Yahoo!ニュース

スターリンク衛星通信が日本でサービス提供開始 予約ユーザーに発送案内【追記あり】

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
Credit : SpaceX

2022年10月6日、米SpaceXが展開する低軌道通信衛星サービス「Starlink(スターリンク)」を日本の予約者向けに提供開始するとの連絡が届いた。近日中にアンテナを含むキットを発送、日本でも利用可能になるとみられる。月額サービス料は1万2300円、アンテナキットは7万3000円。

【2022年10月11日追記】

2022年10月11日、スペースXからスターリンクのサービスを日本で開始するとの発表があった。提供状況を表示するサイトによれば、現在は東日本から東北、北海道の一部までが提供エリアとなっている。近日中に範囲は拡大される見込み。30日間の無料での試用が可能になる。予約注文ユーザー向けには、10月後半にアンテナキットが発送される予定だ。

出典:スターリンク提供案内Webサイトより
出典:スターリンク提供案内Webサイトより

スターリンクは、小型の非静止通信衛星を高度550キロメートルの地球低軌道に多数打ち上げる「衛星コンステレーション」と呼ばれるタイプの衛星通信サービス。2018年に試験機、2019年から本格的に衛星打ち上げを開始し、2022年10月5日の最新の打ち上げまでにおよそ3500機を軌道投入した。稼働中の衛星はおよそ3100機程度となっている。将来的には、1万2000機の衛星と衛星間光通信を含む大型の通信網を目指している。現行の衛星は1機あたり260~310キログラムほどだが、次世代衛星群は1250キログラム以上と大型化する方向だ。

Credit : SpaceX
Credit : SpaceX

スターリンクの通信サービスは2020年11月から北米地域で試験サービスを開始し、現在は北米と欧州、オーストラリアとニュージーランド(一部提供の国を含む)でサービスを展開している。今年2月24日のロシアによるウクライナ侵略に際し、既存の衛星通信の地上設備がロシアのサイバー攻撃によって利用できなくなっていたウクライナにイーロン・マスクCEOの決断でいち早く衛星通信端末を多数届け、通信面でウクライナを支援したことでも知られている。日本では2021年秋にKDDIと業務提携し、携帯電話の基地局と基幹網をつなぐバックホール回線で利用する方向性となっている。

個人向け通信サービスとしてのスターリンクを考えると、地上の光ファイバー網や携帯電話通信網が発達した地域で既存の通信サービスを置き換えるような性質のものとは異なる。通信政策を専門とするハーヴァード大学法科大学院のスーザン・クロフォード教授の著書『Fiber The Coming Tech Revolution and Why America Might Miss It』にあるように、北米やオーストラリアでは光ファイバー網が都市部に集中し、ルーラルエリアでの高速インターネット整備が遅れたという事情があった。スターリンクはこうした高速通信の地域間格差を解消する手段という意味合いも大きく、北米でのベータ版開始時の「Better Than Nothing (何もないよりまし)Beta」というプログラム名もそうした事情を反映している。日本でのKDDIのサービスも個人向けではなく、これまで別の衛星回線などでつながっていた携帯通信網を強化し、山間部や島しょ地域などの通信速度を改善することが目標にある。

SpaceXからのStarlink提供通知(筆者によるキャプチャ)
SpaceXからのStarlink提供通知(筆者によるキャプチャ)

今回の提供案内は、これまでにスターリンクを予約していたユーザー向けだ。筆者は2021年頭に予約を申し込んでいたもので、提供案内はメールで突然送られてきた。標準型のキットは約50×30センチメートルのフェイズドアレイアンテナ、WiFiルータなど一式およそ5キログラムほどのセットになるという。「スターリンク レジデンシャル」という一般家庭の利用を想定したサービスとなり、予想通信速度は下り50~200Mbps、上り10~20Mbps、通信遅延は20~40ミリ秒とされる。契約時の住所以外に持ち出して利用することも可能だが、現在は同一大陸内に限られ、オプション料金が必要になる。利用申し込みは完了させたものの、発送開始の通知や到着日時、オプション料金額などの情報はまだ更新されていない。

Starlinkの通信速度 Starlink.comより
Starlinkの通信速度 Starlink.comより

光ファイバー網、携帯電話網が発達した日本ではスターリンク通信は個人向けのメリットが薄いという事情も折り込みつつ、筆者が個人としてスターリンク通信を利用する意味は、災害時の通信手段の確保や通信事情が悪い地域に赴いての利用を考えているからだ。2022年2月にはトンガの海底火山噴火に際して、災害救助のソリューションとしてスターリンクサービスが緊急提供されたということもあった。実際の通信速度や使用感などのレビューは実機が届いてからとなるものの、今後はそうした情報も提供する予定だ。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

秋山文野の最近の記事