季節だ。年末に開催される「NPB12球団ジュニアトーナメント」に出場するためのチーム「阪神タイガースジュニア」、そのセレクションが毎年8月に行われるのだ。
「NPB12球団ジュニアトーナメント」―。野球好きの間で関心の高いこの大会は、プロ野球12球団が編成した全国の野球少年少女が交流をすることにより、野球のさらなる普及と発展を図ることが目的とされている。
12球団それぞれのOBが監督・コーチを務め、16人の小学5、6年生のチームを編成する。まずグループリーグでは3チームが総当り戦を行い、各グループを勝ち抜いた4チームが決勝トーナメントに進む。そして準決勝、決勝を戦って優勝チームが決定する。
「子どもたちが『プロ野球への夢』という目標をより身近にもてるように」との思いで2005年に発足したが、このジュニアトーナメントを経験してプロ野球界に入った選手がどんどん増えている。
高山俊選手(阪神タイガース)、森友哉選手(埼玉西武ライオンズ)、田口麗斗投手(読売ジャイアンツ)、松井裕樹投手や藤平尚真投手(ともに東北楽天ゴールデンイーグルス)…と、そうそうたる選手たちがこの大会出身者である。
そして、とうとう阪神タイガースジュニアからも念願のプロ野球選手が誕生した。千葉ロッテマリーンズの安田尚憲選手は2011年大会でタイガースジュニアに選ばれ、大舞台を踏んだ。
■優勝は悲願
これまでタイガースジュニアにはいくつかの願いがあり、それをひとつずつ叶えてきた。まずは「グループリーグでの1勝」、続いては「決勝トーナメントに勝ち進む」、そして「タイガースジュニア出身者のプロ入り」。これらは成就した。
あとひとつ、まだ叶えられていないことがある。「優勝」だ。これまでの最高成績は準優勝。もう一歩というところで涙を飲んでいる。今年こそは…と監督はじめ、すべての関係者がそのときを待ち望んでいる。
監督には過去2年、投手コーチを務めた鶴直人氏が就任し、2人のコーチは昨年に続いての柴田講平氏と、新参入の今成亮太氏だ。いずれもタイガースアカデミーの講師でもある。
このフレッシュなメンバーで頂点を目指す。
■セレクションには過去最多の応募者が殺到
さて、そのセレクションである。今年は台風の影響もあり、8月13、14、16日に行われた。
年々認知度が上がり、それにともなって応募者数は右肩上がりだ。野球の競技人口低下と反比例しているのが不思議である。今年の応募総数は約400人だった。
初日の午前に30m走と遠投。これは数字だけで判断するわけではない。そしてマシンと今成コーチの手投げによるバッティング。午後からはシートノックだ。
午前の終わりと午後の終わりにそれぞれ選考が行われ、2日目は92人でのスタートとなった。午前はシートノックとシート打撃。選考後、午後からは38人が2チームに分かれて紅白戦を行った。
最終日に臨んだのは28人。ベースランニングを6パターン、シートノック、そして紅白戦を行い、そこで16人の“ちびっこ虎戦士”が決定した。
何度かあった選考で落ちてしまった選手たちを前に、その都度、首脳陣は励ましの言葉を贈った。
柴田コーチは「自分に何が足りなかったのか、足りなかったところをノートに書いて、どんどん野球の勉強をしていってください。こういう発表する場で結果が出ないというのも実力のひとつ。今日は残念だったけど、キミたちは頑張ってくれたし、野球が好きなのは伝わってきた。これからも先は長いので続けて頑張ってください」と声をかけた。
鶴監督もひとつひとつ言葉を選びながら話した。
「緊張感ある中、プレッシャーかかる中、いつもと違う環境、いつもと違う雰囲気で臨んだと思うんだけど、例年に比べてレベルは上がっている。参加人数も過去最多で、その分、競争がきつくなる。セレクションがある以上、受かる子、落ちる子がいる。なんで自分が落ちたか、見つめられる時間やと思う。今日の悔しさを絶対に忘れず、我々コーチ、タイガースのここにいる関係者を含めて、見返してください、野球で」。
