急速に立ち上がるSAR衛星市場(前編) 物流を追う。北九州発の小型SAR衛星とQPS研究所

QPS研究所、市來敏光さん(左)と大西俊輔さん(右)。撮影:秋山文野

直径3.6メートルの軽量・大型パラボラアンテナを搭載した100キログラム級、分解能1メートルのXバンド小型合成開口レーダ(SAR)衛星を実現したQPS研究所。「QPS-SAR」シリーズ初号機は2019年の10月以降にインドのPSLVロケットで打上げを予定しています。小型SAR衛星を実現した技術について、代表取締役社長 (CEO) 大西 俊輔さんと取締役・最高執行責任者 (COO) 市來 敏光さんに伺いました。

--初号機はまもなく打上げですね。小型SAR衛星を実現するには、どのような技術が盛り込まれているのでしょうか?

大西:1号機は2019年3月に完成して10月以降にインドのPSLVロケットで打上げる予定です。衛星も9月初旬にインドに向けて輸出されました。小型SAR衛星の実現につながる技術は多々ありますが、弊社衛星の大きな特徴としては直径3.6メートルの大型パラボラアンテナにあると思っています。改良を重ねた結果当初の15キログラムから10キログラムまで更に軽量化しており、質の高いレーダ観測を実現するための鏡面精度も高めております。さらに2号機も開発中で、そろそろFM製作を開始します。2号機も1号機から学んだ多くの改善と新たな試みを盛り込んでおり、1号機に比べて更に性能や画質がアップすることを期待しています。

市來:アンテナの軽量化は小型衛星にとって必須の目標で、軽量化のためにETS-VIII(きく8号)でも使った金属メッシュを採用しています。打上げ時にはコンパクトに収納ができ、きれいに直径3.6メートルのパラボラのかたちを保つ、柔軟性と剛性を併せ持った特許技術の新しい機構を開発しました。

大西:SARを小型化するには、大型衛星でも一般的なフェイズドアレイアンテナを小型化するという方式がありますが、大きな電力を必要とします。フィンランドのSAR衛星企業、ICEYEがこの方式を実現していますね。基本はフェイズドアレイ方式で、電気的に素子をコントロールせずに実現するのが第三方式と呼ばれる導波管方式です。もう一方では弊社のように大きくて軽いパラボラアンテナを実現することで小型化するという方法があります。ただ、3~4メートルにたたんであるものをきれいなおわん型に展開する方法が必要です。圧倒的に良い画質はアンテナの精度(鏡面精度)にかかっていますし、ミリ単位のズレも許されない難しい技術です。そこを実現できたことがミソになります。

撮影:秋山文野
撮影:秋山文野

--打上げからアンテナ展開まで時間はどれくらいでしょうか? また、最初の画像(ファーストライト)では「ここを撮影しよう」と決めている場所はありますか?

大西:アンテナ展開は打上げから1~2日です。自動展開ではなく、コマンドを打って開く方式なので、ひっそりとコマンドを送ります(笑)。

市來:うまく展開するかという大きな節目ですね。何度も試験をして、問題はないという自信はありますが、宇宙では何が起きるかわからないですから。

大西:ファーストライトは社内で「ここ」と決めている場所があります。できれば九州域を撮りたいですし、顧客が画像の質を判断しやすい、山、海、都市がうまく見えるところがいいね、という話をしています。

--SAR衛星はデータ量が大きいといいますが、打上げ後の運用管制はどのように行うのでしょうか?

大西:運用では先ずは九州域の地上局を使います。今後データのダウンリンク量がより大きくなる際にはシェアできる世界の地上局を使います。

市來:データのダウンリンクの手配は本当に大変ですね。コンステレーションを構築するとなると、試算だけでもすごいデータ量と金額になり、ダウンリンクもリアルタイム性が求められます。小型SAR衛星の人たちはみんな頭を悩ます課題の一つではないかと思います。ただ、1号機はまだそこまで世界中でデータを落としまくる、というものではないので、九州域で対応します。2号機があがると更にデータ量が増えるので、本格的に世界の地上局シェアリングサービスを利用することになると思っています。

--精度の高いアンテナ展開が可能になったということは、2024年までに衛星コンステレーションを実現する目標でしょうか?

市來:1号機の打上げのあとに資金調達を行って、36機の衛星によるコンステレーションを2024年に実現することが目標です。初号機から2号機もレベルアップしていますが、その後更に1~2回バージョンアップをする予定なんです。3号機または4号機では推進系を積むことを予定しております。

画像提供:QPS研究所
画像提供:QPS研究所

--衛星コンステレーションが完成すると、どんなサービスを目指していますか?

