遠ざかるフクシマ 復興五輪1年前 …ビデオリポート 2019年7月取材

聖火リレーが行われることになった20キロ圏内を視察する外国人ジャーナリストら

 『オリンピック秘史 129年の覇権と利権』という本が昨年、日本でも出版されている。その著者である米パシフィック大学ジュールズ・ボイコフ教授(48)がこのほど福島県の浜通りを訪ねた。聖火リレーのコースの線量を自ら測った彼は「最初は冗談で考えていたが、小型の線量計を来年来日するIOCの委員たちに漏れなくプレゼントすれば良い」と語った。

 2011年3月11日の東日本大震災に起因して、東京電力福島第一原子力発電所で起きたメルトダウンやメルトスルー、水素爆発などで大量の放射性物質が放出され、1986年のチェルノブイリ原発事故と同じ『レベル7』という深刻な事故となった。8年が経った今もデブリや汚染水などの除去をはじめ、海や陸の放射能汚染に対して解消の見通しはたっていない。流石にこうした事実は忌まわしくても、動かし難い事実として周知されている。

 だが、福島県内外の原発事故被害者と彼らの支援者、彼らに寄り添うジャーナリストらの声は、オリンピックのお祭り騒ぎに掻き消されようとしている。小生も企業ジャーナリストだった頃は、経営陣や株主、スポンサーからの見えない圧力で正面からの報道はできずにいた。地元のフリーランス・ジャーナリストによると、放射線量が高い浜通りを担当する新聞テレビの記者で、事故当時から被害者に密着している人はもう殆どいない。なぜなら、所属するメディア企業が社員の健康を案じて、異動や転勤させたからだという。

 その一方で、子どもたちの間で多発する甲状腺がんなどの健康被害に不安が高まるなか、除染したという地域への帰還が推し進められている。これまでの公害や薬害などの被害者と違って、今回の被曝が原因と疑われる被害者は、未だ顔出し・名前出しでメディアに出ていない。それは甲状腺がんと放射能の関係を県や国が否定し続けるなか、「風評被害を煽っている」と非難され、「復興の足を引っぱる者」などと差別されることを、その病以上に彼らが恐れているからであろう。

   

 この問題は、メディア企業が左右両側に忖度したり、見えない圧力に自粛したりして、あまり報道されていない。背景には報道の拠り所となる科学にも、政治的な圧力がかけられているふしがある。逆風のなか独立した科学的検証は容易ではなく、その結果も無視されることが多い。ネット上では、そうしたデータを出典付きで明記していても、前提の認識に大きな隔たりがある人たちが炎上させている。

   

 新聞をはじめテレビ、雑誌、インターネットが十分に報道しているならば、門外漢の小生がしゃしゃり出ようなどとは思わない。40年に亘るジャーナリスト生活で福島県には一度も勤務したことがなく、現在は関西に住み、ライフワークは東南アジア。出張で3、4回訪ねただけの福島県には地縁も土地勘もない。それでもこの取材を敢行したのは、この国に暮らす一人のジャーナリストとして、フクシマの現状を看過できないから。同時に、メディア企業を定年退職し、自由に取材できるフリーランスだからこそ、一石を投じられるのではないか、そう思うからだ。

(取材・撮影・編集 阿佐部伸一)