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5年目を迎えた日本初のサッカー映画祭、注目作の若手監督と17歳の主演女優が語るサッカーと映画の魅力

浅野祐介OneNews編集長

2011年にスタートした「ヨコハマ・フットボール映画祭」。国内外の「サッカーを題材とした映画」のみを上映するこのユニークな映画祭は回を重ねるごとにその規模を拡大し、5年目の今年はついに全国展開へ。1月17、18日の新潟を皮切りに、同31日に仙台と松本で開催され、2月は11日に愛媛、14日と15日に横浜、21日に大阪、28日に福岡、3月は14日に札幌での開催が予定されている。

今回、『ユルネバ〜キミはひとりじゃない〜』とともに、ヨコハマ・フットボール映画祭史上初のオリジナルストーリーによる実写の邦画新作として上映ラインナップに加わった『ガンバレとかうるせぇ』の佐藤快磨監督と、主演の堀春菜さんに同作の魅力、思いを語ってもらった。

女子マネージャーは報われない!リアルな部活映画とは?

『ガンバレとかうるせぇ』の佐藤快麿監督(左)と主演の堀春菜さん(右)
『ガンバレとかうるせぇ』の佐藤快麿監督(左)と主演の堀春菜さん(右)

――まずは佐藤監督にうかがいます。この作品を作ろうと思ったきっかけを教えていただけますか。

佐藤「僕の中で『サッカー映画を撮りたい』という思いが、映画に携わり始めた4年前からずっとあって、映画学校を卒業して自主制作の形で最初に長編映画を撮りたいと考えていたので、今回の作品はすごく自然な流れでした」

――部活というテーマで「さわやかさ」以上に「厳しさ」というかシビアな面がクローズアップされていますね。

佐藤「明るい青春映画も好きですが、それだけだとなんか違うな、とずっと思っていました。僕自身、実際にサッカーをずっとやっていて、冬の選手権よりも前、夏に辞めたという過去があって、自分の中では後悔もありましたし、そのおかげで成長できたという思いもあって、さわやかさだけではない部分を表現したいと考えていました」

――主演に堀春菜さんを起用した理由を教えていただけますか?

佐藤「彼女との出会いは3年前のワークショップでした。僕の通っていた映画学校で行っていた演技のワークショップに堀さんが来ていて、彼女が中学校3年生のときですね。そのときの号泣している演技、演技なのか本当の号泣だったか、わからなくなるくらいの“演技”に心を奪われて、そのときから『堀春菜』という名前を覚えていました。今回、この作品を撮るにあたって、ぜひ女子マネージャー役をやってもらおうと考えました」

堀「最初、Twitterで連絡が来たんです。佐藤快磨です、って。でも、その時のTwitterアイコンの写真がおかしくて、『この人、誰?』と驚いたんですが(笑)、すぐに思い出しました。今回のお話しをいただいて、本当にうれしかったです」

――なるほど、それは驚きますね(笑)。

堀「そのひと月前の舞台の告知用にアカウント作ったら、すぐに連絡が来て(笑)」

――そんなメッセージが急に来たらあやしいですよね(笑)。

堀「お母さんに『どうしよう?』って相談しました(笑)」

佐藤「三者面談がありました(笑)」

堀「お母さんが『一度監督に会いたい』って(笑)」

――実際に男子運動部の女子マネを演じてみてどうでしたか? ご自身の部活動や学校生活とのギャップはありましたか?

堀「自分の部活動の話をすると、マネージャーではなく選手の立場だったので、これまでは顧問の先生や後輩がいろいろな準備とか、マネージャー的なことをしてくれていて、その感謝というか、そういうことを少し考え直しました(笑)。 『マネージャーってなんだろう?』って。自分が演じてみて、全部がすごく楽しいという役割ではないでしょうし、『マネージャーの人はなんで続けられるんだろう?』って考えさせられましたね」

――周囲からの反応はどうでしたか?

堀「野球部のマネージャーをしている友達も見てくれて、『すごくリアルだった』と言われました(笑)」

――マネージャーは選手にとって「励ます存在」でもあります。佐藤監督、堀さんはそれぞれ、どんな時に「ガンバレ」と言ってほしいですか?

佐藤「僕は常に『ガンバレ』と言われるのがうれしいですし、『うるせぇ』なんて思うことはないんですけど(笑)、ただ、今僕はフリーターで、映画の仕事をやっているとはいえ就職しているわけではないので、就職している友達の「ガンバレ」は受け取りづらいというか、ひとつフィルターを通してしまうことはありますね。でも、それは自分がこの世界で成功するしかないというか、自分自身の問題なので、僕がちゃんとガンバリます(笑)。

――堀さんはいかがですか?

