Yahoo!ニュース

最高級のプレーにふさわしい演出を。久々のオールスター戦を見て思う

阿佐智ベースボールジャーナリスト
京セラドーム大阪で開催された昨夜のオールスターゲーム第1戦

 昨夜、恒例の真夏の夜の祭典、プロ野球オールスターゲームが大阪の京セラドームで行われた。過去オールスター戦が大阪で開催されたのは14回。歴史的に大阪には、プロ野球の使用球場として南海ホークスの本拠として建てられた大阪球場と、近鉄バファローズが間借りしていた日生球場があったが、日生の方は、収容人数の関係もあって、オールスター戦は1度も実施されることはなく、大阪でのオールスターは、大阪球場で開催された10回と1997年に「大阪ドーム」として開場した京セラドーム大阪の4回ということになる。「大阪府」まで範囲を広げて、近鉄バファローズの本拠だった藤井寺球場での2回を入れても、16回ということになる。京セラドームでは、2012年以来6年ぶりの開催である。

発祥の地のビッグイベント、「サマータイム・クラシック」

 オールスター戦という企画は、ご存知のとおり野球発祥の地、アメリカで生まれたものである。本場・アメリカでは「サマータイム・クラシック」と呼ばれ、年に1試合だけ行われるメジャーリーグのオールスターゲームは、国民的年中行事のひとつとなっていると言って過言ではないだろう。私は過去1度、これを実見したことがあるが、試合当日は、その町で一体何が起こるのか、何も知らず迷いこんだ人でさえ、いやがおうにも分からされることになる。町の目抜き通りには、オールスター戦のロゴが描かれた旗がいたるところにはためき、書店にはオールスター戦のプログラムが平積みされていた。メジャーリーグは全30球団、ニューヨークやシカゴなどナ・リーグ、ア・リーグ双方のチームをもつ町もあるが、単純計算するとオールスター戦がある町で開催されるのは、30年に一度ということになる。その盛り上がりぶりは町をあげてのものである。

韓国の盛り上がりもすごい

 お隣の韓国も、メジャー同様、オールスター戦は1試合のみだ。これにはちょうど10年前、北京五輪の年に行った。空港の町・仁川(インチョン)にある、当時韓国最新鋭の球場で行われたそれは、前座試合として、五輪前のキャンプを韓国で張っていたキューバとオランダのエキシビジョンゲームが行われ、ホームラン競争には、各々の代表チームからと韓国球団から韓国人スラッガー、助っ人外国人選手が出場、試合前に予選、5回終了後に決勝が行われ、韓国人選手が優勝するという理想的な展開で満員の観客を喜ばせていた。

 試合前セレモニーの演出もすばらしく、出場選手紹介の際は、選手がなんと内野スタンドを駆け下りてフィールドに登場していた。MVPは、ホームランを2、3本(正確な数は覚えていない)かっ飛ばした李大浩(イ・デホ、 元オリックス、ソフトバンク)。試合が終わって、MVPが発表されるまでの間、誰がその賞に相応しいか分かっているスタンドからはイ・デホコールが起こっていた。オールスター戦をもってプロリーグ戦を中断して北京五輪に臨んだ韓国は、このオールスター戦の盛り上がりをそのまま本番に持ち込み、見事金メダルを獲得した。

 正直、実際目にした隣国のオールスター戦の盛り上がりは日本以上だった。

残念な日本の演出

 ひるがえって、昨夜のオールスター第1戦である。試合内容的には、ホームランが飛び交う接戦で、ファンを喜ばせたと言えるだろう。試合前のホームランダービーも、今日実施の決勝進出を決めた筒香(DeNA)、そして、その筒香に敗れたものの、1回戦、準決勝とも、わずか3分の間に大きなホームランを10本以上放り込んだ地元オリックスの吉田正尚が、プロ野球の魅力を存分に見せつけてくれた。

 しかし、演出という点においては、もう少しなんとかならないのかと感じてしまったのは、私だけではないだろう。

球場入り口に、MVP商品が陳列されていた以外は、オールスターゲームを感じさせるものは少なかった
球場入り口に、MVP商品が陳列されていた以外は、オールスターゲームを感じさせるものは少なかった

 まず、試合前の球場周辺だが、チケット売り場前のデッキにMVPの賞品である自家用車が展示されていた以外は、いつもの公式戦と変わらなかった。アメリカのように町中がオールスター仕様というわけにはいかないだろうが、せめて球場の周辺くらいはオールスター戦を感じさせるような装飾をして欲しいものだ。

 そういえば、その昔はオールスターや日本シリーズというビッグゲームになると、ネット裏のフェンスやベンチ上には飾りが施され、その試合が特別なものであることがいやがおうにも意識できたものだ。あれもいつの間にかなくなってしまってどのくらい経つだろう。

 そして、なによりも、試合中のイニング間に行われた間延びした企画が、ゲームの流れに水を差した感は否めない。5回終了後のグラウンド整備中(と言っても、人工芝球場なのでさほど時間はかからない)に行うならまだしも、その他のイニング間にも、見知らぬ芸人が登場し、チアガールによる自転車競走やマスコットのダンス対決、ファンによる綱引きなどゲームに何ら関係ない余興をする必要があるのだろうか。外野フィールドで行われている三文芝居の横で、それを終わるのを待っている選手の姿に私は違和感しか覚えなかった。先述した韓国のオールスター戦でも、試合を中断してハーフタイムショーが長々と行われた。しかし、それはホームラン競争という、プロ野球選手の最高の技を魅せる「余興」であった。

 あれだけの役者をそろえているのだから、その役者の技以外の余興は必要ないのではないか。ファンサービスもあるだろうが、あのような余興はゲーム前にすればいいのであって、選手を待たせてまでやることではない。

 数年ぶりに足を運んだオールスター戦だが、ゲーム内容が良かっただけに、運営側の演出に残念な気持ちが湧いてきた次第である。

昨夜のオールスターゲーム、スタンドは満員だった
昨夜のオールスターゲーム、スタンドは満員だった

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

阿佐智の最近の記事