英選挙結果を地べたから分析する:やっぱり鍵はナショナリズム

保守党と労働党が拮抗していた筈の世論調査とは異なり、保守党があっさり過半数を取って勝利してしまった英国総選挙。英国では各紙がポストモーテム(事後分析)を始めている。労働党を推して来た左派紙ガーディアンで、オーウェン・ジョーンズはこう書いた。

労働党がスコットランドで大敗したのは確かだ。保守党がスコットランド国民党(SNP)の躍進を皮肉ってイングランド人のナショナリズムと憎悪を煽ったのも確かだ。右派のメディアが保守党のプロパガンダを行い、悪意に満ちた、敵意丸出しのキャンペーンを繰り広げて来たのも確かである。しかし、責任を負うべきは労働党の指導者だ。(中略)保守党が一貫して明確なメッセージを繰り返し伝えているときに、エド・ミリバンドは時としてまるで学者のような奇妙なスピーチを行い、有権者に響くメッセージを伝えることができなかった。生粋の支持者たちでさえ、もはや労働党の信条は何なのかよくわからなかった。政策はランダムに投げ入れられ、(中略)党首は保守党が強調する緊縮政策を受け入れさえした。

出典:The Guardian : Guardian Columnists on a Shocking Night

また、女性コラムニストのギャビー・ヒンズリフは「今、誰もが自分たちのスタージョンを求めている」と書き、労働党のエド・ミリバンド党首、自由民主党のニック・クレッグ党首、UKIPのナイジェル・ファラージ党首(彼は自身も落選)が続々と退任を発表する中で、イングランドにはSNP党首二コラ・スタージョンのような政治家がいないことを嘆いている。

どこに我々の二コラ・スタージョンはいるんだ?SNPを除くすべての政党が今そう自問しているに違いない。(中略)すべての党首たちが有権者の信頼を失っているときに、SNPの党首だけは揺るがぬ支持を得た。他の党首が怖れに満ちたネガティヴな選挙戦を展開しているときに、彼女は前向きな希望のメッセージを送り、有権者たちと繋がって行った。

出典:The Guardian: Guardian Columnists on a Shocking Night
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スコットランドの躍進とスタージョン人気が保守党にとって有利に働いたのは間違いない。保守党はスタージョンや前SNP党首(現英国国会議員)アレックス・サモンドの胸ポケットに労働党ミリバンド党首が従順なペットのように入っている宣伝ポスターを大々的に使っていた。この巨大なポスターが近所のビルボードに貼ってあった時はわたしもびっくりしたものだ。保守党はうちのようなガラの悪い地域に宣伝ポスターなど貼ったこともなかったからだ。「下層民は右翼が多いから」という戦略だったのかもしれない(でも「くたばれトーリー(保守党)」の落書きがしてあったけど)。

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早くからSNPへの敵意を剥き出しにして保守党応援キャンペーンを繰り広げていたタブロイドのザ・サン紙は、マイリー・サイラスの「レッキング・ボール」のPVをパロディ化し、スコットランド名物のタータンチェックのビキニを着たスタージョンの合成写真を掲載して「SNPは経済回復をレッキング・ボールで破壊する」と皮肉った。

選挙番組を見ていたら、取材で全国の選挙区を回ったというBBCの記者が、どこでも必ず人々が口にしたのは「スコットランドのナショナリストたちが本当に心配だ」という言葉だったと言っていた。投票日の夜、保守党の勝利が明らかになったとき、ブレア元首相の片腕だったピーター・マンデルソンは「労働党は2つのナショナリズムに挟まれて潰れた」と言った。それは労働党の牙城だったスコットランドでの票をすべて奪ったSNPと、SNPが政権を握るのではないかというイングランドの人々の不安をうまく利用した保守党の2つのナショナリズムである。実際、わたしは今回の選挙での保守党のプロパガンダ戦略を見ていて、ほとんど極右政党のようなえげつなさを感じた。

が、1議席しか取れなかった右翼政党UKIPも、英国の選挙が比例代表制だったら83議席を獲得して第3党になっていたという報道があり、選挙システムを変えるべきという議論も再燃しているが、排外主義のUKIPも実は水面下で大健闘していたらしいのである。

つまり、労働党にせよ自由民主党にせよ、何らのナショナリズムも掲げていない政党が大幅に票数を減らしたということになる。

その一方で、評論家がBBCの選挙番組で「労働党は、スコットランドでは右翼すぎ、イングランドでは左翼すぎた」と言っていたが、ミリバンドが提唱した「ケアリング・キャピタリズム(思いやりのある資本主義)」という方向性ではもうダメだということだ。ブレアは「第三の道」という中庸のポリシーで国民の支持を得たが、もはや英国では、思いやりを追求するのか、キャピタリズムを追求するのか、はっきりしないとどちらのベクトルの人々からも支持されないということだろう。これは、再び保守党と連携するつもりなのか、それとも今度は労働党をサポートするつもりなのか最後まではっきりせず、真ん中でフラフラし続けた自由民主党の撃沈ぶりを見てもわかる。

そう考えると、女性党首スタージョンの人気は脇に置いても、右翼的と思われている愛国の概念と、反緊縮・核兵器廃絶のクラシックな左翼性を難なく共存させている点で、SNPの独自性は際立っている。彼らの場合は中庸ではなく、双方に足をかけているのだ。これは昨年出た拙著にも書いた話だが、ミュージシャンでありアクティヴィストでもあるビリー・ブラッグは、「イングランドが目を覚ますのはスコットランドが独立するとき」と4年前に言っていた。スコットランドは独立はしなかったが、どうも昨秋からの流れを見ていると、これは本当になっている。「僕はイングランドを愛しているからそこには思いやりと公平の国であってほしい。僕は愛国者だからこそ社会主義者なんだ」というブラッグは、民族性ではなく、何処に住んでいるかに基づくスコットランドの市民的ナショナリズムに早くから共鳴してきた。

キャメロン首相は満面の笑みで首相官邸に戻ったが、今後の大きな課題として、すでに公約しているEU離脱の是非を決める国民投票が待っているし、SNP一色になったスコットランドも独立のチャンスを狙っている。選挙後もナショナリズムの問題が英国政治の鍵を握り続けるのは間違いない。

だが、選挙戦で保守党が利用したイングランドの好戦的ナショナリズムは、何よりもイングランドの人々にとって危険だろう。敵は政治や社会システムの劣悪さではなく、スコットランドと外国人なのだと定義してしまえば、気分的には盛り上がるのかもしれないが、肝心の庶民の生活はいつまでたっても良くならない。

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今回、もう一つ大きな話題になっているのが世論調査がどれほどあてにならないかということだが、これには「保守党支持者は投票する政党をはっきり言わない」という分析がなされている。

実際、ブライトン市内でも家々の窓に貼られていたのはみどりの党と労働党のステッカーばかりで、「保守党は一軒も見ないよねー」と言ってたら、先日、一軒だけ見かけた。立派なお宅だったが、庭に大量のゴミやビール缶が投げ入れられていた。

言わないのではなく、言えない事情があるのかもしれないと思った。