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宇宙から花粉が「見える」? 活気づく宇宙ビジネス その立ち上げを考えてみた

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
Credit: NASA

宇宙ビジネス市場が世界的に活気づきはじめている。日本の人工衛星を打ち上げる基幹ロケットH-IIAの開発費がおよそ1500億円、気象衛星ひまわりのように大型の人工衛星は数百億円、NECが開発した小型地球観測衛星ASNAROは50億円という。

近年は宇宙ベンチャーと呼ばれる企業が日本でも20~30社ほど現れてきた。超小型衛星打ち上げ向けのロケットを開発するインターステラテクノロジズ、50機以上の地球観測衛星による世界規模の観測網を構築するアクセルスペースなどがある。中でも人工衛星やロケットを作って打ち上げ、運用する宇宙インフラの開発企業は「宇宙機器産業」と呼ばれ、政府系、民間合わせて産業規模は3500億円程度になる。

一方で、世界に目を移すと宇宙事業を営んでいる企業は1000社あり、2030年には世界で1万社となる予測がある。ハイペースで参入企業が増えるのは、「宇宙機器産業」に加えて、人工衛星のデータを利用する「宇宙データビジネス」と呼ばれる、参入しやすい部分があるからだ。ただ、宇宙データビジネスの規模は日本では8000億円程度とそれほど大きくはない。

現在の宇宙データは多くが衛星放送や通信、GPSに代表される位置情報が中心だ。衛星画像などのリモートセンシング(遠く離れたところから対象物に触れることなく、対象物の種類や形状、性質等の情報を得る技術:リモセン)データのビジネスも台頭してきた。データを解析する事業はソフトウェア産業であり、データが入手できればロケットや人工衛星の開発より短い時間で始められる。

衛星画像データの配布プラットフォームなどができ、リモセンデータがより利用しやすくなると、宇宙データビジネスも伸びていく。日本では2030年代に1兆7000億円を超えるという予測がある。

2月28日「衛星データを身近に活用し、あなたのビジネスをアップグレード」イベント資料より
2月28日「衛星データを身近に活用し、あなたのビジネスをアップグレード」イベント資料より

海外の宇宙データ分野のベンチャー企業には、投資家向けに衛星画像から石油の備蓄量など世界経済の動きを読み取るオービタルインサイト社、中国など他国の経済活動情報を調査しているスペースノウ社などがある。日本では、宇宙データで水産養殖の最適化を行うウミトロン、稲の生育状況を生産者向けに提供するビジョンテック、4年連続で米の食味ランキング特Aを獲得した青森県のブランド米「青天の霹靂」の農家支援事業などがある。

宇宙データ利用はデータを入手できれば始められる。とはいえ、参入のきっかけは何だろうか? もはやベンチャーとは呼べない規模だが、スペースXのイーロン・マスクCEOや同じくロケット開発企業を興したAmazon.comのジェフ・ベゾスCEOは将来の「宇宙植民」を目標に掲げ、それを実現する宇宙輸送技術を実現しようとしている大富豪だ。また、オービタルインサイト社や、100機以上の超小型地球観測衛星網を実現した米プラネット社の創業者はNASAの出身でもともと宇宙畑の人材だ。巨大なビジョンや巨額の資金、航空宇宙分野の専門知識がなければ参入できないとすると、参入障壁は高いということになってしまう。

先述の青森県の稲作支援の場合、農業という既存の事業が出発点となっている。もともと、航空機からのリモートセンシングによって稲の生育状況を調査していたが、コストは100平方キロメートルあたりおよそ300万円。あるところで人工衛星の画像データの精度が向上し、しかも3分の1のコストで航空機からのものに匹敵するデータを得られるようになったという。衛星画像は短時間で広域を撮影できるというメリットもあり、現在では3000平方キロメートル分の衛星画像を利用している。

先にあったのは「高品質な米の生産」という課題であり、データは航空機リモートセンシングデータでも可能だった。衛星画像のコストと質が一定の水準に達したことから衛星画像データ利用が視野に入ったということだ。

