2021年6月17日、JAXA小惑星探査機「はやぶさ2」プロジェクトチームは、2020年12月にはやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの表面サンプルを、選別・カタログ化する「キュレーション」チームから分析を行うチームへ引き渡したと報告した。配分先のうち6チームは、「初期分析」チームで今後1年以内を目標に分析と論文での報告を行う。その成果は、はやぶさ2プロジェクトの残る目標を達成するものとなる。

はやぶさ2キュレーションチームから、高次キュレーションチーム、初期分析チームへ小惑星リュウグウのサンプル引き渡し。撮影:秋山文野
はやぶさ2キュレーションチームから、高次キュレーションチーム、初期分析チームへ小惑星リュウグウのサンプル引き渡し。撮影:秋山文野

昨年12月にオーストラリアから持ち帰られたリュウグウの表面物質サンプルは、5月31日から6月末にかけて順次、国内8つの研究者チームに配分される。神奈川県相模原市のJAXA 宇宙科学研究所で行われたキュレーションによる初期記載(サンプルの色、形、大きさや重さといった情報や赤外線分光計を使った鉱物の種類の分類)に続いて、さらに詳細な分類を行う高次キュレーション(フェーズ2)の作業を行うのは、岡山大学とJAMSTEC(海洋研究開発機構)高知コア研究所の2チーム。微量元素や同位体分析を行う目的でサンプルを扱う岡山大学惑星物質研究所の中村栄三特任教授は「大量の水、有機物が含まれている」と所見を述べ、惑星科学におけるはやぶさ2のサンプルを「歴史に残る成果」と評価した。キュレーション高知チームリーダーの伊藤元雄主任研究員は、「津田さんはじめ工学チームの方々の想いを確かに受け取った」とサンプルを扱う志を表明した。

大きめのサンプル粒子が収められた容器。奥の黒い物質がリュウグウのサンプルだ。撮影:秋山文野
大きめのサンプル粒子が収められた容器。奥の黒い物質がリュウグウのサンプルだ。撮影:秋山文野

「はやぶさ2プロジェクト」というストーリーには、第1部と第2部がある。第1部の「工学編」は、小惑星リュウグウへの到着から探査ロボット投下、サンプル採取、衝突実験、地球帰還とサンプル回収という目標をすべて達成して決着した。しかし第2部「理学編」には、「太陽系の起源と進化、地球の海や生命の原材料物質に関する成果をあげる」目標がまだ残っている。これは地球で持ち帰ったサンプルの分析なしには達成できない。はやぶさ2プロジェクトという初期分析は第2部の山場といえる部分だ。

初期分析には国内外の研究者が集結し、6つのチームに別れている。「化学分析」チームは、リュウグウを構成している物質の化学的特徴を調べ、リュウグウひいては太陽系の材料の情報を得る。「石の物質分析」チームは、石(大きめの粒子)を扱い、石が経験してきた温度、圧力、歴史の痕跡を探る。「砂の物質分析」チームは、より小さい粒子が表面に受けた変化、宇宙風化などがリュウグウでも起きているのか明らかにする。「揮発性成分分析」チームは、水素、窒素、酸素、希ガスなど揮発性成分の分析を行い、生命や海の材料を吟味する。「固体有機物分析」チームは、固体の有機物がどういう構造なのか、岩石の中にどのように存在しうるのかを明らかにする。こうした分析により、「太陽系が宇宙の中で特殊なのか、あるいは普遍的に同じ環境が存在するのか?」という疑問の解明につながるという。最後の「可溶性有機物分析」チームは、アミノ酸など液体に溶ける有機物を分析する国際共同研究チームだ。

初期分析チームの中心となる東京大学大学院理学系研究科の橘省吾教授は「『どんな物質を分析して何が分かると楽しいのか?』と聞かれることがよくあるけれども、初期分析はオーケストラのようなもの。どの楽器も大事であり、すべての楽器が音を出してハーモニーが完成する」と述べ、チームが協調して分析を進めて行くとした。

キュレーション作業もまだまだ続く

今回、フェーズ2チーム、初期分析チームに渡ったのははやぶさ2が持ち帰った約5.4グラムのサンプルのうち0.5グラムほど。JAXAの施設では今もキュレーション作業が続いている。

JAXA 宇宙科学研究所で続くキュレーション作業。撮影:秋山文野
JAXA 宇宙科学研究所で続くキュレーション作業。撮影:秋山文野

宇宙科学研究所の「地球外試料キュレーションセンター」に設置されたクリーンチャンバー室では、これまでに2回のはやぶさ2によるサンプル採取を反映したサンプル容器の「A室」と「C室」から、大きな粒子203個と細かい粒子の「集合体試料」容器7つ分が分類されているという。

サンプルの60パーセントは宇宙の環境を反映した真空状態で保管される。はやぶさ2プロジェクト 統合サイエンスチームメンバーの臼井寛裕教授によれば、「NASAの『アポロ計画』では月の物質を真空で持ち帰って保管した例があるものの、小惑星の試料では世界で初めて」という。これは、将来リュウグウの物質をより高度な技術で分析するために、リュウグウと同じ真空のままで保存するというものだ。20世紀に発見された隕石の分析が数十年経った現在も続いているのと同様に、息の長い小惑星の研究にバトンを渡すために計画されている。

クリーンチャンバー内の様子が映し出されたモニター。撮影:秋山文野
クリーンチャンバー内の様子が映し出されたモニター。撮影:秋山文野

6月17日、キュレーション作業の様子も公開された。クリーンルーム内は、クリーンチャンバーを初めほぼすべてがステンレス製でホコリを出さないようになっている。窒素を満たしたチャンバーに腕を差し入れ、グローブ越しに作業する担当者は頭から爪先まで防塵服を着用して作業を続けていた。脇のモニターには、作業中のリュウグウのサンプルが映っている。試料受入れ担当の安部正真准教授によると、「取り扱う針は先端がループ状に丸められ、スプーンのようにサンプルをすくうことができて、かつ素通しでサンプルが見えやすい」という。初代「はやぶさ」が持ち帰った小惑星イトカワのサンプルを扱う際に使った針はまっすぐだったため、サンプルの取り扱いに苦労したという経験から生まれた特製のかぎ針だ。

リュウグウのサンプルを扱うのは特製の「かぎ針」。撮影:秋山文野
リュウグウのサンプルを扱うのは特製の「かぎ針」。撮影:秋山文野

クリーンルーム内は温度22~24度、湿度50パーセント程度に保たれている。湿度がやや高めになっているのは、静電気を防ぐため。この環境で防塵服を着たまま作業を続けるのは決して楽ではないと思われるが、世界の研究者に小惑星のサンプルを届けるため、半年以上こうした作業が続いている。

はやぶさ2が小惑星リュウグウのサンプルを持ち帰ってから半年。キュレーションチームから初期分析チームに渡されたサンプルから物質の性質が明らかになり、科学誌に論文が掲載されれば、「はやぶさ2プロジェクト」という物語の第2部は一区切りを迎える。その後には、第3部「新たな小惑星探査」、第4部「太陽系科学の発展」という息の長い物語が続いていく。