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どうする?セ・リーグ。「地獄の過密スケジュール」に陥らないために日本球界はどうすべきか

阿佐智ベースボールジャーナリスト
内野全体を覆う巨大シートを備えたアメリカの球場(写真:ロイター/アフロ)

 昨日、広島がセ・リーグ3連覇を決めた。とは言っても、昨年がそうであったように、現在のフォーマットでは広島がそのまま今年の日本のプロ野球の覇者を決める日本シリーズに駒を進めるわけではない。セ・リーグのチャンピオンチームは、クライマックスシリーズ(CS)というポストシーズンゲームを勝ち抜いて初めて「日本一」を目指す舞台に立つことができる。そして、セ・リーグの残りの球団は、CSに出場すべく残り2つの椅子を巡って団子状態のペナントレースを争っている。

 そういう中、甲子園で予定されていた阪神・DeNA戦が雨で中止となった。昨日26日から、阪神はレギュラーシーズン最終戦となる10月9日の巨人戦まで14連戦を戦うことになっていた。今年のクライマックスシリーズの開幕は10月13日。リーグのアグリーメントではCS開幕2日前の11日時点での順位により出場チームが決まるという。つまりは普通に考えれば、この日までにレギュラーシーズンを終了せねばならない。昨日流れた試合は、おそらく10日に振り替えとなるだろう。

 

 セ・リーグ当局は、タイトル争いなどもあるので、試合の完全消化を優先するという。つまりは、今後雨天などで未消化の試合が出た場合、CS期間中、もしくはポストシーズン終了後にレギュラーシーズン公式戦の未消化分が行われるというケースが出てくるかもしれないのだ。そうなった場合、状況次第では、CS開幕後に順位が変わる恐れがある。ようするにシーズン4位以下のチームがCSに「出場してしまった」ということもあり得るというのだ。まったくばかげた話である。

 野球が団体競技であることを考えると、個人タイトルよりも、シーズンのフォーマットの合理性をまず保つことを優先すべきで、CS進出チームを一旦決めたなら、その時点でレギュラーシーズンは打ち切るべきだろう。

 

 球団側からすれば、せっかくのビジネスチャンスをふいにするのは惜しい、あらかじめ提示していた試合数をこなせないとなると、年間シートの顧客から文句も出る、それは避けたいと考えるのも無理はない。

 しかし、試合消化を優先したいという割には、一番試合消化の遅れている阪神は9月23、24日の対巨人2連戦の翌日に試合がなかったにもかかわらず、リーグ当局は未消化の同カードの残り1試合をここに入れず、現状での最終戦として10月9日にこれをもってきている。選手の負担を考えてのことだろうが、11日までの阪神のスケジュールの余裕は2日しかない。昨日の中止分を10日に入れれば、CSまでに全日程を終えようとするならば、あと1試合しか流せないことになる。今日からの13連戦のうち、ドーム球場での試合は28日からのナゴヤドームでの3連戦だけである。今週末の天気予報はよくないが、これはドームのおかげで試合を消化できそうではある。しかし、週明けに台風上陸するらしいので、10月1日のDeNA戦もキャンセルの確率が非常に高い。これを11日に入れると、もう一度でも雨天中止が出ると、いよいよ恐れていた事態が起こる。

 こうなってくると、そもそもなぜ、CS2日前の順位で出場チームを決定するというルールにしたのかということにも疑問を感じる。おそらくは、移動などの都合でCSの前日に試合を行うことは想定していなかったのだろうが、それならば、こうなる前にどうしてそれまでにあった日程の空白を活用するとか、ダブルヘッダーを組むなどしてCS前々日までのレギュラーシーズン終了を模索しなかったか。一部報道では、一番消化の遅かった阪神球団が、ダブルヘッダーを行うと、観客の入れ替えに時間がかかるので実施困難だと難色をしめしたらしいが、そもそも通常ダブルヘッダーで観客の入れ替えなどしない。

 スケジュールの消化に関して、北米のプロ野球ではどういう姿勢なのか、私が知っている範囲のことを以下で述べたい。

 イチローが日米通算4000安打を放った翌日の試合だから、もう5年前のことだ。ヤンキースタジアムで行われた対ブルージェイズ戦は、試合開始直前にゲリラ豪雨に襲われ、グラウンドが水浸しになり試合決行が危ぶまれた。アメリカでは雨に備えて内野フィールドがすっぽり入るくらいの大きなビニールシートが常備してあり、降雨の際にはグランドキーパーが手際よくそれを敷いていくのだが、突然の豪雨の前に外野は浅い池のようになっていた。雨じたいは試合開始予定時刻の午後1時には止んだのだが、空はまだどんよりと曇っている。日本の感覚では、試合は中止かと思われだが、そのアナウンスはなされず、小雨が降ったり止んだりの中、グラウンドの復旧作業が行われ、2時間以上遅れて試合は決行された。

