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「宮崎ダービー」。オープン戦九州上陸。いよいよ始まるサバイバルゲーム

阿佐智ベースボールジャーナリスト
昨日オリックス対ソフトバンク戦の行われた宮崎SOKKENスタジアム

 この週末の3連休、オープン戦が13試合予定されている。2月中のオープン戦は各球団ともキャンプ中ということもあり、そのほとんどが沖縄での開催だが、昨日23日には宮崎でオリックス対ソフトバンク戦が行われた。現在、宮崎市ではオリックス、ソフトバンク、巨人の3球団が一軍キャンプを実施しているが、このうち巨人は宮崎で体づくりを終えると、沖縄へ移動し、練習試合中心の2次キャンプを行うようになっている。かつては宮崎での巨人戦がオープン戦の本格的な開始とともに早春を告げていたが、オープン戦の本土初上陸となる両球団による「宮崎ダービー」は、今や球春の本格到来を告げる風物詩となっている。

かつて「キャンプ銀座」だった宮崎

 今では「キャンプ銀座」と言えば沖縄が定番となっているが、かつては四国の高知と九州の宮崎がその中心であった。その宮崎の象徴はここを春の本拠とする巨人だった。

 宮崎市は今でいうスポーツツーリズムにいち早く目をつけたところで、1959(昭和34)年、閑散期である2月に人気球団の春季キャンプを誘致することによって新たな観光需要を生み出すのに成功した。その後、県内では広島、中日、近鉄などもキャンプを行うようになり、昭和の終わりごろには連日宮崎県内でのキャンプの様子が、テレビニュースで伝えられていた。

 平成に入ると、室内練習場の整備が進んだこともあり、雨が多いという欠点はあるものの本土より温暖な沖縄がキャンプの中心となっていった。それでも、現在宮崎県内では市内の3球団の他、西武、広島(後半は沖縄へ移動)、ヤクルト二軍、楽天二軍、そして韓国のトゥサン(2次キャンプ)、それにサッカーJリーグの19球団がキャンプを実施している。

 その中でも「キャンプ地宮崎」のイメージの主役はやはり巨人である。とくに巨人がプロスポーツの中で圧倒的な存在感を示していた平成の前半までは、キャンプ期間中は日本のスポーツメディアが「民族大移動」したかのように宮崎市内はにぎわった。その「ジャイアンツ景気」に報いるべく、2001年には収容3万人のサンマリンスタジアムをキャンプ地の県総合運動公園内に建設した。

オリックスがキャンプをはる清武運動公園のメイン球場、SOKKENスタジアム
オリックスがキャンプをはる清武運動公園のメイン球場、SOKKENスタジアム

 一方で、沖縄にキャンプ地が集中していく中、それまで宮崎県内でキャンプを張っていた球団も沖縄にキャンプ地を移転、もしくはその重心を沖縄に移していった。その流れに逆行するように2004年からは前年の秋季キャンプに市内の生目の杜運動公園を利用したソフトバンクが春季キャンプをここで張るようになり、2015年にはオリックスが沖縄から清武総合運動公園にキャンプ地を移した。

 しかし、2011年からは「主役」の巨人が実戦中心の2次キャンプを沖縄で行うようになると、宮崎県内でのオープン戦は激減した。そういう中、宮崎で最後までキャンプを張る両球団による「宮崎ダービー」は宮崎の野球ファンが観ることのできる貴重なオープン戦となっている。

満員になったSOKKENスタジアムでのオープン戦
満員になったSOKKENスタジアムでのオープン戦

 

 両チームがはじめてこの「ダービーマッチ」を行ったのは、オリックスがキャンプ地を移してきた2015年。ソフトバンクの「ホーム」、アイビースタジアムでの試合だった。昨年にもひさかたぶりに同球場で試合が予定されていたが、雨天中止となってしまった。

札止めになった「宮崎ダービー」。ここから始まる熾烈な生き残りをかけた戦い

地元少年野球選手による始球式で「宮崎ダービー」は始まった
地元少年野球選手による始球式で「宮崎ダービー」は始まった

 青天のポカポカ陽気に恵まれた昨日の試合は前売りの段階でチケットは売り切れ。宮崎の野球ファンの期待のほどがうかがえた。会場のSOKKENスタジアムを本拠とするオリックスのファンだけでなく、同じ宮崎でキャンプを張る昨年の日本シリーズチャンピオン、ソフトバンクのファンも多数訪れ、試合開始時には、内野スタンドと外野芝生席は4013人のファンで大入りとなった。