■ビジネスに利用できる衛星データ

現在、民間が入手してビジネスに利用できる衛星データの種類を挙げてみよう。代表的なものでは、衛星にカメラを搭載し地表を撮影する“光学地球観測衛星”の画像データがある。いわゆる「衛星写真」で、画像として地上の様子が見られるので何が写っているのかわかりやすい。2000年代に入って民間の地球観測衛星が画像を販売するようになり、画像データを利用するビジネスが興きてくるようになった。この分野での転機は、2013年に米デジタルグローブ社が米政府の許可を受けて、航空写真に迫る解像度25センチメートルの超高精細な衛星画像を販売できるようになったことがある。

ただし、光学衛星が地表を撮影できるのは晴れて雲が少ない日中だけだ。そこで、曇っているときや夜間でも活躍するのが“レーダー地球観測衛星”。レーダーで観測した建造物や地形といった地表の凹凸の情報を画像化する。見た目は白黒でわかりにくいが、災害時に壊れた道路や地すべりの跡などを夜間でも緊急観測することができる。レーダー衛星の画像は長い間軍事技術であり、民間の利用は制限されていたが、2016年に米政府が“合成開口レーダー(SAR)”とよばれるレーダー衛星画像の商用利用を許可した。2018年からフィンランド、アメリカなどSAR衛星を打ち上げて画像を販売する民間企業が活動を開始し、世界で各社がレーダー画像を使ったビジネスを模索している段階だ。日本ではNECが衛星の開発、打ち上げから画像販売まで手がけているほか、スタートアップ企業2社が超小型SAR衛星の打ち上げ、画像販売を計画している。

光学からレーダーへ、地球観測で“見える”データの種類が増えて、これから登場するとみられるのが“マルチスペクトル”“ハイパースペクトル”という衛星搭載型のセンサーだ。どちらもカメラの機能を拡張した機能を持っており、人間の目では見えない波長の光を捉えられる。農作物の生育状態や病害虫の発生などを調査したり、地表の色から地下の資源を発見したりといった利用が考えられている。商用で衛星を打ち上げ、利用している企業はまだないが、2019年1月にJAXAのイプシロンロケットで打ち上げられた東北大学のマルチスペクトル衛星「RISESAT」などの研究開発が進んでいる。

2019年1月、JAXAのイプシロンロケット4号機で打ち上げられた超小型衛星 RISESAT(東北大学) Credit: JAXA
2019年1月、JAXAのイプシロンロケット4号機で打ち上げられた超小型衛星 RISESAT(東北大学) Credit: JAXA

このほか、宇宙から地表の熱、土壌の水分、降水(雨や雪)、大気中のチリやほこりなどさまざまな要素から地球を観測する衛星がJAXAを始めとする各国の宇宙機関で運用されている。こうした衛星のデータは政府のデータ公開方針に沿って民間にも開放され、研究やビジネスに利用できるようになりつつある。日本では、2019年2月に経済産業省の事業として衛星画像データプラットフォーム「Tellus」がスタート。JAXAやNECの光学、レーダー地球観測衛星画像を利用できるようになった。3年間の期限付きだがデータ利用は無償で、衛星データビジネスの勃興が期待されている状況だ。

そこで、課題を設定して解決する宇宙ビジネスのアイディアを実際に組み立ててみるという思考実験を行ってみた。テーマは、衛星データを使った花粉症の情報提供サービス。その検証プロセスを通じて、今後市場が盛り上がる宇宙ベンチャービジネスの可能性を探ってみよう。

人工衛星から見た世界の植生 Credit: NASA
人工衛星から見た世界の植生 Credit: NASA

衛星データ草本花粉症対策サービスの顧客と公共性

2019年春、今年も本格的なスギ花粉症のシーズンが始まった。東京都ではほぼ半数近い人がスギ花粉症を持っている。さらにその中で2割近くの人は、夏から秋に症状が出る草の花粉症(草本花粉症)も合わせ持っている。

環境省花粉観測システム はなこさんによるスギ・ヒノキ花粉情報
環境省花粉観測システム はなこさんによるスギ・ヒノキ花粉情報

草本花粉症の原因となる植物は雑草として道ばたや河原に生えていることが多く、症状はくしゃみ、鼻水、目や体のかゆみなどスギ花粉症と同じだ。東京都ではおよそ670万人がスギ花粉症を持っており、その中で草本花粉症の症状が出る可能性がある人は、カモガヤでは170万人、ブタクサでは80万人ほどいる。全国ではスギ以外の花粉症(北海道特有のシラカバなども含む)の有病率は15.4パーセント、日本の人口にすると2000万人以上だ。

