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森ゆうこ議員質問通告問題に見た、国民民主党の危うさ

安積明子政治ジャーナリスト
森議員質問通告問題で、玉木代表はダメージを受ける?(写真:つのだよしお/アフロ)

森議員質問通告問題で野党調査チームを結成

 国民民主党の森ゆうこ参議院議員の15日の予算委員会での質問通告内容が外部に漏れていた件で、野党が17日に調査チームを立ち上げた。

「国会議員の質問権に関わることなので、俄然重い問題なので、徹底的にやっていきたいと思う」

 国民民主党の原口一博国対委員長はこう述べた。その前日、原口氏らは国会内で記者会見を行い、「(様々な疑惑を追及してきた森議員を)狙い撃ちにするのは国会に対する挑戦であり、これがどこから漏れたかということについて絶対に蔑ろにできない」と怒りを露わにしている。

 立憲民主党の安住淳国対委員長も「質問妨害に当たる可能性は高い」と述べ、国民民主党と共同歩調をとることを表明。共産党もこれに同調した。

 森議員は16日の会見で、「私の質問権の侵害であり、憲法51条に保障された国会議員の発言の自由、民主主義に対する挑戦だ」と述べるとともに、「私の質問を封じようとする動きがあるのではないか」と警戒心を露わにした。一体何があったのか。ことのあらましは以下の通りだ。

官僚の匿名アカウントが森議員に怒りを爆発させた理由

 10月15日の参議院予算委員会で質問することになっていた森議員は、11日午後4時過ぎに質問通告を提出。ところが同日夜、Twitterやネット掲示板で霞が関の官僚のものと思われるアカウントが次々と森議員を痛烈に批判して大騒ぎとなった。どうやら森議員の質問通告が遅れたために帰宅できないフラストレーションで、官僚たちが匿名アカウントなどを使って怒りを爆発させたようだ。

 この日は台風19号が関東地方に接近し、翌12日には上陸する見込みだった。気象庁は11日午前11時に会見し、1958年の1200人以上が犠牲になった狩野川台風に匹敵するものとして、次のように厳重に警戒するよう呼びかけている。

「自分の命、大切な人の命を守るため、風雨が強まる前に、夜間暗くなる前に、市町村の避難勧告などに従って早め早めの避難、安全確保をお願いします」

 実際に12日には、都内ではデパートやスーパー、コンビニの多くが休業した。交通機関も一部の地下鉄を除いて事実上の不通となった。消防や警察の最前線の指揮をとった総務省では、備蓄の食料が尽きてしまい、高市早苗大臣が500食のカップ麺を緊急調達。それもあっという間になくなったという。

「早く退庁して食料を買い込みたい」

 不安の中で多くの官僚はそう思ったはずだ。遅く帰宅すれば家族も心配する。

午後10時から本当の質問通告が始まった

 なお参議院では10月10日に「11日午後5時までの質問通告」を決定しており、森議員も午後4時過ぎには、“質問通告”を行った。それで終わればよかったのだが、森議員はその後も資料を出し続け、午後10時頃には通告省庁のファックスに以下の文面の手書きメモが付いた資料が流されている。

「順次各省庁別に詳細の要旨を作成しているとのこと」

 省庁にすればこの資料がわからないと質問の内容が確定しないため、答弁を作成できない。森議員は「通告時間は守った」として、午後5時以降の通告を正式な「質問通告」と見なさず、「念のための追加ペーパー」としている。そして「参議院予算委員会理事会は通告が午後5時までに行われたことを認めた」と胸を張るが、果たして参議院予算委員会の委員部(職員)が、国会議員の主張を否定できたのか。

さらにいえば森議員は15日に官僚たちを遅くまで待たせた事実を「終わった話」と斬り捨てたが、今回の問題の本質はまさにここにあるのではないか。すなわち、巨大台風の接近に命の危機を感じているのに帰れない官僚たちが、反乱を起こしたのだ。

 ところがそれを省みずに、質問事項が事前に第三者に流され、それがネットテレビで公表されたことについて、国民民主党は「憲法51条違反」や「公務員の守秘義務違反」だと主張する。では質問要旨は国家公務員法第100条の「職務上知ることができた秘密」に当たるのか。

法律上の問題ではなく、品格の問題だ

 外務省機密漏洩事件として知られる国家公務員法違反事件の最高裁判決などによれば、国家公務員法第100条の「秘密」とは「非公知の事実」であって、実質的にも「秘密」として保護するに値するものをいう(値するかどうかは司法が判断)。

 よって外務省職員にとっての外交機密や国税庁職員にとっての納税者情報などは、当然これに該当するものだ。しかし質問通告が「秘密」に該当するのなら、官僚が答弁作成のためにこれについて外部に問い合わせることなどは不可能になりかねない。

 実際に国家戦略特区に関する質問で、森議員は国家戦略特区ワーキンググループの座長代理である原英史氏に参考人出席を求め、原氏の元には内閣府を通じて質問通告が送られている。また立憲民主党などは前日に質問要旨をメディアに公開。また議員によっては個別に資料をくれるところもあり、質問通告は「秘密」とは到底言えず、たとえ官僚が外に漏らしたとしても、国家公務員法違反には問えないのだ。

では質問の前に質問通告を外部に流す行為は、国会議員の免責特権を認める憲法第51条に反するものなのか。憲法第51条は「院で行った演説、討論、表決について院外で責任を問われない」とするものだが、これは院外の者による法的手段による問責を禁止するもので、批判などの事実上の行為は含まれない。よって質問通告を外部に漏らす行為を憲法51条違反とすするのは的はずれに他ならない。

国会議員が質問する前に他者がそのテーマについて意見を表明することは、個人の表現の自由の範疇だ。ただしその態様などによっては違法とはいえなくても、人道上や品格の上で問題とある場合もあるだろう。

国民民主党のガバナンスは大丈夫か

 それにしても国民民主党には懸念を感じずにはいられない。今回の問題で玉木雄一郎代表が蚊帳の外に置かれているからだ。森議員らの16日の会見は玉木代表に事前に知らされず、同時刻に行われた代表会見で記者の質問で玉木代表は初めて知らされた。これでは玉木代表の面目は丸つぶれではないか。せっかくSNSや動画で党のイメージアップに務めようとしている玉木代表の足を引っ張りかねないのではないか。

 今回の森議員の質問通告問題は働き方改革や国会改革など、様々な重要な問題を孕んでいる。これらについて党を挙げて取り組もうとするならば、旗振り役は玉木代表であるはずだ。旧民主党がダメになったのは、自らが善とすることにただ猪突猛進したからだ。すなわち国民の目に自分たちがどう映っているのかが見えていない。そうした観点がなければ、政権奪還は夢のまた夢、さらに果てしなく遠い夢となるだろう。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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