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インド月探査機チャンドラヤーン、2020年に月着陸に再挑戦

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
ヴィクラム着陸機とプラギヤンローバー。Credit: ISRO

2019年12月3日、NASAは月周回衛星ルナ・リコネッサンス・オービター(LRO)の画像から、9月に月南極域への着陸降下中に通信途絶したインドの月探査機Chandrayaan-2(チャンドラヤーン2)の着陸機の衝突地点を特定したと発表した。着陸時の状況が明らかになりつつある中で、インドは同型の月探査機チャンドラヤーン3を開発、2020年後半に打ち上げる予定だ。

7月22日に打上げられたチャンドラヤーン2は、ISRO(インド宇宙研究機関)が開発した2009年のチャンドラヤーン1に続く、2回目の月探査計画。月の南極で南緯70度付近にある2つのクレーター「マンチヌス C」と「シンペリウス N」の間の領域を目指し、成功すればインドで初めての月着陸になる予定だった。

NASAの月周回衛星LROの画像から明らかになったヴィクラム着陸機の衝突地点。Credits: NASA/Goddard/Arizona State University
NASAの月周回衛星LROの画像から明らかになったヴィクラム着陸機の衝突地点。Credits: NASA/Goddard/Arizona State University

チャンドラヤーン2に搭載されていたVikrum(ヴィクラム)着陸機は、機体に搭載されたカメラと速度計、高度計のデータなどを照合して着陸を行う画像照合航法によって月面着陸を行う計画だった。9月7日に月面へする中、着陸目標地点から750メートルほど離れたところで通信が途絶した。インド日刊紙の報道によれば、着陸に失敗した原因は、ソフトウェア側の問題で予定の着陸コースと実際の探査機の位置にズレがあったためだという。

月や火星といった天体は重力天体と呼ばれ、探査機の着陸には技術を要する。日本のはやぶさ2が成功させた小惑星のように重力の小さい天体への着陸とは別種の難しさがある。これまでのところ、月面へ無人着陸機を制御して軟着陸させることに成功したのはアメリカ、ソ連、中国のみとなっている。インドにとって初の試みとなったヴィクラム着陸機の軟着陸が失敗する可能性も小さくないとされていた。

インドの大手日刊紙タイムズ・オブ・インディアの11月19日付報道によれば、チャンドラヤーン2の着陸失敗を調査したした検証委員会は、ソフトウェアの問題点を指摘した上で、チャンドラヤーン3を「推進機関と着陸モジュール」から構成することを了承したという。またソフトウェアの中でも着陸機の誘導に関わるアルゴリズムの改良を求めたという。

ソフトウェアの問題から、ヴィクラム着陸機に搭載されたレーザードップラー速度センサー(LDV)の計測値に誤りがあり、着陸機は計画よりも高いところを飛行していたという。LDVはチャンドラヤーン2のために開発されたもので、地上での試験が不足していたようだ。

ISROは搭載機器の改良に加え、チャンドラヤーン2の通信機能を改良し、月面の画像をリアルタイムで地上に送信し、地上側で着陸コースを検証できるようにすることを検討している。

インド宇宙庁は、11月27日付けで「チャンドラヤーン3」と題した文書を発表。「ISROは、必要な技術を習得するための月探査ミッションのロードマップを作成し、このロードマップは宇宙委員会に提出された。専門委員会の最終分析と勧告に基づき、将来の月ミッションに向けた検討が進行中だ」とした。ISROはチャンドラヤーン3の実施に向けて計画立案が終わったものと見られる。

複数の報道によれば、チャンドラヤーン3は2020年の11月に打ち上げとされる。チャンドラヤーン2の周回機は、機体に問題がなければ2020年中も観測を継続している予定だ。

日本としても、インドに月面への着陸技術を習得してほしい事情がある。JAXAとISROの協定に基づく共同月面探査計画では、2023年に日印合同月探査機を打ち上げ、着陸機をインドが、打ち上げロケットと月面探査ローバーを日本側が開発する目標だ。探査の目標は、水が氷となって集積しているとされる月の南極域だ。

開発中のNASA VIPERローバーも月の極域で凍った水の探査を目指している。Credits: NASA/Johnson Space Center
開発中のNASA VIPERローバーも月の極域で凍った水の探査を目指している。Credits: NASA/Johnson Space Center

一方で2024年に再び月面有人探査を目指すアメリカのNASAは、2022年12月にVIPER(バイパー)と呼ばれる月面ローバーを計画している。バイパーも月の極域で水資源の発見を目標としており、日印月探査があまりNASAの計画から遅れると、意義が薄れる恐れもある。月探査の大きな目標である水の発見に向けて、チャンドラヤーン3の着陸成功に期待したいところだ。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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