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韓国野球レポート2019:「身売り」はしないが、名前は変わる不思議な球団、キウム・ヒーローズ

阿佐智ベースボールジャーナリスト
韓国初のドーム球場、コチョク・スカイドーム

 日本のプロ野球もいよいよ開幕したが、お隣の韓国ではすでに先週末からプロ野球が開幕している。私はというと、5,6年ぶりに韓国プロリーグ(KBO)を訪ねたのだが、そのレベルアップぶりに舌を巻いた。1試合しか見ていない時点での印象だが、スピードとパワーという点では、日本をしのいでいるのではないかというくらいだった。今回の韓国訪問ではまず、2015年秋、首都ソウルに完成した韓国初のドーム球場、コチョク・スカイドームを本拠とするキウム・ヒーローズを紹介する。

巨大な宇宙船のようなコチョク・スカイドーム
巨大な宇宙船のようなコチョク・スカイドーム

ネーミングライツを繰り返す不思議な球団、ヒーローズ

 コチョク・スカイドームは、ソウル中心部から電車で40分くらいのところにあるクロ区に位置する韓国初のドーム球場である。収容約2万2000人と少々小さな感じもするが、韓国プロ野球の動員数を考えるとちょうどいいキャパシティなのかもしれない。2015年のプロリーグ終了後に竣工、11月のプレミア12に備えた韓国代表対キューバ代表戦で本格的に稼働した。

収容2万人と日本のドーム球場に比べこじんまりとしている
収容2万人と日本のドーム球場に比べこじんまりとしている

 

 そして翌2016年からは、KBOの球団、ネクセン・ヒーローズがここを本拠とし、今シーズンで4年目を迎えるのだが、今年からこの球団の名称はキウム・ヒーローズとなった。

 この名称変更は、いわゆる「身売り」のためではない。ある意味この球団は、数年ごとの名称変更を運命づけられたチームなのである。

 2007年、ヒョンデ・ユニコーンズが親会社の経営難により解散したが、リーグ縮小を危惧したKBOは、後継球団を探した。しかし、前球団の負債を引き継ぐ企業は現れず、外資系企業が、新会社設立という形で、旧ユニコーンズの選手を引き受ける形で新球団が誕生した。財閥系企業がある意味「丸抱え」していた既存の球団と違い、独立採算制を採ったこの新球団は、親会社の資金注入ではなくネーミングライツによって運営資金を賄う特異な球団として現在に至っている。韓国で縁故地と呼ばれるフランチャイズはソウルとしたが、すでにここにはLGツインズ、トゥサンベアーズの2球団がソウル五輪の会場ともなったチャムシルスタジアムを使用していたことから、アマチュア用の球場であったモクトン球場を使用することになった。

 2008年の球団発足時は、タバコ会社がスポンサーになり、ウリ・ヒーローズとしてデビューした。ところが、この会社がスポンサー料を全額支払わないまま撤退したため、リーグ加盟料も支払えない事態になり、このシーズン途中に、スポンサー名を名乗らない「ヒーローズ」としてなんとかシーズンを乗り切り、翌2009年は、金銭トレードで主力選手を他球団に「売る」ことで何とか球団を維持する有様となった。

 そして、2010年からはタイヤメーカーのネクセンタイヤがスポンサーとなり、ネクセン・ヒーローズとして再スタートを切った。当初2年間だったスポンサー契約は、9年にも及んだが、昨年限りでネクセンが撤退、証券会社のキウムが5年契約でスポンサーに名乗り出、キウム・ヒーローズが誕生した。

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キウム・ヒーローズの舟出

 3月29日、KBO開幕3カード目の初戦は、新生ヒーローズ船出のホームゲームとなった。コチョクスカイドームの周りには試合1時間以上前から多くのファンが集まっていた。

 球場前のテントには長い行列ができていた。何かと思ってみると、旧チーム、ネクセンのレプリカユニフォームを持ってくると、新チーム、キウムのものに無料で替えてくれるのだという。

旧デザインのユニフォームと新ユニフォームの交換に並ぶファンたち
旧デザインのユニフォームと新ユニフォームの交換に並ぶファンたち

 

 ヒーローズのユニフォームデザインはチーム創設以来基本的には変わっていない。ファンの中には、別に昨年までのネクセンのユニフォームで応援していてもとくに違和感を感じない人も多いだろう。むろん、レプリカユニフォームがファンにとっての必須アイテムになる中、デザインが少しでも変われば新しいものを買いたいという欲求も出てくるだろうが、将来的に「お宝」になるかもしれない旧ユニフォームを取っておきたいというファンも多いはずだ。しかし、この球団がネーミングライツで成り立っていることを考えると、旧スポンサーの名前のついたレプリカユニフォームは極力排除したいのだろう。

 この新旧ユニフォームの無料交換は、旧ユニフォームを回収するための「刀狩り」なのである。

 無料でレプリカユニフォームをふるまう新球団だが、一方ではそのユニフォームの背中にお気に入りの選手の背番号とネームを入れる有料サービスを行い、収支バランスをとっていた。

新ユニフォームの背中にお気に入りの選手の背番号とネームを入れるサービスがある
新ユニフォームの背中にお気に入りの選手の背番号とネームを入れるサービスがある

 

 球場スタンド下のチームショップにも長蛇の列があったが、こちらは1万5000ウォン(約1500円)也で購入したネームと背番号をアイロンプリントするサービスに並んだものだった。

韓国野球おなじみの応援団。この応援団をファールボールから守るため、内野席の端はネットがかかっている
韓国野球おなじみの応援団。この応援団をファールボールから守るため、内野席の端はネットがかかっている

 

 本拠地開幕シリーズの相手は、昨年のチャンピオン、SKワイバーンズ。しかし、球場の入りは多めに見て4割ほど。財閥系の人気2球団の狭間にあって、ヒーローズの人気は決して高くない。かつては、ホームゲームでも常にビジターチームのファンの方が多かったことから、よく、日本のヤクルトやオリックスに例えられたものだが、この日見た限りでは、ヒーローズも着実にファンを増やしているようで、スタンドは圧倒的に地元チーム、ヒーローズのファンで占められていた。

 残念ながら、ヒーローズはSKのエース、キム・ガンヒョンから初回に2点を取ったものの、後が続かず逆転負け。新生チーム初戦を飾ることはできなかった。

熱心に声援を送るヒーローズのファン。踊り歌いながらの応援はまさに韓国の野球文化といえるだろう
熱心に声援を送るヒーローズのファン。踊り歌いながらの応援はまさに韓国の野球文化といえるだろう

 様々なところで悪評の高いコチョク・スカイドームだが、個人的にはなかなか見やすい球場だったように思う。この時期、夜は冷える韓国で暖房の効いた観戦は、他所では味わえないものである。

 ここではこの秋のプレミア12も行われる予定で、今後韓国での国際試合の主会場になることは間違いない。日本の野球ファンにもぜひ足を運んでもらたい球場である。

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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