Yahoo!ニュース

スペースX、小型衛星のライドシェア打ち上げ計画を発表。1機2.4億円から

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
64機の衛星をライドシェアで打ち上げたスペースX。Credit: SPACEX

2019年8月6日、米スペースXは、地球観測衛星など小型の人工衛星を複数機ロケットに相乗りさせて打ち上げる「ライドシェア」専用の打ち上げプランを発表した。同社の主力ロケットFalcon 9(ファルコン9)を使い、2020年11月以降に最初の打ち上げを行う。衛星1機あたりの費用は、もっとも低額の場合150キログラムまでの衛星の場合は225万ドル(約2億4000万円)。同様に300キログラムの衛星は450万ドル(約4億8000万円)からとなる。

ライドシェアとは、複数の小型衛星をロケットに相乗りさせる打ち上げ方式。日本では今年1月にイプシロン4号機でアクセルスペースの地球観測衛星「RAPIS-1(ラピス1)」、ALEの流れ星衛星「ALE-1」などを搭載した革新的衛星技術実証機1号の例がある。ライドシェアの場合、搭載された衛星の関係が対等で、各衛星はミッションに合った軌道を目指しやすい。

ライドシェアと近い形態に「ピギーバック」打ち上げがあるが、ピギーバック方式の場合は「主衛星」と呼ばれる大型の衛星を搭載した後の余剰打ち上げ能力を利用して、超小型衛星に打ち上げ機会を提供するもの。2009年にH-IIAロケットを利用して大型衛星「いぶき(GOSAT)」打ち上げの際、「相乗り小型副衛星」とよばれる超小型衛星を搭載した例のように、目的の軌道は主衛星が最優先となる。

スペースXのファルコンヘビーの打ち上げで使用されたESPAアダプターによるライドシェア打ち上げ例。Credit: NASA
スペースXのファルコンヘビーの打ち上げで使用されたESPAアダプターによるライドシェア打ち上げ例。Credit: NASA

スペースXのライドシェア打ち上げは2018年12月にファルコン9ロケットで64機の超小型衛星を軌道投入しており、前例のないものではない。だが2018年の際はスペースフライトが開発した衛星を搭載する機構に合わせて超小型衛星の顧客を募集したもので、スペースX主体ではなかった。今回のライドシェア打ち上げ計画はスペースX自身が打ち上げ機会を提供するものだ。ESPAと呼ばれる米軍のロケットで小型衛星を軌道投入する規格化されたアダプターを使用し、高度500~600キロメートルの太陽同期軌道(SSO)へ衛星を投入する。

打ち上げ機会は2020年11月~2021年3月に第1回、2022年第1四半期に第2回、2023年第1四半期に第3回となっており、現在のところ1年に1回程度のようだ。150キログラム級の衛星はESPAアダプターに15機、300キログラム級の衛星は24機搭載できる。すべて合わせても1万キログラム程度であり、アダプターそのものの重量を入れても余剰があるようだ。衛星が標準よりも重い場合は、1キログラムあたり1万5000ドルの追加料金がかかる。

打ち上げ料金は予約時期によっても変わり、打ち上げ12ヶ月前までならば最小の225万ドルで打ち上げられる。打ち上げ6~12ヶ月前ならば300万ドル(約3億2000万円)と600万ドル(約6億4000万円)となり、追加料金も1キログラムあたり2万ドルに上がる。

小型衛星市場の拡大

スペースXがこの時期に小型衛星向けのライドシェア打ち上げを発表した背景には、増加する小型衛星打ち上げ需要とアメリカでの打ち上げ手続きの変化があると見られる。8月1日、米連邦通信委員会(FCC)は、重量180キログラムまでの小型衛星の打ち上げ申請手続きを簡略化し、申請費用をこれまでよりも低くすると発表した。同型の衛星10機までという制限があるため、大規模なコンステレーション(衛星網)構築向けではないが、技術開発衛星や試験機などの打ち上げがしやすくなり、小型衛星の利用を後押しすると見られる。スペースXはこうした需要も旺盛に取り込んでいくものと考えられる。

アリアンスペースのVEGAはESAと共同で開発したSSMS打ち上げでライドシェアの実現を計画している。Credit: ESA
アリアンスペースのVEGAはESAと共同で開発したSSMS打ち上げでライドシェアの実現を計画している。Credit: ESA

大型ロケットによるライドシェア打ち上げで競合するのは、欧州のアリアンスペースだ。アリアンスペースは欧州宇宙機関(ESA)と共同でライドシェア用の専用アダプター「SSMS」を開発しており、2019年中に中型ロケットVEGA(ヴェガ)で実証を行い、2020年以降に大型ロケットAriane 6(アリアン6)に展開する予定だった。しかし、7月にヴェガ14号機の打ち上げが初めて失敗し、原因究明を行っている。9月に予定されていたSSMSの実証は遅れる見込みだ。こうした事情から、ライドシェア機会を探していた衛星がスペースX側に流れる可能性はある。

一方でアリアンスペースは8月5日、アリアン6による静止軌道へのライドシェア打ち上げ計画「GO-1」を発表した。4500キログラムまでの衛星を打ち上げから6時間で静止軌道に投入できる。これまでの静止衛星打ち上げは静止トランスファ軌道と呼ばれる軌道に衛星を投入し、衛星はそこからエンジンを使用して静止軌道まで移動する必要があった。2022年から始まるGO-1打ち上げでは静止軌道までの移動はすべてロケットに任せ、衛星側のエンジンは軌道維持にのみ使うことができる。静止軌道でのミッションが必要な衛星には魅力的なプランといえる。

人工衛星が小型化し、利用分野が広がる中で打ち上げサービスにも変化が訪れている。これまで小型衛星には強い意欲を示してこなかったスペースXが本格的なライドシェアに乗り出したことから、小型衛星の利用がさらに広がる可能性がある。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

秋山文野の最近の記事