堀「高校受験とか、今は周りも大学受験の時期だったりして、もうがんばっているから『ガンバレ』って言っていいのかなって思うけど、自分だったらなんて言おうかなって考えたときも、やっぱり「ガンバレ」以外言葉が出てこなかったりします。言葉として素直に受け取れないこともあるけど、応援してくれてるんだなって受け止めて…でも、やっぱりこういうのって難しいですね」

――堀さんは今、高校3年生、今後はどのような活動をしていきたいですか?

堀「高校を卒業するので、役者の勉強を本格的にやっていきたいと思っています。他にも学びたいことがあるので通信の大学に行くつもりです」

――2月末にはMoratorium Pantsの公演にも出演されるとか。

堀「はい、2月28日から上演するMoratorium Pants 第8回公演『君が決めてよ明日のことは』に出演させていただきます」

高校時代にサッカー部だった佐藤監督
高校時代にサッカー部だった佐藤監督

――佐藤監督に質問ですが、舞台に秋田を選んだ理由を教えてもらえますか?

佐藤「自分の小・中・高のサッカーの経験を基にした映画だったので、自分の思い出を撮るのであれば、故郷である秋田で撮影したいと考えました。かなり漠然としたものでしたが、秋田で撮ったらいいはずだっていう思いがありました」

――高校のサッカー部時代、堀さんのように素敵なマネージャーがいらっしゃったんですか?

佐藤「いや、いないです(笑)」

――女子マネージャーがいたらモチベーションにつながったと思いますか?

佐藤「いや、ならないですね(笑)。何か矛盾してますが、そう簡単なことでもないような気がします」

――秋田で撮影をしてよかったなというところは?

佐藤「スタジアムのシーンでは、僕の家族の協力もあって、実際に冬の選手権予選の決勝に撮影で入らせてもらったり、あとは宿舎も、経営者が親の知り合いだったのでとても安い価格で使用させていただきました。24時間入れる温泉のあるようなところです。撮影以外の部分を含め、周囲のサポートや周りの人の温かさみたいなものもあって、東京で撮るよりも何というか、ギュッと団結できたんじゃないかと思います」

堀「秋田に行ってから作品に集中することできたので、そこが良かったです。撮影場所が東京だったら、『学校に行って、撮影に行って』となるので、集中できなかったかなと(苦笑)」

――この役を演じられて、ここが大変だったというところはありますか?

堀「全部大変でした! どんどん追い詰められていく役でしたし、役としても追いつめられていく上に、初めての撮影現場で、しかも秋田に一週間行くということで自分もどんどん追い詰められて……今だから、大きな声で『きつかった』って言えます(笑)」

――堀さん流の泣く演技のコツを教えてもらえますか?

堀「実は、(3年前の)ワークショップの時も泣くはずじゃなかったんですけど、そのときの監督に『違う!』って言われて、追いつめられて泣いていただけで(笑)。今回の撮影では、役に対する部分とか、自分自身の悩みも重なった上での演技になったのかな、と思います。素の部分を含めて」

佐藤「それがある意味、堀さんの魅力ですね。自分自身に正直になれるというか。いろいろなものを積み重ねたり、役になりきる役者さんもいますが、堀さんは自分の中に役を落としていくタイプというか、自分に正直な役者さんでいいなと思いました」

マネージャ役の堀春菜さんは現在高校3年生
マネージャ役の堀春菜さんは現在高校3年生

――では、作品を通して、このシーンが一番大変だったというところはどこですか?

堀「ケンカのシーンですね。最初はあそこまでするつもりじゃなかったんですけど、『もっといっていいですか』って聞いたら『いいよ』って監督が。本当はケンカではなく、私はビンタだけして、他の部員がケンカして、それを見て部室に戻るというシーンだったんですが、それに納得できないという話を監督にしたら『納得ができない演技は嫌だから、やりたいところまでやっていいよ』と言ってくれたので、やりたいところまでやった結果がああなりました(笑)」

佐藤「結果的に、すごく良かったですね。脚本と一番違うシーンですが、一番いいシーンだと思います」

――サッカー部の経験者である監督が、マネージャーというポジションにフォーカスしたかった理由、撮り終えてみて、やっぱりマネージャーにフォーカスして良かった部分という部分はありますか?

佐藤「改めて『プレーヤーとマネージャーは違う』ということが僕の中ではっきりしました。マネージャーは一番近くで『がんばれ』ってずっと叫んでいてくれたんじゃないかなってことに気づかされたというか、脚本を書いているときもそういう思いが強くなっていきました。プレーヤー側はそれに気づけていないというか、例えば全校応援があるとプレーヤーはテンションが上がるんですけど、実はマネージャーが一番応援してくれている存在だということに気づけないのが部活だと思うし、マネージャーは『報われない』というか、そんな気がしました」

堀「ひどい(笑)」

――堀さんは、実際にマネージャー役を演じてみて、もし本当にサッカー部のマネージャーだったらサッカーのうまい人がかっこよく見えるかも、というのはありますか?

