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まもなく打ち上げ スペースXが果たす「2011年の約束」とは?

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
打ち上げを待つクルードラゴン宇宙船(5月22日撮影)Credit:SpaceX

日本時間の明日5月31日早朝4時22分(米東部時間5月30日午後3時22分45秒)、スペースX開発による新型宇宙船「Crew Dragon(クルードラゴン)」の有人初飛行打ち上げが迫ってきた。29日のNASA発表では、打ち上げに適した天候条件の確率は50パーセントとなっている。ロケットと宇宙船が通過する空域に雷雲、強風の懸念があるという。

【5月28日追記:天候条件が悪化したため、打ち上げは日本時間5月31日午前4時22分(米国東部時間5月30日午後3時22分)に延期となりました。タイトルから日付を削除いたしました。】

【5月30日追記:NASA発表による打ち上げ日の天候見通し、打ち上げ以後の日程を追記しました。】

打ち上げに先駆け、スペースXはフロリダ州のケネディ宇宙センターで第39発射台に立てられたFalcon 9(ファルコン9)ロケットとクルードラゴンをもう一度横倒しにし、宇宙船の予冷システムの点検を行っているという。打ち上げ日時に影響を与えるような点検ではない、としている。

クルードラゴンDEMO-2のミッションパッチ。Credit: NASA
クルードラゴンDEMO-2のミッションパッチ。Credit: NASA

有人初飛行となるクルードラゴンのDEMO-2打ち上げは、クルードラゴン、ファルコン9ロケット、地上系を含む有人輸送システム全体の機能を最終確認する試験となる。

ファルコン9ロケットによる打上げ/上昇時や再突入/帰還時の航法・誘導制御機能の確認、ISS遠方域及びISS近傍におけるクルーによるマニュアル操縦機能やISS係留時における各種機能の確認などを行う。

出典:JAXA『スペースX有人試験飛行ミッション(Demo-2)の概要』より

飛行実証の目的に加えて、スペースXは9年がかりである「約束」を果たそうとしている。

2011年7月8日、スペースシャトル・アトランティス号は30年に及ぶスペースシャトル計画の最後となるSTS-135ミッションを開始し、13日後の7月19日に地球へ帰還した。このとき、NASAのダグラス(ダグ)・ハーリー宇宙飛行士がパイロットを務め、さらに今回のクルードラゴンのテストパイロットとして搭乗することはお伝えした通りだ。それだけでなく、最後のアトランティス号のミッションでは国際宇宙ステーション(ISS)にある旗が置かれることになった。

STS-135ミッションで持ち込まれた星条旗は、1981年のスペースシャトル初飛行STS-1で飛行したものだ。そしてスペースシャトルのコマンダー、クリス・ファーガソン宇宙飛行士の「次にアメリカの国土から打ち上げられた宇宙船に乗ってアメリカ人宇宙飛行士が来るまで、ここに残るように」とのメッセージによってISSのノード2のドアに掲示されることになった。

2011年のスペースシャトル最終ミッションでISSに持ち込まれた星条旗とクリス・ファーガソン宇宙飛行士の隣にダグ・ハーリー宇宙飛行士。右下はJAXAの古川聡宇宙飛行士。Credit: NASA
2011年のスペースシャトル最終ミッションでISSに持ち込まれた星条旗とクリス・ファーガソン宇宙飛行士の隣にダグ・ハーリー宇宙飛行士。右下はJAXAの古川聡宇宙飛行士。Credit: NASA

アトランティス号の帰還直前の2011年7月16日、スペースXのアカウントは「スペースXは旗取りシーケンスを開始します……」とツイートし、スペースシャトルの後継機開発を宣言した。

2011年当時、民間企業による有人宇宙輸送サービス開発「コマーシャルクルー」計画が始まっており、スペースXはボーイングやジェフ・ベゾス氏が設立したブルー・オリジン、シエラネバダ・コーポレーションとともにNASAに選定された企業だった。とはいえ、あくまでも候補企業のひとつであり、スペースXが一番乗りを果たすと決まったわけではなかった。

それから9年、スペースXは宣言通り有人宇宙船を開発する企業としてボーイングと共に選定され、そしてボーイングに先駆けてアメリカの国土から宇宙船を打ち上げようとしている。予定通りならば、日本時間で5月31日の深夜に旗と再会するはずだ。

クルードラゴン DEMO-2打ち上げ予定

NASA TV打ち上げ中継

打ち上げ予定時刻 5月31日午前4時22分45秒(日本時間)

打ち上げシーケンス(すべて日本時間)

45分前(03:37) 推進剤充填開始の判断

42分前(03:40) クルーアクセスアーム取り外し

37分前(03:45) 宇宙船打ち上げ脱出システム装備

35分前(03:47) 燃料充填開始

35分前(03:47) 第1段液体酸素充填開始

16分前(04:06) 第2段液体酸素充填開始

07分前(04:15) ロケットエンジン予冷開始

05分前(04:17) 宇宙船の内部電源移行

01分前(04:21) 最終打ち上げ確認開始

01分前(04:21) 推進剤タンクを打ち上げ時圧力に移行

45秒前(04:21) スペースX側打ち上げ最終判断

03秒前(04:22:42) エンジン点火シーケンス開始

00秒 (04:22:45) 打ち上げ

00分58秒後(04:22) MAX Q(最大動圧点)到達

02分33秒後(04:24) 第1段メインエンジン燃焼終了(MECO)

02分36秒後(04:24) 第1段分離

02分44秒後(04:24) 第2段エンジン燃焼開始

07分15秒後(04:29) 第1段帰還開始

08分47秒後(04:30) 第2段エンジン燃焼終了(SECO-1)

08分52秒後(04:30) 第1段着地エンジン噴射

09分22秒後(04:31) 第1段着地

12分00秒後(04:34) クルードラゴン宇宙船が第2段から分離

12分46秒後(04:34) クルードラゴン宇宙船ノーズコーンオープン開始

クルードラゴンのISSドッキング予定(日本時間)

5月31日午後11時27分 ISSドッキング

6月1日午前1時45分 ハッチオープン

6月1日午前2時15分 歓迎セレモニー

【5月31日打ち上げ成功を受け、ISSドッキング予定をNASA発表に沿って修正しました。】

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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