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トレンディエース、埼玉へ帰る。西崎幸広、埼玉武蔵ヒートベアーズ監督に就任【ルートインBCリーグ】

阿佐智ベースボールジャーナリスト
前監督の角球団社長(右)と記者会見に臨んだ西崎新監督(左)

トレンディエース、埼玉へ帰る

「断る理由なかった」。西崎幸広は21年ぶりに ユニフォームに袖を通す決心をしたことについてきっぱりと言った。

 昭和終わりから平成の初め、いわゆる「バブル」時代。プロ野球選手と言えば、パンチパーマに金のネックレス、派手な色合いのスーツといういで立ちが当たり前だった。その中でさっそうと姿を現したのが、パ・リーグ各球団の若手投手たちだった。今でいう「イケメン」の若手エースたちは、当時流行していたDCブランドに身を包み、当時閑古鳥が鳴いていたパ・リーグの球場に女性客を呼び寄せた。メディアは当時テレビ界を席巻していた一連のドラマになぞらえて、彼らを「トレンディエース」と呼んだが、その筆頭格が西崎だった。

 その西崎が21年ぶりにフィールドに帰ってきた。

「現役最後の4年間、西武ライオンズでお世話になったんですけど。それ以来ですね」

 昨日27日、埼玉武蔵ヒートベアーズ前監督の角晃多とともに臨んだ共同記者会見に姿を現したかつての「トレンディエース」は、現役時代よりいくぶんふっくらしていたが、その甘いマスクは58歳になる今も健在だった。

 現在、解説者としてベンチ裏から野球を観る一方、ユーチューバーとしても活躍している西崎が「実際に観たことはない」という独立リーグの世界に飛び込むきっかけは、自身のユーチューブチャンネルだった。ひと月前、自身の番組に日本ハム時代のチームメイトだった角盈男の次男でヒートベアーズ監督の晃多を呼んだのだが、その時点では、独立リーグを紹介したいという気持ちだけで、まさか自分が監督になるとは考えてはいなかった。

 ところが、今シーズンで5シーズン務めた監督を退任し、兼任していた社長業に専念することになった角から監督就任を打診されたのだ。その時は返答を保留した。なにしろ独立リーグのことは何も知らない。そんな自分でいいのだろうか。

 迷う西崎の背中を押したのは、ある現役NPB監督だった。

「お金じゃない。育てる喜びを味わってみろ」

独立リーグ監督就任への思いを語った。
独立リーグ監督就任への思いを語った。

全ては白紙。昔の野球ではなく、今の選手に合わせた野球を

「すべては白紙」と西崎は、チームの指揮をとるに当たっての方針についてゼロからのスタートを強調した。

「昔の野球ではなく、今の野球も取り入れて、選手のやりたい方向性でやっていきたいと思います。なにしろ選手は僕のことなんかもう知らないでしょう。自分が現役時代、兄貴的な監督の方が話がしやすかったので、そうしたい。もっとも選手は自分の子どもより年下の年代なんで、どこまでできるかはわからないですが(笑)。上から押しつけるような指導はしたくない」

 背番号は日本ハム、西武で送った15年の現役時代につけていた21。久しぶりに袖を通すユニフォームには、

「こだわりはなかったんですけど、球団の配慮で現役時代と同じのにしてもらいました。野球教室なんかではユニフォーム着てたんですけど、(ユニフォーム姿で現場に立つのは)やっぱりわくわくしてきますね」

 初めての指揮となるが、これについても西崎は独自の野球観を示す。

「(試合になれば)監督はなにもしない方がいい。選手に頑張って欲しい。ただ、バックアップが必要なのでファンの声援が不可欠です。皆さんには是非とも球場に足を運んで欲しいですね」

 自分が招かれた理由は十分承知している。独立リーグは、ただ単に勝利を目指す場所ではない。上位リーグであるNPBに選手をどれだけ送り込むかが本当の意味での勝負である。選手を送り込むことがチームの存在価値、認識度を高め、もうひとつの目的である地域貢献にもつながってくる。この両輪がうまく回ってこそ、スポンサーも集まってくる。自らが広告塔となる覚悟も十分にできているようだ。「トレンディエース」にちなんだ質問にもこころよく答えていたことにそれはあらわれている。シーズンが始まれば、投手陣から「2代目トレンディエース」を指名することもジョーク交じりに発表していた。

 不人気だった時代のパ・リーグを知っている新監督は、自身の苦い経験を踏まえて、ホームゲームでの様々な企画にも先頭立って取り組んでいくことも宣言した。

「やっぱり何かをしないとお客さんは来ない。僕らが現役のときも何かイベントがあると、お客さんたくさん来たんですよ。(タレントである)娘に始球式でもしてもらおうかな。コネも少し使って(笑)」

 監督を退き、球団経営に専念することになった角前監督は西崎の監督就任についてこう語った。

「西崎さんは、もともと候補のひとりとして考えていました。独立リーグについて、熱い思いをもっている人にして欲しいという思いがあって、西崎さんが決心してくださったので、こういうかたちになりました。球団としてのあり方はすでにお伝えしましたが、その道のり、方法論についてはお任せします。もちろんペナントレースを戦うのですから優勝はひとつの目標です。優勝の自信はもちろんあります。楽しみにしていてください」

 会見の最後に西崎は独立リーグについての思いをこう語った。

「魅力はたくさんありますよ。野球人口が減っている中で、独立リーグは、ドラフトに一旦かからなかった選手でも再チャレンジできるという点で魅力のある存在です。プロ(NPB経験者)に教えてもらえる場として野球少年たちに夢を与えてもいます。ここからひとりでも多くの選手をNPBに送り込みたいですね」

 毎年NPBへ選手を輩出している一方、観客動員は長期的減少傾向にある独立リーグ。そこに新たなトレンドを吹き込むべく、背番号21が21年ぶりに帰ってくる。

(写真は埼玉武蔵ヒートベアーズ提供)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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