堀「自分がもしマネージャーだったら他の部活の人を好きになるかなって思います。サッカーが好きでサッカー部を選んでいるんだと思うんですけど、マネージャーとしては選手と対等になってやりたいと思っているから、恋愛感情とかでなく同じ仲間としてやっていきたいと思っているのに、告白されちゃったりするとショックなのかなって」

――もともと、サッカーはお好きなんですか?

堀「サッカーは好きです。中学生のとき、友達と女子サッカー部に入ろうとしたこともあります。小さいころから家にサッカーボールが2、3個あって、よく遊んでいました。高校サッカーが好きで、友達と見にいったりします」

――では、憧れの女優、目標とする女優さんはいらっしゃいますか?

堀「満島ひかりさんがとても好きです。演じているというより、とても自分の魂が出ている役者さんだなって感じていて。ああいう『魂』でできる役者になりたいと思っています」

――佐藤監督は今でもサッカーが好きですか?

佐藤「好きですけど、やるのはちょっと……ほぼ動けなくなっちゃいました(苦笑)」

堀「まだ25歳なのに(笑)」

――ヨコハマ・フットボール映画祭は今年で5回目になりますが、この映画祭のことはご存じでしたか?

堀「実は、知らなかったんです。友達も『フットボールの映画祭があるんだ』って驚いていました。野球の映画はわりとよく見かけると思うんですけど、サッカーがテーマの映画ってなかなかない気がして、それがおもしろいなって」

――他の上映作品で気になるものはありますか?

堀「サッカーというと男性のイメージだったんですが、『オフサイド・ガールズ』は女性がテーマで、めずらしいなって思いました。気になっています」

※『オフサイド・ガールズ』2月28日13:30〜@福岡フットボール映画祭

佐藤「『ネクスト・ゴール』が気になっています。今回、ヨコハマで上映される作品は全部見たいですね」

――佐藤監督に質問ですが、今後こういう作品を撮りたいというテーマはありますか?

佐藤「サッカーから離れちゃうんですけど、今回、秋田で撮影してみて、まだまだ秋田で撮りたいなと思っています。元気がないような気がしているので、『秋田を盛り上げよう』というのはおこがましいかもしれませんが、故郷の秋田で自分の映画監督としての特徴が見つかったような気がしていますし、秋田を絡めた映画、今は『なまはげ』をテーマにした映画の脚本を書いています」

――堀さんは、今後、演じてみたい役はありますか?

堀「何でもやってみたいですけど、今までは悩んでいる役が多かったので、明るい役もやってみたいなと思います」

――マネージャーではなく、サッカーの選手役でオファーが来たらどうですか?

堀「やりたいです。『ガンバレとかうるせぇ』の女子サッカー部バージョンとか面白いと思います。女子は男子とまた違ったドロドロがでてきそうなので、相当おもしろいんじゃないかと(笑)」

――では最後に今回の作品について、フットボール映画祭に来場される方に見どころとメッセージをお願いします。

佐藤「主人公はマネージャーですが、この映画は『部活』という社会の中で生きている一人ひとりの視点が入り乱れているので、登場人物の誰かに共感してもらえたり、誰かの思いを想像しながら見ていただけたらうれしいです」

堀「フットボール映画祭では『メッシ』など世界各国の様々な作品が上映されます。そんな中で、『ガンバレとかうるせぇ』は珍しい自主制作映画かなと。ドキドキしています。このフットボール映画祭を機に、また知ってもらえたらと思います」

新潟と仙台で上映された『ガンバレとかうるせぇ』は、2月14日のヨコハマ・フットボール映画祭で16時35分から上映。当日は佐藤監督と堀さんが舞台挨拶に登壇し、さらにバレンタインデーにちなみ、本作の鑑賞者には堀さんから先着でチョコレートの手渡しプレゼントも予定されている。サッカー部をテーマに、若さゆえのもどかしさや悔しさを真っ正面から描いた作品に、ぜひ注目してみてください。

女子マネさんがチョコを手渡し 2/14(土) 「ガンバレとかうるせぇ」佐藤快磨監督、堀春菜さん舞台挨拶

OneNews編集長

編集者/KKベストセラーズで『Street JACK』などファッション誌の編集者として活動し、その後、株式会社フロムワンで雑誌『ワールドサッカーキング』、Webメディア『サッカーキング』 編集長を務めた。現在は株式会社KADOKAWAに所属。『ウォーカープラス』編集長を卒業後、動画の領域でウォーカー、レタスクラブ、ザテレビジョン、ダ・ヴィンチを担当。2022年3月に無料のプレスリリース配信サービス「PressWalker」をスタートし、同年9月、「OneNews」創刊編集長に就任。

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