多くの観客の集まる近年のプロ野球キャンプはお祭り空間と化している
多くの観客の集まる近年のプロ野球キャンプはお祭り空間と化している

 試合の方は、4番に今シーズンの新外国人選手の目玉と言っていいジョーンズを据えるなど、開幕を見据えたスタメンで臨んだオリックスを、来日の遅れた両キューバ人選手の名がないなど「お試し」メンバーの目立ったソフトバンクが10対4と圧倒し、層の厚さをみせつけた。

 その主役は、昨年秋のプレミア12で侍ジャパンの稲葉監督の大抜擢を受け、「代走屋」としてみごとその期待に応えた周東だった。

 東京五輪を前に、「人数を絞らざるを得ない中、一芸に秀でているだけではメンバーには選べない」と厳しい言葉を投げられた周東にとって、今季の目標は、もちろんポジション奪取だ。この日は、1番セカンドで出場、途中レフトに回り、最後はサードで好プレーを見せ、試合後工藤監督からもそのフィールディングに及第点を与えられていた。しかし、この日観客をわかせたのはプレミアでは見ることのできなかった打撃の方だった。

オリックス期待の新外国人、ジョーンズはまだ調整段階のようだった
オリックス期待の新外国人、ジョーンズはまだ調整段階のようだった

 初回、オリックス先発・荒西の3球目を叩くとライナーの打球はまだ動きが重そうなジョーンズの差し出したグラブの先を抜けていった。ジョーンズがボールをつかんだ時には、周東はすでに2塁ベースを蹴っていた。

 残念ながらこのチャンスは後続が続かず先制はならなかったが、ノーアウト1,2塁で迎えた3回の打席では初球ファールの後の内角球を第一打席と同じように叩くと、今度は打球は外野フェンスを越えていった。そして、先頭打者として迎えた5回の第三打席はライト前ヒットでチャンスメイクすると、試合を決定づける4得点のきっかけを作った。

 こうなるとオープン戦ながらサイクルヒットの期待が高まったが、その後はセカンドゴロゲッツー、レフトフライに終わった。しかし、ポジション奪取の予感を感じさせる大活躍だった。

 そしてもうひとり、キャンプからそのパワーが注目され、育成選手ながらこの日のスタメンサードに抜擢されたリチャードも4打数2安打の大活躍でファンに大きな印象を与えた。とくに8回に放ったホームランは打った瞬間にそれとわかる特大ホームランだった。どこまで飛んでいくのだろうとスタンドの皆が見つめる中、打球は外野スタンドを越えた土手にぶち当たった。

試合後のコメント

工藤監督

――周東について

「1番バッターとして積極的にいってくれている。長打についてもパンチ力がつくようなフォームづくりをキャンプで取り組んだ結果ですね。足の速い人が塁に出るとやっぱり相手にプレッシャーを与えられますから。ポジションも今日は3つ守らせましたけど、たくさん守れるということは、誰にとってもチャンスが広がりまし、チームとしてもバリエーションが広がります」

――リチャードについて

「あの打球は凄かったねえ。第一打席で1本出たのがいい結果につながったんじゃないかな。いろんな球に対してのタイミングの取り方に対処できるようになってきた。キャンプから取り組んできたことだけど、自分でそれを学んで試合で続けていったほしいですね。今日は、若い人がハッスルしてプレーしていたのがキャンプの成果でしたね」

周東選手

――オープン戦1号について

「積極的に自分から仕掛けていきました。待っているとどんどん追い込まれるので。打ったのは真っすぐです。ちゃんとしっかり叩けました。打った瞬間いくかなとは思ったんですけど。でも、ホームランを打つバッターではないので、そのあたりは足元をしっかり見ていきたいと思います。とにかく最初に1本出たのでほっとしましたね」

――サイクル安打に話が及ぶと、顔がほころんだ。

「意識しないわけないじゃないですか(笑)。第3打席はセカンドまで行こうかとも思いましたが、無理でしたね」

――これまでサイクルヒットの経験はあるのかという質問には、

「ホームランないんだからあるわけないじゃないですか(笑)。長打は狙ったわけではありません。キャンプから強い打球を打つことを意識してきた結果ですね。僕は(プレミア12で)秋のキャンプもできていませんから、みんなより練習量が少ないですよね。リチャードなんか見てたら、やっぱり意識しますよね」

 周東自身、今は試されている期間であることは十分に自覚している。好調を維持していかないことには、これから主力クラスが次々と定位置に収まっていく。

「とにかくうわつかず、自分がアピールする立場ってことをしっかり自覚してやりたい」

と気を引き締めていた。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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