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門外漢からJクラブの最高責任者へ、ガンバ大阪・山内隆司社長が語る「企業人の野望」

浅野祐介OneNews編集長
ガンバ大阪の山内隆司社長[撮影=藤巻祐介]

タイトル奪還を目指し、レヴィー・クルピ監督を迎えて臨んだ今シーズンだったが、前半戦には最下位まで順位を落とした。シーズン中盤にクラブのレジェンド宮本恒靖氏を新監督に据え、なんとかシーズンを9位でフィニッシュしたガンバ大阪。紆余曲折のあったシーズンを終え、山内隆司社長に話を聞いた。

ガンバ大阪・山内社長が語る「パナソニックスタジアム吹田の未来」

ーーまずは、2018年のシーズン(9位)を振り返っていただければと思います。ガンバ大阪にとって、どういうシーズンでしたか?

山内社長「一言で表すとすれば、『激動』です。新しいスタジアムでの3シーズン目、『奪還』というテーマでシーズンを迎えましたが、なかなかに難しいシーズンとなりました。ガンバ大阪は9つのタイトルを持っていて、Jリーグではアントラーズに次ぐタイトル数を誇るクラブですが、新しいスタジアムになってからまだタイトルを獲得していません。何としてもタイトルを取りたい、そういう思いでシーズンに臨みましたが、思うように勝てず、降格エリアをさまよう時期が長く続きました。『まずは残留を』と目標を設定し直し、レヴィー・クルピ監督の後任として、クラブのレジェンド、ガンバの宝である宮本恒靖さんに監督就任を依頼しました。最初は勝ちに恵まれない時期もありましたが、第25節から破竹の9連勝。地獄と天国を味わった、激動のシーズンでした。もちろん、サポーターの皆さんには不安や憤りを与えてしまったと思います。ただ、シーズン後半は最低限のことができたのではないでしょうか。後半9連勝することができたので、この勢いを来シーズンに繋げて、2019年シーズンはスタートからしっかりと、ガンバらしいサッカーをしたいと思います」

ーー宮本監督に期待することは?

山内社長「ガンバらしいサッカーを確立してほしい、というのがまずひとつですね。ゴールがたくさん生まれるような攻撃的なサッカーを皆さんは期待されているので、『ガンバのサッカーとは何か』ということを、ガンバのサッカーを体現した選手の代表として、今度は監督として体現してほしいと思います。そして、ふたつめは、上位争い。このふたつを同時に実現してほしい。加えて、サッカーにはクラブそれぞれのスタイルがあると思いますが、ガンバの場合はやはり『育成』。アカデミーから若い選手を育てて、彼らがトップチームで戦うというところを、若い選手を積極的に活用して、宮本さんのようなスーパースターをつくる、というところにも期待しています」

ーー期待は大きいわけですね。

山内社長「宮本さんがガンバに帰ってきたときから、『いずれは』という目で見てきましたし、彼本人も『もう少し、先だと思っていた』とは言っていましたけど、本来であればクルピさんに攻撃スタイルを構築してもらい、そして満を持して宮本さんにと考えていました。それが早まったというか、苦しいときにスタートしてもらうことへの心苦しさはありました。ただ、非常に難しいシーズンを乗り越えてくれたので、2019年シーズンもうまくやってくれると期待しています」

ーー2018年シーズンを受けて、来る2019年シーズンはどんなシーズンにしたいと考えていますか?

山内社長「ガンバのサッカーを固めるということを、着実に、堅実にやれればと思っています。9連勝を遂げたチームをベースに、足りないエッセンスを加えて、チーム強化を進めていくことになると思います」

ーーここからガンバ大阪をどのように進化させたいと考えていますか?

山内社長「Jリーグで毎年、優勝争いをする。Jリーグを代表する強さ、質を持ったクラブです。さらに、アグレッシブに戦い、点を取るガンバのサッカーをベースにしながら、世界のトレンドを吸収して、常に新しいサッカーを展開していくクラブです。最先端のトレンドについては、やはり宮本監督に期待するところでもあります。勉強熱心ですし、いろいろなことに取り組む人物ですし、ベクトルは合致していると考えています」

ーー大阪でスポーツといえば、阪神タイガースの存在がありますよね。ジャンルは違いますが、同じ関西圏のスポーツという観点で見たときに、阪神タイガースはどういう存在ですか?

山内社長「うらやましいですよね。チームの結果にかかわらず、熱狂的なファンの方がスタジアムに足を運ばれている。今シーズンも最下位でしたが、スタジアムは満席。歴史というか、厚みを感じる。ガンバの今シーズン前半も、来場者数は成績とリンクするところがあります。もちろん、負けることはあってはいけないことですし、今もそうして支えていただいているところはありますが、『厳しいときでもスタジアムに』という信頼感がよりできていったらと思います。我々としては、目標のひとつ。ファンとの関係、絆というか、結びつき、ですね。おじいちゃんがいて、お父さんがいて、お子さんがいて、親子3代、4代と、歴史が続いている。サッカーもヨーロッパなどはそうですが、何代にもわたってクラブを応援する。ガンバもそんな歴史を作っていきたいですね」

ーー期待しています。話は少し変わりますが、Jクラブの社長は普段、どんな仕事をしているのですか?

