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17歳の韓国系オーストラリア人、ピッツバーグ・パイレーツと契約

阿佐智ベースボールジャーナリスト
ジェイデン・キム(メルボルン・エーシズ)

 オーストラリアと言えば、この冬も、複数のNPB球団が現地プロリーグ、ABLに選手を派遣するなど、日本の野球ファンにとってもなじみの国だ。今年の春に行われたWBCにおいては、強豪・キューバに相手に3対4で惜敗したものの、初の準々決勝進出を果たすなど世界野球においてその存在感を増している。

 ウィンターリーグとして行われるABLには、地元オーストラリア人だけでなく、先に挙げたNPBの若手選手に独立リーガーが日本から、さらにアメリカのマイナーリーガーもスステップアップを目的としてこれに参加し、各球場は国際色豊かなものとなっている。このリーグからは毎年多くのオージーたちがMLB球団との契約を成し遂げ、メジャーリーグへの挑戦権を手にしている。この冬は現在まで26人のオーストラリア人選手がMLB球団との契約にこぎつけているが、26人目の選手はABLを通り越して一挙にアメリカ行きの切符を手にした。

 この夏、台湾で行われたU18ワールドカップでナショナルチームのショートストップを守っていた17歳のジェイデン・キムが、ピッツバーグ・パイレーツとのマイナー契約に合意したのだ。

この夏のU18ワールドカップではショートストップとして出場した。
この夏のU18ワールドカップではショートストップとして出場した。

 その名が示す通り、韓国生まれの彼だが、まぎれもない「オーストラリア人」だ。父であるデビッドは、またの名をキム・テミンといい、オーストラリアで生まれた「韓国系オーストラリア人」である。彼は、韓国のトップリーグ・KBOで最初にプレーしたオーストラリア人として、1990年代にソウルを本拠とするLGツインズで7シーズンにわたって在籍。一軍で4シーズン、通算111試合に出場、34安打を記録している。

 その父は、現役引退後、父祖の地である韓国に居続けたが、その時に生まれたのがジェイデンだった。韓国で野球を始めた彼は、ジュニア世代のプロスペクトとして注目されたものの、2年前家族とともにオーストラリアに移住し、国籍も取得した。

 あまり知られてはいないが、韓国人にとってオーストラリアは定番の移住先で、シドニー、メルボルンなどには大きなコリアン・コミュニティが存在する。韓国系オーストラリア人の数は、在豪日本人・日系人の約2倍の15万人以上とも言われている。

 野球関係では、KBOの他、日本のオリックスやMLBのメッツで活躍したク・デソンもハンファ・イーグルスでKBOでの現役生活を終えた後、シドニーに家族そろって移住し、ABLのシドニー・ブルーソックスでプレーを続け、クローザーとして2度タイトルを獲得している。2012年には、母国で行われた日韓台豪のプロリーグチャンピオンが集うアジアシリーズに、パース・ヒートの一員として出場し、故郷に錦を飾っている。彼は2013-14年シーズンを最後にいったんは現役を退くが、のち韓国人チーム、ジーロン・コリアがABLに加入すると、その初代監督に就任し、短期間の「現役復帰」も果たしている。

 キム一家は、メルボルンのあるビクトリア州に生活の拠点を定め、ジェイデンは近郊のサンドリンガムのクラブで野球を続けることになった。U16とU18の州代表となった彼は、この夏のワールドカップでは、ナショナルチームの一員としてプレーした。そして、この冬は、ABLのアマチュア枠である「デベロップメント・ロースター」を利用してオリックスの選手が派遣されているメルボルン・エーシズのメンバーとして名を連ねた(試合には未出場)。

 彼はメジャー球団との契約に際してこうコメントしている。

「野球人生の最初の頃からずっと、僕の目標はプロ野球選手になることでした。幼い頃からその夢に向かって努力してきましたが、スカウトやチームから注目を集めるにつれて、この夢を現実にできることを実感するようなりました」

 パイレーツには現在、この春のWBC代表でもあったブランダン・ビドイス投手が在籍しており、今シーズンはA級のブレイデントンでリリーフピッチャーとして22試合に登板。3勝6セーブで防御率1.99を記録している。

 これまでメジャーリーグでプレーしたオーストラリア人は28人。彼がその中に加わることができるのか、今後の彼の活躍に期待したい。

(写真提供 Baseball Australia)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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