Yahoo!ニュース

小惑星リュウグウの母天体はヴィルト第2彗星と同じ故郷で生まれた? 鉱物の比率に共通性

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
Credit : JAXA

2022年12月16日、小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの物質に含まれる物質が希少な隕石のものと共通性を持つとの分析結果がオンライン科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に発表された。リュウグウは「炭素質コンドライト」と呼ばれる小惑星の分類に属しているが、これまで見つかった多くの隕石の炭素質コンドライトとは異なり、小惑星よりもNASAの探査機「スターダスト」が2006年に持ち帰った「ヴィルト第2彗星」の物質に近いという。リュウグウの母天体は太陽から遠い領域で生まれた可能性がある。

北海道大学の川崎教行准教授らは、リュウグウの母天体が生まれた場所に着目し、「初生鉱物」という最初にできた鉱物の形状や化学組成を調査した。「はやぶさ2」が2019年に2回目のサンプル採取で取得した小惑星リュウグウの物質の中から、東北大学の中村智樹教授らの研究グループが水を発見した3番目に大きな粒子「C0002」の一部を分析している。

「はやぶさ2」のサンプルコンテナC室に含まれていた大きな粒子とその断面の画像。Credit : Spring-9,東北大学
「はやぶさ2」のサンプルコンテナC室に含まれていた大きな粒子とその断面の画像。Credit : Spring-9,東北大学

リュウグウの物質は、多くが水の多い環境で作られた粘土のような鉱物だが、一部には水で変性していない「オリビン(かんらん石)」や「スピネル」などの鉱物が含まれている。この鉱物には、太陽系の形成初期に中心近くの1000度以上の高温の環境でできた「太陽型」というタイプと、比較的内側の太陽系でできたもののそれよりは温度の低い環境でできた「地球型」というタイプに分かれるという。太陽型の鉱物は、短期間は太陽系の中心近くにあったものの、その後は外側太陽系の領域まで運ばれていった。このことは、中村教授らが9月にサイエンス論文でも発表している。

Credit : 東北大学
Credit : 東北大学

川崎准教授らが分析したリュウグウの物質は、「イヴナ型」と呼ばれる太陽系全体の物質の歴史を留める始原的な隕石とも共通していた。これは、東京工業大学理学院地球惑星科学系の横山哲也教授らが6月に科学誌「サイエンス」に発表したリュウグウの物質とイヴナ型隕石(CIコンドライト)との共通性を補強するものとなった。

リュウグウ・イブナ型初生鉱物の粒子を分析したところ、「太陽型」「惑星型」の割合がこれまで地球で見つかった炭素質コンドライト隕石とかなり異なることがわかったという。リュウグウ・イヴナ型には30%近く含まれている太陽型の物質は、多くの炭素質コンドライト隕石にはごくわずかしか含まれていなかった。

「スターダスト」が撮影したヴィルト第2彗星。Credit : NASA/JPL-Caltech
「スターダスト」が撮影したヴィルト第2彗星。Credit : NASA/JPL-Caltech

一方で、NASAの探査機「スターダスト」が2006年にヴィルト第2彗星を探査して地球に持ち帰った物質の分析結果では、太陽型の物質は30%近く含まれていてリュウグウ・イヴナ型隕石と共通点があった。このことから、リュウグウの元になった母天体は彗星に近い、太陽からかなり遠い環境で作られたものだと川崎准教授らはみている。

調査した鉱物の粒子は最大でも30マイクロメートルしかなく、リュウグウとイヴナ型隕石を合わせても数十個しかなかったレアなもの。イヴナ隕石のサンプルも非常に数が少なく、なかなか分析が難しいところを、リュウグウの物質と合わせて始原的な天体の歴史を解き明かすために借り受けることができたという。

同じ炭素質の小天体であってもかなり違う領域で生まれた歴史を持ち、「故郷」でいえばリュウグウは彗星に近い可能性もわかった。「はやぶさ2」の成果はこれまで隕石を手がかりにしていた太陽系の理解に新しい知見を次々と積み重ねている。2023年には、協力関係にあるNASAのOSIRIS-RExが採取した小惑星ベンヌのサンプルも地球に到着することから、新たな成果が期待される。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

秋山文野の最近の記事