 ちなみにこの日は、ブルージェイズにとってシーズン最後のニューヨーク遠征。北米各地にチームが散らばるメジャーでは、ただでさえ過密な日程の中、遠征のやり直しは、スケジュール的にもコスト的にも極力避ける方向で動く。マイナーであっても球場には雨雲レーダーが置いてあり、それをにらみながら、試合を進めることを最優先に考える。この試合もナイター開催にしなかったのは、もし雨でも、時間をずらせば試合を決行できると踏んでのことだろう。

 試合消化を優先する傾向は、資金力のないマイナーでより顕著である。マイナーでは、雨天中止の際は、それがその同一カード連戦の最終戦でない限りは、ダブルヘッダーとしてそのカードの後の試合に組み込まれることが多い。そして、このダブルヘッダーは7イニング制で行われる。また、リーグによっては4イニング終了をもって試合成立としたり、雨天で中断した試合は、サスペンデッドとし、次の同じカードの前に変則ダブルヘッダーとして組み込んだりもする。

 

 面白いのは、メキシコだ。夏のメキシカンリーグのシーズンはちょうど雨季と重なり、中部や南部では毎試合のように雨が降る。私自身の経験では、1試合まるまる雨にたたられなければ、それは幸運としか言いようがない。そういう土地柄なので、ナイター前の夕立くらいで試合中止にはなることはまずない。試合開始が1、2時間遅れるのは日常茶飯事だ。雨天中止試合の運用もアメリカのマイナーに順じ、同一カードの後の試合と抱き合わせで7イニング制のダブルヘッダーに組み込む。中止試合のために別途遠征を行うことはない。試合消化に全力を尽くし、どうしても消化できなかった場合は、未消化のままレギュラーシーズンを終える。そのため、試合数は例年チームごとにばらつきがある。

 ただ、チャンピオンを決めるポストシーズンはだけは別扱いで、これはとにかく9イニングを必ず戦う。雨天コールドはない。雨の場合は試合途中でサスペンデッドとなり、翌日続きを行うのだが、その続きの後に、次の試合を入れることもしない。10年以上前に観たある試合では、試合中の雨に連日たたられ、1試合を3日かかって終えた。3日目などは、ホームチーム1点ビハインドの試合の9回裏のみ行い、試合再開直後にサヨナラヒットが出ると、試合1時間前からスタンドに陣取っていたファンたちは満足した表情を見せ帰って行った。連日の雨の中、この日だけ広がっていたピーカンの青空の下、私は、せっかくなのだからもう1試合すればいいのにと思ったのだが、メキシコ人たちはそういうものだと割り切っているようだった。

 今回のセ・リーグの過密日程問題は、リーグやNPBがスケジュール消化について、何を優先するかの根本的な理念をもっていなかったことによって引き起こされたものではないだろうか。シーズンの最後を飾るクライマックスシリーズの権威を保つならば、間違ってもシーズン4位以下のチームを出場させるべきでないだろう。団子レースであろうと順位決定の基準日でレギュラーシーズンを打ち切るべきだろうし(当然そのことは事前にアナウンスされなければならないが)、スケジュール消化を優先するならば、ポストシーズンの日程をずらせることも考えねばならない。それにも克服すべき課題は山積みではあるだろうが、コミッショナーなりがリーダーシップをとって、まずはリーグのフォーマットを運営するに当たっての最優先事項を示すべきである。

 そしてなによりも、リーグ当局の動きが遅すぎた感が強い。交流戦の後の間延びしたようにも見える数日の予備日など、それ以前にキャンセルされた試合を消化するチャンスはあったのではないだろうか。そしてなによりも、私が提案したいのは、ダブルヘッダーである。選手の負担なども考えると、もちろん乱用はしてはならないが、これを使えるようになれば、スケジュール調整は格段に融通性が出てくる。

 アメリカではメジャーであっても「TBA」の文字をスケジュール表で見ることはみずらしくない。「To be announced」の意である。詳細は後日ということだ。試合開始時間の変更だってある。シーズンが押し迫ると、例えばナイターだと天候的に実施困難だが、デーゲームなら試合成立の5回まではできそうだとなると、早めに試合をしてしまうのだ。それだけの努力をした上で、どうしても試合を消化できない場合は、未消化のままレギュラーシーズンを打ち切る。

 人気回復のため実施に至ったCSも、近年はこれに対し様々な批判が渦巻くようになっている。あらゆる制度に完璧はない。ただ、その制度は運用次第で悪い方向にもいい方向にも導かれる。

 今シーズンを糧に今後のリーグのフォーマットをよきものにすべく、迅速で柔軟性のある運用を期待したい。

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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