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6シーズン目を迎えた中米グアテマラの小さなウィンターリーグ、「BIG」

阿佐智ベースボールジャーナリスト
グアテマラシティにあるエンリケ・トラポ・トレビアルテ球場

 中米グアテマラと聞いて、すぐにどんな国か思い浮かぶ人は少ないだろう。国際ニュースに詳しい人なら、豊かなアメリカに向かう難民の発生国あるいは中継地としてその名を頭にとどめているかもしれない。実際、この国では7割の子供が貧困状態に置かれているという。

 そんなグアテマラで子供たちの人気を集めているスポーツはサッカーなのだが、実はアメリカへの留学経験者などから野球も徐々に広まっており、日本の青年海外協力隊による普及活動も行われている。

 そのグアテマラにプロ野球リーグが発足したのは5年前の2018年のことだった。首都グアテマラシティに本拠を置く4チームからなるこのリーグは、残念ながらたったワンシーズンで頓挫してしまった。しかし、その翌シーズンからはその4チームのひとつであったロボスのオーナーであるフアン・ベルシェ氏が旗振り役となり、同じく4チームによるプロリーグ、「ベイスボル・インベルナル・デ・グアテマラ(BIG)」が立ち上がり、チームの入れ替えは毎シーズンのようにありながらも、今年で5シーズン目、前身リーグから数えて6シーズン目のシーズンを無事終えようとしている。

 入場料25ケツッアル(約500円)を取っているものの、野球人気のまだまだ低いこの国では多くの観客を集めているわけではない。スポンサー収入に頼る現状は変わりなく、現在は無給の選手がほとんどで、次のプレー先を探す選手にとってのトライアウトリーグ的性格を強くしている。

 そんなBIGに、今シーズンは6人の日本人選手が参加している。彼らには日本でのトッププロリーグ(NPB)でのプレー経験はない。独立リーグでプレーしていた、あるいはプレーしている者が4人、あとの2人はアマチュアでのプレー経験しかない。しかし、野球への情熱が断ち切れず、はるばるこの「野球の最果て」とでもいうこの国にまで来てプレーしている。

 今シーズンのBIGのフォーマットは、11月初旬に始まったレギュラーシーズンを各チーム20試合戦った後、上位3チームによるポストシーズンが行われ、12月上旬にシーズンを終える。そしてここで好成績を残した者には、上位リーグであるパナマやニカラグアでのプレーのチャンスが待っている。

MLBのスカウトが来ることはないが、指導者の多くがMLBの組織で働いたことがあり、ラテンアメリカ各国リーグとのコネクションをもっているため、パナマ、メキシコ、ニカラグアなど中米各国からの選手も集まる。
MLBのスカウトが来ることはないが、指導者の多くがMLBの組織で働いたことがあり、ラテンアメリカ各国リーグとのコネクションをもっているため、パナマ、メキシコ、ニカラグアなど中米各国からの選手も集まる。

 この国にはスタンド付きのスタジアムは首都グアテマラシティにひとつしかない。「エンリケ・トラポ・トレビアルテ」と名付けられたその球場は、市の中心部、セントロから数キロの公園内に位置し、週末となるとBIGの試合だけでなく、少年野球、アマチュア野球などで過密スケジュールとなる。

野球後進国グアテマラだが、それなりに整備された球場がある。
野球後進国グアテマラだが、それなりに整備された球場がある。

 シーズンも佳境に入った12月3日、3位争いを演じているロボスアギラスの試合が行われた。プロリーグ創設以来ウィンターリーグに参戦し続けているロボスだが、ここ近年は新興勢力のブロンクスの圧倒的な力の前に存在感を失いつつある。残り試合が少なくなる中、ディアブロスロッホスの2位もほぼ確定とあって、ポストシーズンに進出するにはどうしても落とせない試合となった。奇しくもBIGに参加している日本人選手は全員両チームのいずれかに参加。この試合にも、5人の選手が登場した。

5回無失点と好投した先発投手、小東(ロボス)
5回無失点と好投した先発投手、小東(ロボス)

 ロボス先発の小東良は、メキシカンリーグに在籍していた選手もラインナップに名を連ねるアギラス打線相手にコーナーを突く丁寧なピッチングで5回無失点。専門学校卒業後、社会人クラブチーム・三菱モータースで野球を続けた、27歳は、今シーズン初めて海を渡り、カナダのクラブチームでプレー。新たな経験を積むためにグアテマラにやってきた。

3安打と大暴れだった大下(ロボス)
3安打と大暴れだった大下(ロボス)

 先発投手の好投に打線も応える。初回内野安打で出塁したリードオフマン、大下達彦(前北海道ベースボールリーグ・砂川)が即座に盗塁を決めると、相手のバッテリーミスもあり、得点。大下は3回にもライト前ヒットの後、ホームに生還し、この日、3安打2得点1打点の大活躍だった。大下の大活躍に、同じくロボスのスタメンに名を連ねた土田佳武(BCリーグ・茨城)の「コールドしようぜ」の声があがる。その声に刺激されたのか、遅球をあやつるアギラスの現地人投手を打ちあぐねていたロボス打線が4回から爆発。6回に大量5点を入れ、10対0でコールド勝ちを収めた。

「引き出しを増やしたい」と昨年はオーストラリアンリーグに参戦。今年はグアテマラを冬のプレー地に選んだ茨城アストロプラネッツの土田(ロボス)
「引き出しを増やしたい」と昨年はオーストラリアンリーグに参戦。今年はグアテマラを冬のプレー地に選んだ茨城アストロプラネッツの土田(ロボス)

 この日のコールド勝ちに象徴されるように、今シーズンのBIGには大量点差の試合が多い。それはチーム間格差、チーム内格差、野球に専念している外国人選手と他の仕事をしながらリーグに参加している現地人選手との実力差という3つの「差」の結果なのだが、この国の野球の今後の発展は、この「差」をいかに埋めていくかにかかっている。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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