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「同級生」榊原翼(オリックス)、伊藤翔(西武)に続け!新球団茨城アストロプラネッツ期待の星、小沼健太

阿佐智ベースボールジャーナリスト
ルートインBCリーグの新球団茨城アストロプラネッツの若きエース、小沼健太

 独立プロ野球リーグ・ルートインBCリーグに今年から新球団が加わった。茨城県にできた新球団の名はアストロプラネッツ。広い県内各地で公式戦を開催しているが、年号が代わった5月は坂東市岩井、結城市鹿窪球場で主催試合を行った。

 昨年夏に正式加盟が承認されてからの戦力整備は、分配ドラフトによるものが中心。他球団に比べてもメンバーはどうしても見劣りがする。5月2日現在で、所属する東地区で5位福島レッドホープスに1ゲーム差の最下位と苦戦している。

 新生球団として、戦力が整っていないのは、球団の立ち上げからチームを見続けてきたGM兼ヘッドコーチの長峰昌司(元中日・オリックス)も認めるところだ。しかし、地元出身者として長峰は、「目先の勝利より育成」と球団の理念を強調する。

 「まあ、新しい球団と言うことで苦戦はすると思っていました。選手も他のチームみたいに独立リーグで何年もやっている選手はほとんどいませんから。オーバーエイジもひとり、外国人もひとり獲りましたが、若い選手です。彼もビデオを見てNPBにかかればいいなと思って獲りました」

 BCリーグでは、選手育成とセカンドキャリア構築の観点から選手登録に現在27歳という年齢制限を設けている。ただし、5人のオーバーエイジ枠が与えられ、各チームはこの枠を使って主力となるベテランを補強している。しかし、茨城球団は、若い選手の育成が独立リーグ球団の使命だとして、基本的は元プロ(NPB)選手のようなベテランの補強はしない方針を採っている。唯一使ったオーバーエイジ枠は、独立リーグ9年目を迎える地元出身のベテラン、小野瀬将紀だけである。

 そんなチームにあって、孤軍奮闘しているのが、昨日、4日に先発した小沼健太だ。4月6日に地元ひたちなか市で迎えた開幕戦。味方の援護もなく敗戦投手となったものの、昨年の村田修一(現巨人コーチ)に引き続き、今年は「スピードスター」・西岡剛(前阪神)を入団させるなど、「元NPB」組による積極的な補強策で話題を集める栃木ゴールデンブレーブス相手に、150キロ代の快速球を連発し、一躍ドラフト候補に名乗りをあげた。ここまでチーム勝ち星の半分の2勝を挙げている。

登板試合前日にインタビューに答えてくれた小沼投手
登板試合前日にインタビューに答えてくれた小沼投手

 今年高卒3年目の20歳は、隣県の千葉県出身。中学時代から地元ではちょっと知られた存在だったという。しかしその頃はプロなど夢のまた夢。自分のチームではお山の大将でも、地域の選抜チームに混じれば、そこに大きな壁が立ちはだかっていた。

「彼はもうその時点で140キロ出してましたからね。僕はせいぜい130キロ。ああいう奴がプロに行くんだなって思っていました」

 その「壁」だった榊原翼は、プロへの階段を昇っていった。埼玉の名門、浦和学院高校へ進むと、甲子園の舞台に立ち、オリックス・バファローズから育成2巡目でドラフト指名。2年目に支配下選手登録されると、3年目の今年は先発ローテーションの座を手中にしている。

 一方の小沼は、地元高校に進学、甲子園の土を踏まぬまま高校を卒業することになった。大学への進学も考えたのだが、学費のことなども考えると親に負担もかけたくない。そしてなによりも高校時代に伸びた球速は、プロへの扉の前にかかっていた濃い霧を小沼から取り払っていた。高校2年の時には、対戦相手校のアドバイザーをしていた日本独立リーグの父とでもいうべき石毛宏典(元西武など、2005年四国アイランドリーグを創設)の目にそのピッチングがとまり、その縁もあってBCリーグの武蔵ヒートベアーズに入団する。

 自分と同じく高卒でプロへの「最短距離」である独立リーグという道を進んだ同郷の伊藤翔も刺激になった。1年で西武から本使命を受け、NPBへの扉をこじ開けた伊藤と成人式の2次会で再会したとき、小沼のNPBへの意志はますます固まった。しかし、その思いとはうらはらに、武蔵で残した成績は2年間で6勝12敗。防御率5.88は通常ではNPBなど考えられない数字である。しかし、そういう数字にもかかわらずNPBのファームと対戦すべく結成されるリーグ選抜チームに召集されたことは、彼のポテンシャルに期待するリーグ関係者が多かったことを示している。

 そんな小沼に目をつけたのは茨城球団GMの長峰だった。開幕後はヘッドコーチとして現場で小沼を見続けている長峰は、「獲ったからには責任重大ですよ」と荒削りのエースに期待を寄せる。

 先発した昨日3日の新潟アルビレックス戦には、NPB球団からもスカウトが来訪し、小沼もがぜん力が入った。

 しかし、この日の小沼は気負いのせいか、今ひとつ球が走らない。試合開始早々、先頭打者にライト前ヒットを許すと、続いてツーベースを浴び、いきなり1失点。

 それでも2、3回は、ここまでチーム打率.321を誇る強打の新潟打線を3者凡退に打ち取り、味方打線も2回に同点に追いついてくれたのだが、4回、新潟の新外国人ピメンテルに5号ツーランを場外に運ばれてしまう。

 そして、6回、先頭打者をエラーで出塁させ、続く打者に死球を与えると、次打者をセカンドゴロに打ち取ったところでお役御免となった。小沼は5回1/3を4失点、自責3でマウンドを降り、2敗目を喫した。

 試合後小沼は、「全然でした」と一言。チームに勝ちをつけるという試合前の目標も遂げることができず不本意なマウンドに終わった。

スカウトの前でいいところを見せたかった小沼だったが
スカウトの前でいいところを見せたかった小沼だったが

 試合の方は、終始新潟が圧倒し、9回まで6対1と半ば勝負ありという展開だったが、新潟のリリーフ陣が、ピリッとせず、3点を返されてしまう。しかし、茨城はこの後が続かなかった。

 2点差で2アウト満塁の場面で、外角球に全く対応できず、4三振を喫していたベネズエラ出身の新人選手ジュニアをそのままバッターボックスに送ったものの、やはり外角の変化球をハーフスイングで三振しゲームセットとなった。さすがの陽気なベネズエランもこれには相当責任を感じていたようで、試合後は涙を浮かべながら、独立リーグ恒例のファンの見送りに参加していた。

 勝敗だけにこだわるならば、代打という策もあったのだろうが、そこは育成重視のチーム方針、あえて主砲に託したのだろう。

豪快なフルスイングが魅力のジュニアだったが
豪快なフルスイングが魅力のジュニアだったが

 この日の敗戦で、4勝10敗、ついに勝率3割を切ってしまった。それでも、終盤の追い上げに、この日スタンドに集まった586人のファンは、「いいゲームだった」と暖かい声援を送っていた。

 新生球団、茨城アストロプラネッツの奮闘は続く。

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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