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なぜ立憲民主党は“自民党”になれないのか~すみやかに「女性代表誕生」とはいかない党事情

安積明子政治ジャーナリスト
ポスト枝野は誰になるのか(写真:つのだよしお/アフロ)

女性候補を擁立できるのか

 10月31日に投開票された衆議院選は、直前の予想で「215議席に陥るかも」と言われた自民党が絶対安定多数の261議席を確保し(2021年11月17日現在で262議席)、「好調」とされた立憲民主党が獲得したのは96議席で、13議席も減らす結果となった。その責任をとって枝野幸男氏は11月12日に代表を辞任し、30日の臨時党大会で新代表が選出される予定だ。

 しかしながら今回の立憲民主党の代表選は、極めて悩ましい問題だ。ひとつは来年の参議院選に向けて、党を立て直さなければならない責務を背負うからだ。さらに女性候補の擁立だ。自民党は9月の総裁選で高市早苗政調会長と野田聖子少子化担当大臣が立候補し、女性の政界進出のシンボルとなった。かねてからジェンダー問題に取り組んできた立憲民主党としては、負けてはいられない。

 そうした中でいち早く名前が上がったのは、野田政権で厚労副大臣を務めた西村智奈美衆議院議員だ。その一方で「西村氏では全国的な知名度に欠ける」と懸念する意見もあった。また「西村氏の夫の本多平直元衆議院議員の問題が足を引っ張るのではないか」との危惧も聞かれた。本多氏は同党の「性犯罪刑法改正に関するワーキングチーム」で性交同意年齢を引き上げることについての発言が問題となり、7月に離党した上で議員辞職した。もっともこの問題は本多氏の発言自体が原因というよりも、リモート参加した学者とかねてからトラブルがあったため、発言が曲解されて大きくなったというのが事実と見られる。

辻元不在という痛手

 それでも代表選の候補として西村氏の名前が消えなかったのは、本来なら真っ先に候補とされるべき辻元清美氏が衆議院選で落選して、代表になる資格がないためだ。また知名度でいえば民進党代表を務めた蓮舫氏が抜群だが、その代表の座を1年で放棄した“前科”は消えていない。このように「本命」を欠いた立憲民主党で、西村氏の出馬の話はどんどん膨らんでいった。

 だが出馬に必要な20名の推薦人はなかなか集まらなかった。西村氏が所属する「国のかたち研究会」は16名で、これには足りない。そもそも立憲民主党内の各グループは、自民党の派閥のように人事や資金面でのサポートはほとんどなく拘束力が非常に弱い。ひとりで複数のグループに所属することもままあり、派閥のような票読みの材料とすることは不可能だ。

 なお立憲民主党には西村氏を含めて28名の女性議員がいるが、彼女たちが結束して西村氏を擁立する様子はない。 また総裁選で躍進した高市氏のように、安倍晋三元首相のような有力な後見人が積極的に票をとりまとめてくれたら「次」に繋げることも可能だが、鳩山由紀夫元首相や菅直人元首相などが野田元首相や枝野氏、前原誠司元外相などを抜擢した民主党時代はともかく、立憲民主党にはそうした奇特な有力者は存在しない。2017年に旧・立憲民主党が結成されて以来、「枝野・福山」体制がずっと続いていたのが何よりの証拠だろう。

代表選は泉VS逢坂の闘いに

「まだ推薦人が確実に確保できている状況ではないが、見えてきた」

17日に開かれた西村氏の決意表明会見の冒頭での石橋通宏参議院議員の微妙な言い回しは、党内に女性候補擁立についての期待と困難が入り混じっていることを示している。立憲民主党には女性候補擁立以上に深刻な「左右の闘い」があるからだ。

 国民民主党出身者で結成する「新政権研究会」を率いる泉健太前政調会長と党内最大勢力である「サンクチュアリ」が中心になって擁立する逢坂誠二元政調会長は、さっそく推薦人を確保して記者会見を行った。もっとも「サンクチュアリ」は一時、女性候補の擁立を模索し、西村氏の名前が上がったことがある。しかし泉氏が出馬する以上、泉氏より強い候補を応援する必要がある。

 そういう意味では「サンクチュアリ」のメンバーである小川淳也衆議院議員も出馬の意向を示したが、はじかれてしまった。小川氏は2020年6月に公開されたドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」がヒットしたため、知名度が上がっていた。また10月31日の衆議院選で香川県1区で宿敵の平井卓也前デジタル大臣を破り、話題にもなっている。

 小選挙区で勝ち上がった以上は代表選出馬資格があるというわけだが、小川氏には同選挙区で出馬しようとした日本維新の会の公認候補に対して「あなたが出たら僕が落ちる」と出馬断念をしつこく迫り、橋下徹氏にまで連絡したといった行動が報じられた。こうした行為は小川氏を確かに有名にしたが、政治家としての信用を高めるものではない。

 11月17日に党本部で開かれた説明会には、泉、逢坂、西村の各陣営の他、小川氏や大串博志元首相補佐官の5陣営が出席した。小川氏と大串氏は連携し、「2人で20名の推薦人を確保し、小川氏が出馬する」との話も流れたが、この日に会見が開かれなかったのはそれも困難ということだろう。告示日である19日まであと1日を残すばかりだが、この代表選に立憲民主党の命運がかかっていることは間違いない。

追記)西村智奈美氏は11月18日、20名の推薦人確保の目途がたったとして、代表選出馬を表明した。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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