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元NPB投手が相まみえた真夏の白昼の決闘:ルートインBCリーグ・栃木対茨城(栃木・佐野)

阿佐智ベースボールジャーナリスト
15日の試合、茨城の先発マウンドに登った元ヤクルトのラファエル・フェルナンデス

 暑さが続く日本列島。こと内陸部になると、温度計は天井知らずに上昇し、酷暑としか言いようのない暑さになる。こんな日は、ナイターで夕涼みといきたいところだが、町の郊外にある地方球場を主戦場とする独立リーグは、真夏でもデーゲームが多い。お盆休みということもあってか、全国各地で猛暑日となった15日、栃木県佐野市で行われたルートインBCリーグ公式戦・栃木ゴールデンブレーブスと茨城アストロプラネッツ戦は、前日とホームアウェイを入れ替えて実施された。

 酷暑の中での試合とあって、人気球団・栃木のホームゲームとしては、326人という少々寂しい入りであったが、この日、球場に足を運んだファンは得をしたに違いない。両軍とも、国際大会代表チームでプレーした元NPB投手が先発し、最後は野球の醍醐味が詰まったフィナーレを飾ったのだから。

栃木対茨城の試合が行われた佐野運動公園野球場
栃木対茨城の試合が行われた佐野運動公園野球場

「ナショナルチーム代表投手」の対戦

 前日は、中盤まで食らいつきながらも、最後に地力の差が出て負けてしまった茨城だが、この日は、前回登板で「第1先発」として2イニングを投げた元ヤクルトのラファエル・フェルナンデスを先発に立ててきた。5年ぶりのプロとしての現役復帰とあって、いまだ起用法の一定しないフェルナンデスだが、前日はベンチを離れ、休養も十分で期待が持てる。

茨城先発のフェルナンデス
茨城先発のフェルナンデス

 ブラジル出身の彼は、これまで何度も代表チームのメンバーに入っている。延期となってしまったが、この春開催予定だったWBC予選に出場すべく、通訳をしていた日本ハムを退団。独立リーグで、現役復帰を図っている。

 一方の、栃木先発は、成瀬善久。いわずもがなかつてのロッテのエースだ。彼もまた北京五輪で日の丸を背負っている。

栃木の先発、成瀬
栃木の先発、成瀬

 1つ年下のフェルナンデスは、NPB通算96勝の成瀬をリスペクトしているようで、両軍の試合の際には、お互いよく話をしている。それでも、マウンドに登れば、敵は打者だと、相手チームの先発投手としての成瀬は気にならなかったと言う。

 初回は、ともに3者凡退の上々の立ち上がり。2回表、2アウトから、成瀬は昨日2ホーマーの水野貴志(亜細亜大)に外角のストレートをライト線にもっていかれ2ベースを浴びるが、後続を打ち取り事なきを得た。

 先に点を取られたのは、フェルナンデスだった。ブラジル代表のチームメイト、栃木の主力打者ルーカスとの対戦をレフトフライで制するなど、「第1先発」として3回を無安打2奪三振1四球という「満点」に近い結果に、ベンチが色気を出した。「まだいける」のフェルナンデスの声を聞いて4回のマウンドに送り出したが、おそらくマウンド上は40度を軽く超えているだろう暑さにバテが来たのか、この回から制球が急に悪くなった。先頭打者に粘られ1アウトに8球も費やしてしまったフェルナンデスは、続く打者にストレートの四球を出してしまう。そして4番の片山誠也(SUNホールディングス)への3球目、変化球が甘く入ったところをレフトスタンドに放り込まれた。この後、続く打者をサードフライに打ち取るが、その後、連続四球。とくに最後の打者への初球は、キャッチャーが飛び上がってなんとか捕球するなど、ボールが手についていないようだった。茨城ベンチはここでフェルナンデスをあきらめ、継投策に出た。

 4回までは2安打3奪三振と危なげないピッチングを披露していた成瀬だったが、5回、先頭打者の前打席でツーベースを放っている好調の水野に四球を与えると、次打者のライト前へ抜けるかと思われたゴロを捕ったセカンドがショートへ悪送球(記録は野選)。ここで茨城ベンチは、8番の池田瞳夢(ひろむ)にバントを命じるが、これがファースト前への強い当たりになった。これでセカンドランナーが三塁封殺、続く打者もピッチャーゴロに倒れ、万事休すかと思われたが、1番の主将・上杉泰賀(都立府中高)がライト前タイムリーを放ち2点を返した。成瀬はこの回限りでお役御免となった。

ヒリヒリした試合の最後を飾ったホームラン

 この後試合は、両軍ゼロ行進。茨城のリリーフ陣が強力栃木打線をしのぐ一方、それを助けるべき打線は、高校時代は野球のできるグラウンドがなかったという萩原龍衛(りゅうへい)のさして勢いのないストレートを打ちあぐね、彼が投げた2イニングとも、先頭打者が四球で出塁しながら、次打者が絵に描いたようなサードゴロゲッツーに終わるなど、進めるべきランナーをきちんと進められず、「あと1点」が奪えない。8回の攻撃も2アウトランナーセカンドの場面で出た火の出るような当たりのライナーも、相手のファーストミットに収まってしまった。

同点の場面で登場した茨城のクローザー、小沼だったが…
同点の場面で登場した茨城のクローザー、小沼だったが…

 表に出ないミスは、最後に浮かび上がってくる。リーグルールの時間制限により最後の攻撃となった8回裏。茨城はクローザーのドラフト候補、小沼健太(東総工業高)をマウンドに送る。本調子でなく、制球に苦しみながらもMAX150キロ右腕の小沼は、ツーアウトを取るが、この後の打者が放ったサード後方にフラフラっと上がったフライを茨城のディフェンス陣は捕ることができない。この打球じたいはファールとなったが、小沼はここで四球を与えてしまう。そして、ホームランダービー3位につける6番内山翔太(桐蔭横浜大)が、初球ファールの後、振りぬいたバットから放たれた打球はライナーで草が生い茂るレフトスタンドへ突き刺さった。

サヨナラホームランを打ち、満面の笑みをたたえながらホームインする内山
サヨナラホームランを打ち、満面の笑みをたたえながらホームインする内山

 これで栃木は8連勝、茨城は8連敗。コロナ対応のフォーマットのため、この間、両チームが互いと違う相手と対戦したのは1度のみ。明日は久々に両チームは対戦相手を変える。

試合後のヒーローインタビューを受ける内山
試合後のヒーローインタビューを受ける内山

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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