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砂漠の中に1年でできた射点 中国新型固体ロケット「力箭一号」が量子暗号衛星など打ち上げ成功

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
PLEIADES (C) CNES Distribution Airbus DS

2022年7月27日、中国科学院力学研究所は中国西部の酒泉衛星発射センターから新型固体ロケット「力箭一号(ZK-1A)」を打ち上げ、6機の衛星の軌道投入に成功したと発表した。旺盛な開発力で1年で新型の射場を完成させ、小型の固体ロケットによる複数の衛星の軌道投入を実現。搭載能力は先行する欧州の固体ロケット「VEGA(ヴェガ)」に並び、日本のイプシロンを上回る。

力箭一号は4段型の衛星打ち上げロケット。全長30メートル、コアステージ直径2.65メートル、フェアリング直径2.65メートルで、高度500キロメートルの太陽同期軌道(SSO)に1500キログラムを搭載できる。初の打ち上げミッションでは、量子暗号通信を実現する量子鍵配送試験衛星など6機を搭載した。

※力箭一号が弾道ミサイルをベースにしているとの根拠にあいまいな点があったため、本文から削除しました。

小型衛星を複数機搭載し、短期間で打ち上げ可能な商用固体ロケットでは欧州アリアンスペースのヴェガシリーズなどが先行していた。6月にアリアンスペースは、搭載能力を増強しコストを削減した新型のヴェガ-Cの試験打ち上げを成功させ、今年11月以降にエアバスD&Sの高解像度地球観測衛星から商用打ち上げを開始する。

2012年の運用開始以来、各国の地球観測衛星の打ち上げを担ってきたヴェガシリーズだが、ヴェガの搭載能力は高度700キロメートルのSSOに1500キログラムだ。後発の中国の固体ロケットが搭載能力や複数衛星の軌道投入能力で急速に追いつこうとしている。

※SSOに1500kgの搭載能力はVEGAのものであったため本文を修正しました。

酒泉衛星発射センターで射場建設が進む様子。Copernicus Sentinel-hub Sentinel-2画像より筆者作成
酒泉衛星発射センターで射場建設が進む様子。Copernicus Sentinel-hub Sentinel-2画像より筆者作成

力箭一号は、中国科学院力学研究所などが中心となって開発したロケットで、内モンゴル自治区の酒泉衛星発射センターに射場が新設された。今年6月ごろ、酒泉衛星発射センターの主要施設で神舟宇宙船の打ち上げなどを行う第四十三号射点から南に17キロメートルほと離れた砂漠の真ん中に力箭一号の射点が完成し、ロケットの打ち上げ準備がうかがえるようになった。欧州コペルニクス計画が公開する衛星画像では、2021年5月ごろからわずか1年ほどで建設が進んでいく様子がうかがえる。

力箭一号の新設された射点から4キロメートルほど離れた場所に、同じ中国の商用固体ロケット「快舟十一号(」の射点がある。快舟十一号は、中国航天科工集団が開発した商用固体燃料ロケット。高度700キロメートルのSSOに1000キログラムの搭載能力を持つロケットとして開発された。快舟十一号2020年7月に初打ち上げを行ったものの失敗し、2021年中に2度めの打ち上げを行うとされていた。しかし2021年11月に射点で何らかの事故と設備の損傷があったことが衛星画像から判明し、開発計画が中止されたとの見方が出ている。

新型ロケットの開発が難航することは珍しくない。中国は次々と新型ロケットを投入し、失敗が続く計画は早めに切り上げて生き残ったロケットを活用するスピード重視の姿勢がうかがえる。

日本の固体ロケット「Epsilon(イプシロン)」は2022年度内に6号機の打ち上げを予定しているものの、搭載能力では高度500キロメートルのSSOに590キログラム、打上げコストを低減したイプシロンSロケットでSSOに600キログラム以上と搭載能力の点では見劣りする。ロシアの商用ロケットが制裁と信頼性の低下で力を失う中で、ロケット開発だけでなく射点建設でも高速な中国の商用ロケットが台頭し市場に食い込んでくる可能性がある。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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