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レーダー衛星が観測した8月16日朝 青森県の大雨後の状況。大きな浸水エリアは津軽地方に集中

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
(C) EU Copernicus Sentinel data 2022

2022年8月8日からの記録的な大雨で東北地方は川の増水や氾濫、浸水に見舞われた。青森県鰺ヶ沢町では、8月16日までのまとめで床上・床下浸水が約445棟にのぼるなどの被害が出ている。

8月8日の週の大雨はいったん止んだものの、青森県の各地で復旧作業が続く中で8月15日から16日にかけてさらなる雨があった。そのとき、浸水の状況はどうなっていたのか。欧州のレーダー地球観測衛星が16日朝6時ごろに観測したデータから、浸水と推定されるエリア(以下、浸水推定域)をデータ化した。

浸水推定域の多くは面積にして1ヘクタール以下と比較的小さく、一時的な水たまりとみられる。しかし10ヘクタール以上の大きな領域は多くが津軽地方に集中し、岩木川下流の十三湖に面した地域では100ヘクタール以上の浸水推定域が2か所あった。

データと解析手法

浸水推定に用いたのは、欧州の地球観測衛星「Sentinel-1(センチネル1)」のデータ。センチネル1はレーダーで地表の変化を捉えるSAR(合成開口レーダー)衛星のひとつだ。SAR衛星はマイクロ波を地表に照射し、反射して衛星方向に戻ってきた電波の強さから地表の物体の種類や大きさ、高さなどを調べることができる。水面は地面に比べて衛星方向に戻ってくる電波が弱いことから画像化すると黒く見え、地面と区別することができる。大雨に伴って水が溜まり、一時的に水面となったエリアは浸水とみなすことができ、SAR衛星は世界で洪水の被害推定に利用されている。

センチネル1は世界中を観測して12日ごとにデータを公開している。観測タイミングは12日に1回と限られるものの、電波が雲を透過するため雨天でも定期的な観測が可能だ。またデータはWebサイトで広く公開され、無償で利用することができる。

今回、センチネル1が東北地方の上空を通過した観測タイミングは8月16日の午前5時42分だった。データは16日午後に公開されて利用できるようになった。解析に用いたのは、Googleが提供する地球観測衛星のデータ処理プラットフォームGoogle Earth Engineだ。2時期のデータを比較することで、水面を抽出するだけでなく川や湖といった元から水面のエリアは除外することができる。今回は、8月16日と軌道の条件が揃っている7月11日午前5時42分の観測データと比較した。

浸水推定域の数と面積

画像1 地理院地図に浸水範囲を加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser
画像1 地理院地図に浸水範囲を加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser

画像2 地理院地図に浸水範囲を加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser
画像2 地理院地図に浸水範囲を加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser

画像1は青森県広域の浸水推定域の状況。センチネル1画像に青いピクセルで表示された浸水推定域を重ねたものだ。画像2では地理院地図上に浸水推定域だけを重ねたもの。津軽地方と、太平洋側では小川原湖から八戸市の周辺まで浸水推定域が点在しているようすが見える。

今回の観測エリアで、浸水推定域とされた場所は2万3917カ所あった。そのうち約83パーセントにあたる1万9821カ所は1ヘクタール以下の小さなもので、本格的な浸水というよりも大雨の最中に一時的に水が溜まっていた可能性が高い。一方で、10ヘクタール以上の比較的大きな浸水推定域は115カ所あり、多くが津軽平野にあった。50ヘクタール以上の上位10カ所は特に岩木川河口に地域に集中し、100ヘクタールを超える最大の浸水推定域2か所は十三湖に面した中泊町とつがる市、五所川原市にあった。

津軽地方の浸水推定域。 地理院地図に加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser
津軽地方の浸水推定域。 地理院地図に加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser

太平洋側の浸水推定域。地理院地図に加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser
太平洋側の浸水推定域。地理院地図に加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser

津軽地方に次いで大きな浸水推定域は青森市内の内真部川の下流にあり、10ヘクタールを超える浸水推定域が津軽地方に次いで多かったのも青森市周辺だった。

青森県の被害報告との比較

青森県災害対策本部は8月9日以降、毎日詳細な豪雨の状況と被害のレポートを発表しており、浸水と着手した対策の詳細がわかる。8月16日13時発表の第10報に記載された3カ所の被災状況と浸水推定域を比較してみる。

中村川・鰺ヶ沢町

市街地約200ヘクタール、445戸が浸水した日本海側の鰺ヶ沢町では、8月16日レポートによるとすでに中村川の溢水への対策と復旧作業が始まっている。「国交省ポンプ車3台による内水排水作業により、浸水解消済み」との記述がある。16日朝の浸水推定域は中村川にかかる新中村橋付近に数か所あった。いずれも比較的規模は小さく、大雨の状況によっては注意が必要であるものの復旧の努力によって「浸水解消済み」の状況が継続しているようだ。

あおもり防災ポータル 「8月9日大雨に係る被害状況等について【第10報】」より
あおもり防災ポータル 「8月9日大雨に係る被害状況等について【第10報】」より

地理院地図に浸水範囲を加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser
地理院地図に浸水範囲を加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser

中里川・中泊町

岩木川下流の中泊町では、8月10日に中里川の破堤があり、田畑へ水が侵入して約100ヘクタールが浸水したとの報告がある。直ちに復旧作業が始まり、8月16日までに応急の作業を行って「浸水解消済み」となっている。この地域では16日朝の浸水推定域の規模が大きく、10ヘクタールを超えるものがいくつもあり、隣り合った浸水推定域は実際にはつながっている可能性もある。ただし青森県の報告では排水された状態の写真が掲載されており、早朝に低い土地で起きていた一時的な水たまりの可能性がある。

あおもり防災ポータル 「8月9日大雨に係る被害状況等について【第10報】」より
あおもり防災ポータル 「8月9日大雨に係る被害状況等について【第10報】」より

地理院地図に浸水範囲を加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser
地理院地図に浸水範囲を加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser

山田川・田光沼周辺

岩木川水系の山田川とつながる田光沼では、8月10日に西側の堤防の一部が決壊し浸水が発生した。すでに復旧作業が始まり、8月15日時点では浸水縮小中との報告だ。8月16日朝は雨のためか西側の川沿いに60ヘクタール近い大きな浸水推定域が見つかっている。ようやく縮小してきた浸水に、さらなる雨が重なってしまった状況がうかがえる。

あおもり防災ポータル 「8月9日大雨に係る被害状況等について【第10報】」より
あおもり防災ポータル 「8月9日大雨に係る被害状況等について【第10報】」より

地理院地図に浸水範囲を加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser
地理院地図に浸水範囲を加筆 (C) EU cotains modified Copernicus Sentinel data 2022, processed with EO Broser

ここまで、青森県で続く大雨と浸水の状況をレーダー衛星のデータによって可視化した。浸水推定域は面的な広がりのみを捉えたもので、浸水の深さまではデータに盛り込まれていない。そのため一時的な水たまりと排水の難しい深刻な浸水を区別できるものではないが、人が近づきにくい場所を含め、広域の状況を推定することができる。無償のオープンデータとクラウド上のプラットフォーム、地理空間ソフトを利用することで、民間の誰でもこうしたデータの可視化が可能だ。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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