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追悼、ホセ・カスティーヨ。母国ベネズエラで交通事故死。野球を愛した愛すべきナイスガイ

阿佐智ベースボールジャーナリスト
2017年シーズンをイタリアで送ったホセ・カスティーヨ

 昨日、ショッキングなニュースが飛び込んできた。横浜ベイスターズ、千葉ロッテマリーンズでプレーしたこともある元メジャーリーガー、ホセ・カスティーヨが母国ベネズエラで交通事故死したというのだ。プレーしていたウィンターリーグのカルデナレス・デ・ララ(ララ・カージナルス)の遠征先からの帰りに落石事故に遭ったらしい。同乗者には、アナハイム・エンゼルスのルイス・バルブエナ内野手や元ヤクルトのカルロス・リベロ内野手も含まれているという。ベネズエラリーグでは、ここまで主に指名打者として41試合に出場、打率.241を残し、首位を進むチームに貢献していた。

試合中、戦況を見つめているカスティーヨ
試合中、戦況を見つめているカスティーヨ

 2010年、横浜ベイスターズに「大物」が入団した。ホセ・カスティーヨ。前年は台湾の統一ライオンズでプレーしていたが、その前年までは5年連続メジャーで100試合以上に出場、通算で487安打を放っていた。横浜でもその力を発揮し、2塁手として打率.273、19本塁打を記録したものの、残念ながら1シーズン限りで自由契約となった。翌年はメキシカンリーグで開幕を迎えたが、6月に実績を買われて千葉ロッテと契約し再来日。しかし.269、5本塁打に終わって、再び日本を去ることになった。その後は再びメキシカンリーグに戻りプレーを続けていた。夏のメキシコでのプレーのほか、冬は母国のウィンターリーグに参加、メキシコとベネズエラを往復する生活を送っていた。

パルマでは主砲としてチームを牽引した
パルマでは主砲としてチームを牽引した

 そんな彼に私が会ったのは去年のことだ。イタリア・パルマ。この国のプロ野球リーグ、イタリアンベースボールリーグでプレーする彼ははつらつとしていた。メジャーや日本ですでに一財産築いたはずの彼が「野球の果て」とも言えるようなこのリーグで月2,30万円の給料でプレーする姿は、私には不思議に思えた。当時すでに36歳、バットを置いて家族と暮らすのに早すぎる年齢でもあるまい。世界最高峰のメジャーリーグや日本のプロ野球を経験した身にとっては、「名ばかりプロ」のイタリアの環境は我慢できるものではないのではないか。でこぼこのフィールドに数百人も入れば満員のスタンド、ナイトゲームでは大量発生した蚊に悩まされながらプレーすることも珍しくない。それでも、彼はそんな環境の悪さに文句ひとついうことなく楽しそうにプレーしていた。

イタリア・パドヴァの球場のベンチでくつろぐカスティーヨ
イタリア・パドヴァの球場のベンチでくつろぐカスティーヨ

「まだまだプレーできるからだよ。野球が好きだしね」

 イタリアでは試合後、ビジターチームは、ホームチームから食事をもてなされるというしきたりがある。パドヴァという町での試合後、スタンド下のクラブハウスで、なぜイタリアでプレーを続けるんだという私の問いに、ハンバーガーをほおばりながら、なぜそんなことを聞くんだという表情で彼は答えてくれた。確かにフィールドでの彼は巧みなグラブさばきをサードで見せていたし、きれいなヒットも放っていた。ホーム球場のメインスタンドに球団が用意してくれた部屋に住み込みながら、彼は野球選手が野球を続けるのは当然とばかりに若い選手を引っ張りながらプレーを楽しんでいた。

メジャーで会得した打撃はまだまだ健在だった
メジャーで会得した打撃はまだまだ健在だった

 今年はイタリアではプレーしなかったようだ。しかし、ウィンターリーグには帰ってきた。通算23着目となるカルデナレスのユニフォームに袖を通したカスティーヨは、メジャーリーガーも参加する中、レギュラーとしてほぼフル出場、チームを牽引していたが、今回の不幸に見舞われた。既報では、遠征からの帰途に事故にあったというが、チーム全員が事故に遭ったわけではないようなので、個別での移動での事故だったのだろう。防ぐことができなかったのか、つくづくそう思う。

 ベネズエラ、アメリカ、メキシコ、イタリア、台湾、そして日本、4大陸をまたにかけた究極のジャーニーマンが、ついにユニフォームを脱いだ。現役選手のままホセ・カスティーヨはその人生にピリオドを打った。

イタリアでも軽快なフィールディングを見せていた
イタリアでも軽快なフィールディングを見せていた

合掌。

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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