市來:同じSAR衛星といっても、企業によってそれぞれ目指しているものが違い、衛星を投入する軌道などを差別化する部分があります。QPS研究所は、約10分ごとに世界のほぼどこでも定点観測する目標です。約10分ごとに見ることで、人やモノの流れを見たいのです。分解能が1メートルあると、自動車が検知できます。約10分ごとに車やものの動きがわかれば、港の車やコンテナ、どのくらい荷積みされたかなどものの輸出などがわかります。輸出量や工場の生産量、郊外店舗に駐車してある車の数からお客様の入り具合などのデータを得られます。また、干渉SAR(※)の技術による建物や地盤の変化を知りたい。日本は特にインフラ老朽化がありますから、地盤の変化を早く検知して、故障や破損のデータを提供していきたいです。

※地表の同一の場所に対して2回以上のSAR観測を実施し、それらを干渉させて差をとることによって、わずかな距離差の情報を利用して地面の変動を捉える技術。1回の観測で可能な精度が数メートル程度であるのに対し、干渉SARではセンチメートル級、観測頻度を重ねて差分をみていくことでミリメートル級の測定が可能。

--光学衛星に比べ、SAR画像は見た目でわかりにくい、利用が難しいといわれます。衛星データを利用する、ユーザーの開拓にはどのような計画をお持ちでしょうか?

市來:現時点ではQPS研究所は画像解析までは手を出さないと決めています。我々は衛星開発のプロですが画像解析のプロではないですし、二兎を追うことになりかねないですから。そこで解析ソリューションを直接提供するのではなく、パートナーを得てデータ提供していく方向です。ひとつひとつポテンシャルのあるところに回っていますね。

10分ごとにものの動きがわかると、例えば物流の効率化に使えないかという話等がありました。物流関係の企業様より「日本全国どこでも、自分たちの製造したものが乗っているトラックを追跡したい」という要望があるのです。携帯電話を使えば衛星を使わなくてもできるのではと思ったのですが、そうでもないようです。こうした物流網の効率化など、様々な業界のお客様の課題やニーズを聞いて、色々と提案をしているところです。

SAR衛星は電力の制限があるため全世界をカバーすることは困難ですが、海外の画像提供プラットフォームなどはニュースやSNSから情報を吸い上げて、「事故発生」などが判明すると連動する画像を提供しているようですね。そういったリアルタイム性のある画像プラットフォームへ画像を提供することで利用促進に貢献するということも考えています。プラットフォームに「入ってほしい」という要望も頂くので、我々も勉強やどのプラットフォームが今後広がりそうかを見極めることも含めて、プラットフォームをトライアルで使用させて頂いて、毎日のように社内で集まって、プラットフォームでの使われ方や良い点、問題点をチェックしています。

--世界で求められるSAR衛星という難しい技術を開発できた背景はどのようなところにあるのでしょうか?

市來:QPS研究所の創業者であり、九州大学名誉教授でもある八坂哲雄教授の存在が大きいです。すでに70代後半のおじいちゃんですが、2014年末頃に大西から八坂に「小型SAR衛星をやりたい」という提案があったとき、日本の通信衛星やアンテナの開発経験から、「こうやったらできるのではないか」と軽くて大きい展開構造のアンテナの方式のアイディアが出てきました。そこから若手と九州域の製造協力企業で試行錯誤しながら、八坂のアイディアを短期間で実現していったのです。

--大西CEOが小型SAR衛星の分野に参入したいと思われたきっかけは?

大西:QPS研究所に入った後の2014年ごろ、地球観測衛星で先行者がいる分野はなんだろう、と整理してみました。光学、SAR、大型、小型の4つに分けてみると、大型の光学衛星、小型の光学衛星は競争相手がもう多くいて、今から参入しても勝てないだろうと思いました。一方でSAR衛星の大型はありますが、小型SAR衛星は約300kgのTecSAR(イスラエル)が最小でした。まだ100kg以下が実現されておらず、確固たるプレーヤーもいない分野だからこそ選んだわけです。

市來:QPS研究所の創業の目的として、九州に宇宙産業を根付かせたいというのもありました。九州には射場である種子島や内之浦といった良いインフラはあるのに、宇宙産業がないために、九州で宇宙を学んだ学生やエンジニアは九州の外に出ていってしまう。ならば、九州大学で研究してきた小型衛星の知見を地場企業に伝承して宇宙産業を育成しようと考えた創業のメンバー達は、九州中を回って200社以上の会社に声をかけ、志に共感して下さった地場企業約20社を10年以上かけて育ててきました。

大西:九州からいったん出ていった学生やエンジニアには九州に戻ってきてもらって、一緒に宇宙産業を盛り上げてほしいと思っています。ライバルの少ない、新しい分野の衛星を魅力に感じてもらえるのではないかと思いますね。

※本記事は宇宙ビジネス情報ポータルサイト「S-NET『未来を創る 宇宙ビジネスの旗手たち SPECIAL/特集記事』」に掲載されたものです。