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着々と政権基盤を固める岸田首相に、安倍元首相が反撃!

安積明子政治ジャーナリスト
岸田政権の次は林政権?(写真:つのだよしお/アフロ)

自信を深めた岸田首相、安倍元首相に大胆に挑む

 毎日新聞が12月18日に行った世論調査によれば、岸田内閣の支持率は前月から6ポイント増の54%で、不支持率は36%と7ポイント減少した。新型コロナウイルス感染症対策についても、「評価する」との回答は46%で、「評価しない」の26%を引き離している。「議席数激減か」と危ぶまれた衆議院選も絶対安定多数を維持でき、岸田文雄首相は大いに自信を深めているのではないか。その証拠が12月6日に開かれた清和研のパーティーだ。

清和研パーティー

 安倍晋三元首相の会長就任の披露も兼ねたこのパーティーで、岸田首相は来賓として挨拶。財政規律を重視する故・福田赳夫首相が池田内閣の所得倍増計画に反対するために1962年に党風刷新連盟を結成し、それが清和研の源流となったことを紹介した。いわば「宏池会と清和研は、もともとは敵同士」と宣言したに等しい。岸田首相はまた、グラスゴーで行われたCOP26会議で、ある首脳から「シンゾーから(国政選挙で)6連勝した秘訣を教わった」と言われたことを述べ、「自分はまだ教わっていない」とさりげなく安倍元首相との距離を示してもいる。

梯子を外された恨みからアンチ安倍へ?

 かつてはポスト安倍の最有力候補とされ、安倍元首相からの禅譲を期待した岸田首相だが、2020年の総裁選では菅義偉官房長官(当時)にその座を奪われ、2021年の総裁選では安倍元首相の応援を高市早苗元総務大臣にかっさらわれた。しかも2020年4月には、新型コロナウイルス感染症対策の現金給付について、政調会長だった岸田首相は所得制限の下での30万円給付をとりまとめ、いったんは安倍元首相の同意を得たが、急転直下に反故にされ、恥をかかされてもいる。

 その時の“恨み”を晴らすように今、岸田首相は「アンチ安倍」路線を進んでいる。そのひとつが幹事長に転身した茂木敏充外務大臣の後任に、林芳正元農水大臣を任命したことだ。

火ぶたを切った“山口戦争”

 1995年の参議院選で当選した林氏は、当選5回の大ベテラン。衆議院議員のキャリアに換算すれば11回当選組に相当する。2021年8月に議員辞職し、10月の衆議院選では山口県3区から出馬して当選した。2012年9月の総裁選に出馬したこともあるが、この時に「衆議院議員でなければ総理大臣になれない」ことを痛感し、衆議院転出を狙っていた。

 そしてこの林氏が安倍元首相の最大のライバルになるかもしれない。衆議院は次の選挙までに10増10減の区割り変更を行わなければならず、山口県も4議席から3議席に減らされる。この時に焦点になるのが、隣接する林氏の3区と安倍元首相の4区で、4区の大票田である下関市は代々林家の影響が強く、山口合同ガスやサンデン交通などを抑えており、林氏も国会議員になる前にこれら企業に在籍した。

 新たな選挙区については、2022年の参議院選前に発表される予定だが、ここに来て細田博之衆議院議長らから「3増3減」案が出始めた。山口県は当然除外されている。

 これについては「細田氏が安倍元首相の生殺与奪の権利を得るためだ」との説もあるが、むしろ細田派から安倍派になった清和研の融和を狙ったものではなかったか。しかし清和研に所属の福田達夫総務会長は「政治家の側から言うべきではない」と3増3減案に釘を刺す。

 ここで重要なのは、当選4回の福田氏を総務会長に抜擢した岸田首相の思惑だ。そもそも清和研は前に述べたように、福田氏の祖父の赳夫氏が創設したもので、“本流”は安倍元首相ではなく福田氏だ。中国との距離においても、宏池会の岸田首相、日中議連会長だった林氏や祖父が日中平和友好条約を調印した福田氏はほぼ同じで、安倍元首相と対極的と言えるだろう。

総裁選では中国に強気の姿勢を見せたものの……

 実際に対中政策については、両者はまったく対極的だ。安倍元首相は12月1日に開催された台湾のシンクタンクのオンライン会議で、「台湾有事は日本の有事」と断言。14日の日米台のシンクタンクが共催したシンポジウムでも、中国を名指しして牽制した。

 一方で岸田首相は、総裁選ではウイグルなどで行われている中国による人権弾圧に対する国会での非難決議に賛成し、人権担当の首相補佐官を設置することを明言。しかし首相になると「日本版マグニツキ―法」制定を見送り、2022年2月の冬季北京オリンピックにも曖昧な内容の外交ボイコットでお茶を濁そうとしている。高市政調会長らが推し進めようとしていた対中非難決議も、自民党内で茂木幹事長にあっさりと却下された。11月に平成研会長に就任し、将来の首相を狙う茂木氏にとって、もともと中国は遠い国ではない上、国民の要求が多い対中非難決議よりも岸田首相の意向を慮る方が得策と思えたのではなかったか。

 さらに岸田首相が外国を慮るシーンが12月15日の衆議院予算委員会で見ることができた。「自分の国は自分で守るということを根幹に考えなければならないのではないか」との国民民主党の前原誠司氏の質問に対し、岸田首相は「どの国であっても、1国だけで地域の平和を守れない」とはずし正面から答えなかったのだ。

 55.7兆円という史上最大の補正予算を通して、12月21日に臨時国会は幕を閉じる。だがその水面下では、覇権をめぐって岸田対安倍、あるいは親中派対日本独立派の闘いが繰り広げられるに違いない。2022年には参議院選が行われるが、衆議院選は遅ければ2025年。その間に岸田首相がどのように政権地盤をいっそう固め、後継者を育成するともに、キングメーカーの道を開いていくか。いずれにしろ、永田町はますます流動化していく。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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