復興オールスターゲーム、日本独特の地方開催の成功とその課題
一昨日、日本と比較したアメリカ、韓国のオールスターゲームの様子を少しご紹介した。ついでと言ってはなんだが、ここで他の国々のオールスターゲーム事情にも少しふれておこう。
台湾ではプロ球団が4つしかないという事情から、オールスターゲームもいまひとつ目新しさが感じられないというのが実情だ。スターティングラインナップが単独の人気チームだけで占められることもあるという。そういうマンネリ状況を脱しようと、今年は、現在提携を強めているオーストラリアウィンターリーグから2人の選手を招待して、オールスター戦の翌日に行われたホームランダービーに出場させた。台湾では、ホームランダービーは試合とは別に球場も変えて行う。
その台湾リーグオールスターに参加したオーストラリアの方は、世界各国から選手を多く受け入れているということもあって、ウィンターリーグのオールスターゲームは、ナショナルチーム対外国人選手選抜というかたちで行っている。セミプロリーグのあるイタリアも同様だ。ウィンターリーグと言えば、ドミニカ共和国とプエルトリコはオールスターゲームをリーグ対抗というかたちで行ったことがある。メキシコの夏季リーグ、メキシカンリーグも、過去にオールスターゲームをアメリカ2Aのテキサスリーグやキューバ代表チームとの対抗戦というかたちで行ったことがある。
日本独特のオールスターゲーム地方開催
各国、シーズン折り返しのこの祭典をなんとか盛り上げようと、様々な方策を練っているが、フランチャイズ球場以外でこれを実施するのは、日本くらいではないだろうか。かつては、収容3万人以上の球場で実施というしばりがあったため、これを満たさない本拠地球場ですら開催されないくらいだったから、地方球場でオールスター戦が行われることはなかった。その方針が、シフトチェンジされたのは1992年のことである。当時3試合行われていたオールスターゲームのうちの1試合をオリンピックイヤーには地方開催にすることになり、仙台・宮城球場で初めて夢の球宴が実施された。この背景には、将来的に47都道府県すべてにプロチームを置こうというサッカーJリーグ発足による危機感と、この頃から地方に万単位の集客力をもつスタジアムの新造が進んでいたことがあると思われるが、この仙台でのゲーム以来、2013年までオールスターゲームの地方開催は12試合実施されている(宮城球場と2001年開催の札幌ドームは現在はフランチャイズ球場)。
2004年、長野オリンピックスタジアムで行われた第2戦では、メジャー帰りの新庄剛志(当時日本ハム、登録名SHINJO)が仮面ライダーばりの電光ベルトを腰に巻き、単独ホームスチールを成功させるなど問答無用のパフォーマンスでファンの度肝を抜いた。
そして、今年、13度目の地方開催となるオールスターゲームが熊本で開催されることになった。オールスターゲームの地方開催は、1999年以降2年に1度となり、その数を増やしたが、2010年の新潟、2012年盛岡、2013年のいわきのゲームは、それぞれ中越地震(2004年、このため新潟は一旦開催を返上、このとき建設が延期された新球場の竣工を踏まえて開催が改めて決定)、東日本大震災(2011年)からの復興支援の意味もあっての開催である。2013年以降、地方開催は途絶えていたが、今回、2016年に起こった震災からの復興を願って熊本での開催が実現した。
大成功の熊本でのオールスターゲーム
7月14日午前10時、熊本駅の新幹線の改札前にはすでに多くのファンが陣取っていた。前日試合のあった大阪から移動してくる選手を出迎えるためだ。駅員も12球団のレプリカユニフォームを身にまとう「オールスター仕様」で業務にあたっている。駅のいたるところには、ご当地マスコット・くまモンも描かれたオールスターゲームののぼりが立ち、ポスターが貼られている。駅だけでなく、町のいたるところでも、同じ風景が見られた。
皮肉なことだが、プロ野球が物珍しいものではない、フランチャイズ都市ではなく、地方都市の方が、本場・アメリカに近いオールスターに対する熱気に包まれている。実際町を歩けば、おそらく全国から集まったであろう野球ファンがひいきチームのレプリカユニフォームを着て街を闊歩している。駅や繁華街でこれだけユニフォーム姿を見ることはフランチャイズ都市でもない。熊本はこの日、まさに「ベースボールシティ」と化していた。
市中心部のホテルは軒並み満室、中には通常6000円のシングル料金が1万8000円にまで高騰しているホテルもあった。従業員曰く、オールスター需要のためだという。実際、試合後の歓楽街は野球のユニフォームをまとったファンたちの姿が目立った。
交通機関も、「オールスターシフト」。名物の市電も試合2時間前から臨時便を出し、球場へ向かうファンの足の確保に努めていた。また、球場周辺の道路も、オールスター関係者の移動の便宜を図るためか、いくつかは封鎖されていた。
試合2時間前には、復興途上の熊本城に隣接する台地上にあるリブワーク藤崎台球場のスタンドはほぼ満員になっていた。公式発表ではこの日の試合の入場者数は、1万4000人ほどだったが、外野の芝生席に陣取った少年少女たち3000人は招待されている。また、内野スタンドの両端前方の席も招待客のために開放されているようで、実際にはこの球場の収容人数・2万4000人に近い観客で、球場は試合前から熱気に包まれていた。さらにこの日は、チケットを入手できなかった地元ファンのために、球場近くの熊本城内でパブリックビューイングが行われ、これにも7000人が詰めかけたという。
試合内容については、すでに報じられているので割愛するが、ホームラン競争にはじまるプロのプレーを観客は堪能していた。試合後の、電車の中では、「やっぱりプロの打球はすごいな」などというファンの感動した声が飛び交っていた。
これだけを見ると、この熊本でのオールスターゲームは、震災復興に向けて邁進している熊本県民を元気づけていることを実感できた。
永続化に向けた環境整備を
しかし、実際スタンドで観戦してみると、地方都市でのオールスターゲーム開催には、まだまだ課題も多い。
藤崎台球場の内野席入り口はこの日、1,3塁側にそれぞれひとつだけ。試合後、3塁側スタンドの端に席を取っていた私は、球場を出ようとしたが、ネット裏メインスタンド横にしかない出口にたどり着くまでに10分以上かかった。正直、緊急時はどうなるのかと思うと、少々心配になる。
また、試合前に球場周辺を歩くと、この球場がプロの一線級の選手の使用に耐えうるものではないことがわかる。選手にはロッカールームがあるが、試合運営に関わるスタッフを収容するスペースをこの球場は有せず、関係者の詰め所は、球場に隣接する神社の建物が使用されていた。
NPBは、オールスターゲームの誘致条件について「プロ野球開催に対応する施設を有し、且つプロ野球公式戦等の開催実績を積み、施設運営のノウハウを培うことが前提」としている。しかし、正直、オールスターゲームのようなビッグイベントとなると、この球場が十分な設備を満たしているとはなかなか言えない。
また、外野席に陣取った少年少女たちについても、事前指導が行き違いがあったのか、フェンスにもたれかかって観戦するという、試合の実行そのものに影響を及ぼすようなこともあった。試合自体が非常にいいものだっただけに少々残念だった。今回に関しては災害復興という意味があったが、今後は、球場の整備を含めてこの日本独自の企画が永続的になるよう、主催者には取り組んでほしいと思う。
(写真は、提供分を除いて筆者撮影)