さらに、こうも言った。
「こういうプレッシャーの中で結果が出なくて悔しい思いをしてるよね。でも、これで終わりじゃない。経験がこの先、絶対に生きてくる。キミたちはまだまだ伸びる。体も大きくなって、心も強くなって、技術もうまくなる。これを糧にして、今後も野球人生、頑張ってもらえたら我々も嬉しいです」。
悔しさに涙を流していたちびっこたちの、これからの奮起を首脳陣もおおいに期待していた。
■鶴直人監督
さて、「タイガースジュニア2019」である。
選ばれたメンバーについては今後また紹介していこう。まずは首脳陣に話を聞いた。
鶴直人監督は「勝たせる監督になる」と強い口調できっぱり言いきる。2年の投手コーチを経ての監督就任だ。
「(コーチとは)全然違いますよ、プレッシャーとか。でも気持ちは一緒ですよ、もちろん。毎年毎年、子どもたちに接するのは本気でぶつかってるし、子どもたちのために、勝つためにいろいろ考えてやってるけど、あらためてちょっと身が引き締まる」。
「勝ちたい」と何度も繰り返す。「優先順位でいうと勝ちたいし、勝たせてあげたい。その上で成長させてあげたい」。
短期決戦で勝つために集まったメンバーだ。そこは重々承知しているのだ。
「僕がしっかりすることがチームの力になるだろうし、かといってひとりじゃどうしようもできないこともある。そこはコーチたちがいいバランスでやってくれると思うので、協力し合いながら」と、三位一体で取り組む。「スタッフの方もひっくるめて、全員で戦っていきたい」。
タイガースアカデミーで気心知れたメンバーなだけに、チームワークはバッチリだ。
役割としては、今成コーチに「ヘッドコーチ的な存在でやってもらいたい。バッテリー、キャッチャー、野手…そのへんは中心にやってもらいたいし、もちろん作戦面の指示もしてもらおうと思う」と頼るところが大きい。
昨年に続いて2年目となる柴田コーチには「野手全体を見てもらう。特に外野になれば柴田コーチが専門だから」と、野手の守備も含めた全般を任せる。
「いい感じじゃないですか、そういう意味では。バランスがとれて」。そう言って、満足そうに微笑む。
鶴監督にとって「優勝」は最重要ミッションだという。「まだ優勝したことがない。僕だけの思いじゃなく、チームとしてそれが一番。その上で空気感とか雰囲気とか、自然と子どもたちが高ぶっていくような環境を作ってあげたい。もちろん勝負ごとなんで子どもたちも勝ちたいだろうし、勝たせる監督にはなりたい」。
これから本番に向けて、チームでの練習や練習試合を行う。選手個々の把握もこれからだ。「これからチームの色というか見極めながら、最終的には子どもたちが考えて、どうやったら勝てるか、どうやったらうまくなるかっていう環境を作ってあげるのが一番」。
昨年の2018メンバーは「打てる子が多く、エースや軸となる選手がいた」と振り返ったが、今年のセレクションを見て「今年は今年でどういうチームになるか作っていく段階だけど、すごく組織的で戦えるチームになるんじゃないかな」という手応えを感じているという。
「ムダなミスをなくして、守備から流れを作っていきたい。少年野球とはいえ、締めるところはしっかり締めないと。野球の醍醐味は打ち合いだし、点の取り合いだと思うけど、やっぱり勝つという意味じゃ、そこ(守備)は意識したい。その上で打ってくれたら嬉しい」。
どうやら“鶴野球”がおぼろげながら見えてきた。手堅いチームになりそうだ。
今年、セレクション受験者が過去最多にまで増えたことに関しては「歴代のチームスタッフから現場の監督やコーチが積み重ねてきてくれて、すごく認知され、レベルも上がってきたから」と感謝し、「これをいい意味で継続したいし、それだけに結果を求めていきたい」と表情を引き締めた。
来たるべきときに向かって、青年監督は子どもたちへはもちろんのこと、自身への期待にも胸を高鳴らせている。
