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グアテマラウインターリーグ、コロナ禍にあって3年目のシーズンを終了

阿佐智ベースボールジャーナリスト
優勝杯を手に選手と喜びを分かち合うフアン・ベルシェ氏(右)

 コロナ禍に見舞われた2020年も終わりを告げようとしているが、「冬野球」は世界各地でなんとか実施されている。2018年に始まった中米・グアテマラのプロ野球だが、存続が不安視される中、今シーズンも開催され、現地時間12日にファイナルシリーズ最終戦が行われた。

中米という「ニッチ(隙間)」に生まれたプロ野球

 中米グアテマラはメキシコの南に位置する人口1400万人の小国である。歴史的に北の大国、メキシコとのスポーツを通じた交流が行われ、1926年にキューバを加えた3カ国で中央アメリカカリブ大会(当時の名は中央アメリカ大会)が始められている。

また、メキシカンリーグの試合にもグアテマラ人ファンが遠路はるばる応援に駆け付けるなど、一定数の野球ファンが存在する。しかし、サッカーが圧倒的な人気を誇る中、野球の競技者数は少なく、1994年になってウーゴ・ピバラルがドジャースと契約するに及んでようやくマイナーリーガーが誕生した。投手だったピバラルはA級のトップリーグまで昇格したが、3年で14勝を挙げただけでアメリカを去っている。

 そんなグアテマラの野球マーケティングに目をつけた現地資本家がプロリーグを立ち上げたのが2年前のことである。しかしこの初代リーグは1シーズンで頓挫してしまった。そして、昨年はこの国の第46代大統領・オスカル・ベルシェの甥にあたるフアン・ベルシェ氏が新たに「グアテマラウィンターリーグ(Beisbol Invernal de Guatemala, BIG)」を立ち上げこの国のプロ野球の灯をともし続けた。

 BIGとして2年目を迎えた今シーズンは、コロナ禍にありながらも、昨年より3試合多い1チームあたり24試合のレギュラーシーズンを11月末から年をまたいで無観客で実施、プレーオフでチャンピオンを決めた上で、昨年は休止となった国際シリーズ・ラテンアメリカンシリーズに出場の予定であった。しかし、結局、レギュラーシーズンは各チーム6試合のみとなり、1位対4位、2位対3位の一発勝負のノックアウト方式のプレーオフで決勝シリーズ出場チームを決め、その勝者が5戦3勝式でシーズンチャンピオンを争うことになった。

前年チャンピオンのブロンクス
前年チャンピオンのブロンクス

 参加チームは、3シーズン目を迎えるロボス(ウルブズ)の他、2年目のブロンクス、新規参入のマリネロス(マリナーズ)、ディアブロス(デビルズ)の4チーム。このうち、ロボスとマリネロスがリーグ運営会社の所有で、ブロンクスとディアブロスにはそれぞれ別のオーナーがついた。

新規参入のマリネロスは最下位からの「下剋上」でチャンピオンシップに進んだ
新規参入のマリネロスは最下位からの「下剋上」でチャンピオンシップに進んだ

「BIGはグアテマラに野球を広め、エリートプレーヤーを育成するプロジェクトです。現状では、興味を示すひとびとには参入のドアが開かれていますよ。現在は首都グアテマラシティですべての試合を行っていますが、将来的には、自治体と協力の上、各チームにフランチャイズを持たせたいと思っています」

とベルシェ氏は言う。

 いまだ十分なスポンサーも集まらないよちよち歩きの新リーグにとって、コロナ禍が大きな痛手になったことは間違いない。無観客試合となった結果、大口スポンサーが撤退。それでも史上初めて試合の模様がテレビ放送されたことだとベルシェ氏は胸を張る。

コロナ禍の中、短いシーズンを終了

レギュラーシーズン首位のディアブロスだったが、一発勝負のプレーオフで敗れ去った
レギュラーシーズン首位のディアブロスだったが、一発勝負のプレーオフで敗れ去った

 各チームたった6試合のレギュラーシーズンは11月14日に開幕。12月4日にそれを終えると、一発勝負のプレーオフに突入した。プレーオフの初日はレギュラーシーズン2位のロボスが順当に勝ち上がったが、翌日の対戦では4位マリネロスが1位ディアブロスを破る「下剋上」が起き、12月8日からのファイナルシリーズは3年連続の進出となるロボスとマリネロスの対戦となった。

 前身リーグ時代の2018年はレギュラーシーズン首位で通過しながらもファイナルで下剋上を許し、昨年はレギュラーシーズン2位から3位チームとのプレーオフを勝ち抜き下剋上を狙ったものの、新球団ブロンクスの軍門に下ったロボスだったが、今年のファイナルシリーズは3勝1敗とレギュラーシーズン最下位からの「究極の下剋上」を狙うマリネロスを寄せ付けず、悲願の初優勝を遂げた。

優勝を喜ぶロボスの選手たち
優勝を喜ぶロボスの選手たち

 なんとか3年目のシーズンを終えたグアテマラのプロ野球だが、まだまだ課題は多い。コロナによる入国制限の中、アメリカやラテンアメリカ諸国から多くの助っ人選手が集まり、その数はロースターの3割強にも及んだ。国内選手でアメリカでのマイナー経験のある選手はほんの数名で、そのうちのひとり、ロボスの主力打者、マヌエル・エルナンデスは5シーズンのマイナー生活のキャリアハイは3段階あるA級の最下位クラス。日本の独立リーグ、ルートインBCリーグのトライアウトも受験したが、選手契約に至っていない。国内トップ選手でさえその程度のレベルでは、プロに耐えうるゲームを見せるのは難しく、それゆえ多くの外国人選手を受け入れているのだが、その彼らのキャリアもマイナーの下位レベルのものがほとんどだ。正直なところ、現在のプレーレベルは日本の独立リーグよりはるかに劣るものである。

 それでも、ベルシェ氏が私財を投じてまでこのプロリーグを何とか続けていこうとするのは、彼自身の野球愛ゆえである。実は彼自身、アメリカの大学での投手としてのプレー経験があり、ナショナルチームでのプレーの実績や指導者経験もある。まだ29歳の彼は、BIGでもプレーの希望を持っているのだが、プロリーグ発足にあたって、リーグ、球団オーナーがフィールドにいることは審判のジャッジの公平性が脅かされると禁止されたのだ。

「2022年には中央アメリカカリブ大会が開かれます。これには私も参加するつもりなので、BIGのシーズンが終われば、トレーニングを再開します」

 苦しいリーグ運営だが、自身の「現役続行」とともに、BIGの継続もベルシェ氏は約束してくれた。

コロナ禍の中マスク着用でプレーする選手もいた
コロナ禍の中マスク着用でプレーする選手もいた

(写真はすべてBIG提供)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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