山内「クラブの収益をしっかりと上げることです。スポンサーの獲得もそうですし、たくさんのお客さんに来ていただくこと、喜んでいただくためのマネジメント。スタジアムに来場していただき、満足していただくための施策をスタッフと考えて実現していくことですね。選手強化やチームの部分は門外漢ですので、基本的には口を出しません。もちろん、疑問に思ったことは聞きますが、かき混ぜるようなことはしない。信頼して任せています。私のミッションは、彼らが仕事をしやすいように環境を整えること。資金面を含む環境の整備です。もちろん、経営責任者ですので、結果の責任を取ることも仕事です。この世界は単年、単年で変わるので長期ビジョンはなかなか難しいところもあるのですが、どういうクラブにしていくか、どういうふうに繁栄していくかについて、経営理念を、組織としてどう指し示し、導いていくのかが私の仕事です。みんなに理念を共有して、推進する。そして、責任を取ることが仕事ですね。それにしても、サッカーって難しいなと思うのが、例えば、すごいスター選手を獲得しても、先ほどの野球の話ではないですが、4番バッターやピッチャーのような場合と違って、必ず勝てるというものでもない。プレースタイルがチームに合わないこともありますし、投資すれば必ずリターンがあるかというと、それがギャランティされていない。けがもそうですし、いつもドキドキしていなければいけない仕事ですね(苦笑)」

ーー門外漢とおっしゃいましたが、山内社長のもともとのサッカーとの接点について教えてください。

山内社長「接点はまったくありませんでした。パナソニックでずっと営業の仕事をやっていて、もちろん応援する立場ではありましたが、接点といえばそれくらいでしたね」

ーーガンバ大阪の社長というミッション、よくお受けになりましたね。

山内社長「与えられたことにどう花を咲かせるか、それが企業人のミッションだと思っていたので、『ガンバ大阪で花を咲かせよう』と考えて、ガンバの飛躍に貢献したいなと思い、受けさせていただきました。ただ、なかなか経験できない、貴重なチャレンジだと思います。営業時代は、モノの価値を訴求して、理解してもらって買っていただきましたが、今はモノがないですからね。サッカーにはモノはなくて、エンターテインメント。時間・空間を提供し、それが果たして価値があったのかどうか、お客様にとって見合う試合だったのかどうか、仮に負けても価値があるのかどうか、それを説明というか、訴求できるか否かが今までに経験したことのないことでした。モノとコト。お客様に買っていただくことについては一緒ですが、コトは表現が難しい。

今の仕事のほうが、とても難しいと思います」

ーーコト消費という観点でいうと、日本にはたくさんのエンターテインメントがありますよね。他のスポーツもそうですし、映画や音楽もそう。その中でJリーグが担っていく位置づけや、ユーザーにとっての選択肢という点で、他の競合についてどう考えていらっしゃいますか?

山内社長「スポーツなので、明るい、健康的というイメージは大事だと思います。あとは、ハラハラドキドキ、という体験をしてもらうこと。サッカーは、他のスポーツよりも結果が想定し得ないものだと思います。ジャイアントキリングというか、歴史や選手のレベルだけでも勝てなくて、文字どおり筋書きがないというか、その通りにはいかない面白さが他のスポーツにないすごさだと思いますし、それをどう表現できるかがキモでもあると思います。瞬間の興奮、落胆、本当に『天国と地獄』だと思うんです。残り10秒でガンバ大阪が逆転したら、アドレナリンがすごいし、その逆もある。これは他のスポーツにはなかなかないものだと思います。一回ハマると抜けられない魅力ではないかなとも思いますね」

ーー最後に改めて、山内社長の野望を教えてください。

山内社長「チャンピオンになること。J、アジア、世界のチャンピオンになることです。クラブとしてアジア王者にはなったことはありますが、そういうクラブになれば、みんなが幸せになれるのだろうなと考えています。エンターテインメントですから、目標は高く持たなければいけない。ドキドキワクワクが売り物ですからね。目標を高くしないとそれがファンに伝わってしまう。宮本監督だったら実現してくれると思います。彼なりの野望があったと思いますし、ガンバの監督をこんな苦しいときに逃げずに引き受けてくれた。自分が監督だったらガンバの窮地をどう救うかというシミュレーションがあったのではないかと思います。彼の野望は私の野望と一致していると思いますし、それが私の、ガンバの野望です」

順風満帆なシーズンではなかったが、こちらの質問に明快に答えてくれた山内社長。「サッカーは門外漢」と本人は語っているものの、サッカーへの造詣の深さとは無関係に、「クラブへの愛情に溢れた経営者」という印象を受けた。紆余曲折を経験したシーズンを乗り越え、宮本恒靖というパートナーとともに、2019年はガンバ大阪の逆襲が始まる、そんな印象を抱いたインタビューとなった。

OneNews編集長

編集者/KKベストセラーズで『Street JACK』などファッション誌の編集者として活動し、その後、株式会社フロムワンで雑誌『ワールドサッカーキング』、Webメディア『サッカーキング』 編集長を務めた。現在は株式会社KADOKAWAに所属。『ウォーカープラス』編集長を卒業後、動画の領域でウォーカー、レタスクラブ、ザテレビジョン、ダ・ヴィンチを担当。2022年3月に無料のプレスリリース配信サービス「PressWalker」をスタートし、同年9月、「OneNews」創刊編集長に就任。

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