■柴田講平コーチ
昨年のセレクションを「はじめてだったので、あたふたした」と苦笑いで振り返った柴田講平コーチは、「今年は仕様を変えた。明確に部門に分けてやったので、見分けがつけやすかった」と受験者を誰ひとり見落とすことなく、しっかり見ることができたとうなずく。
それでも選考は「難しい」と繰り返す。それだけ真剣にひとりひとりを見ているということだ。
柴田コーチには昨年の悔しさがありありと残っているという。
「なんであのチームで(決勝リーグに)いけなかったんだろうっていう気持ちがある。不思議。野球は何が起こるかわからない」。手応えがあっただけに、だ。
「現役のときとはまた違う感覚。自分がやるのとは違う。こいつらでなんで負けたんだろう。あんなに頑張ってたし、ずっと見てきてうまくなったし成長したのに、結果はこうか…みたいなね。だから受け入れるまでにちょっと時間がかかった」。
子どもたちのことを思うがゆえに、持て余すくらいの無念さを感じたのだろう。
それだけに「今年は勝つ。勝たなくちゃいけない。勝てるチームを作らなきゃいけない」と鶴監督に呼応する。「勝てる環境を僕らが提供してあげる。僕は野手コーチとしてそれが役目だと思うんで」。
より強い思い入れをもって臨む。
■今成亮太コーチ
ジュニアチーム初となる今成亮太コーチは、セレクションの段階から「試合を想定しながら、その子の適正とかそういうのを見ていた」という。「たとえばショート希望の子でも、違うポジションにいいんじゃないかとか、そのポジションにこだわらず見ていた」。
タイガースアカデミーで子どもの指導はしているが、「ジュニアとアカデミーはまた違う」ときっぱり。「アカデミーは楽しくやるっていうのがコンセプトだけど、ジュニアは勝ちにいくところ。野球をしっかり教えなきゃいけない。全国のトップクラスの子たちが来るところなんで、そういった面では違う目では見ている」。
首脳陣の思いはブレることなく一致している。まさに「勝つために」集められたメンバーなのだ。
「どうやったら勝てるかっていうことを、鶴監督とも話している。コーチの中でもキャッチャー経験は僕しかいないので、そういった意味でバッテリー中心に見る。打者でもあり、野手でもあったんで、そういう部分の連係とかも。バッティングだけでなく、試合の状況判断だとかそういうことも言っていきたい」。
野球の技術はもちろん、“野球脳”の教育もしっかりするという。
「子どもたちもジュニアをステップアップとしてやっていくと思う。これを自信にしてほしいので、僕らとしてもちゃんとしたものを提供しないといけないと思っている」と意欲に満ちている。
目指すのはもちろん同じだ。「最初から1回戦、2回戦とか思うコーチもいないし、子どもたちも逆にそういう気持ちでは来てないと思う。やるからにはやっぱ、優勝を目指してやりたい」。大きな目を輝かせて熱く語った。
■振興部の中村泰広氏
スタッフにも新たなメンバーが仲間入りした。昨年まで金本知憲監督付き広報だった中村泰広氏だ。現役時代は鋭いキレのスライダーを誇った左腕だ。
「今年の1月から振興部に異動してアカデミーを担当している。ジュニアも振興部の管轄なので」と、セレクションでは真っ赤に日焼けしながら精力的に動き回っていた。
「裏方として『チームを支える』という意味では、(これまでの広報と)やることは変わらないから。選ばれた子たちが年末まで活動していく中で、なんとか一緒にみんなでいいチーム作りができたらなと思う。サポートしてくれるメンバーも経験されている方ばかりなんで頼もしい」。
中村氏も「優勝できるチームにしていきたい」と、思いをひとつにしていた。
「NPB12球団ジュニアトーナメント」。令和元年の覇者が阪神タイガースジュニアとなることを願う。
(撮影はすべて筆者)
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