出典:国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所 江戸川堤防に生育するイネ科植物の花粉対策の手引き(案)
出典:国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所 江戸川堤防に生育するイネ科植物の花粉対策の手引き(案)

しかし、スギ花粉症に比べ草本花粉症の情報は圧倒的に少なく、本格化する5~9月の情報がない。結果として、スギ花粉症が季節ごとに襲来する敵だとすれば、草本花粉症はある日突然に目のかゆみ、くしゃみといった症状がおきて気づくゲリラ型になっている。

衛星データは使えるか? ターゲットの草を知る

草本花粉症の主な要因であるイネ科植物とブタクサの分布をみると、「河川敷」がキーワードに浮かんでくる。

春のイネ科の植物による花粉症被害は、首都圏ではこれまで江戸川周辺で発生が報告されている。東京都ではネズミホソムギという欧州から輸入された牧草が雑草化した植物が原因となっている。

イネ科のネズミホソムギは5月になると穂をつけ、開花のピークは5月中旬から6月下旬ごろ。スギ花粉の飛散距離は数十キロメートルから、風の条件によっては100キロメートルを超えるといわれるが、ネズミホソムギの花粉の飛散距離はおおむね200メートル以内とされている。花粉対策が必要な範囲は主な分布地である河川敷、川の堤防の上や堤防下の道路、堤防に隣接する住居や公共施設が対象になってくる。

衛星画像を使って都市部の草本花粉症の原因植物の分布を調べた研究。赤は原因となる草が多いエリア。出典:『Identifying urban sources as cause of elevated grass pollen concentrations using GIS and remote sensing』より
衛星画像を使って都市部の草本花粉症の原因植物の分布を調べた研究。赤は原因となる草が多いエリア。出典:『Identifying urban sources as cause of elevated grass pollen concentrations using GIS and remote sensing』より

もうひとつのブタクサとその仲間のオオブタクサは明治初期に北米から入り込んできたキク科の草で、8月~10月に花粉を飛ばす。埼玉県の調査では、護岸工事のされていない河川敷周辺から繁茂が広がっているという。

河川敷は国が管理する土地のため生えても周辺の人が勝手に除草することができない点もポイントだ。草本花粉症の対策をするならば、川の周辺がまずターゲットだということが見えてくる。江戸川だけに絞っても流域面積は200平方キロメートルあり、衛星データのメリットである「広域性」にも合致する。

花粉を見分ける宇宙からの眼

ターゲットを絞ったところで、「イネ科花粉を見つける」方法を具体的に考えてみる。スギでは飛んできた花粉を自動計測器で数えることができる。しかしイネ科植物の場合、花粉が飛ぶ範囲が狭く、広い範囲で花粉飛散情報を調べるには計測器を大量に設置しなくてはならない。スギと違って自動計測ができないので人手もかかる。

そこで、衛星から広域の情報を短時間で調べられる、「ハイパースペクトルセンサー」を利用してみる。

HISUIハイパースペクトルセンサーってなんだ

ハイパースペクトルセンサーは、これまで航空機に搭載され利用されてきた。しかし、航空機を頻繁に飛ばすには費用がかかる。人工衛星ならば数十キロメートル以上の広域を観測でき、画像コストも航空機のものより低額だ。現在世界各国で次々と衛星搭載型ハイパースペクトルセンサーの開発、打ち上げが進んでおり、日本では経済産業省手動で開発中の「HISUI(ヒスイ)」を2020年に打ち上げる予定だ。

HISU I (Hyperspectral Imager SUIte) は宇宙実証用のハイパースペクトルセンサです。

陸域を全球規模かつ高分解能で観測することを目的とした光学センサにおいては、現在は十数バンドの波長帯を観測するマルチスペクトルセンサが多く運用されています。

そして将来に向けては、植生や鉱物等をより詳細に分類するために、連続する波長帯を全て細かく観測することができる光学センサ、いわゆるハイパースペクトルセンサが非常に有効であることが明らかになっています。

(中略)

このような状況の中、ハイパースペクトルセンサの計画あるいは開発が欧米を中心に進んでいて、日本においてもHISUIプロジェクトが進んでいます。HISUIは2019年度より国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」に搭載して運用することを計画しており、全球規模で観測可能なハイパースペクトルセンサが、世界で初めて実現することになります。

HISUIの、可視域から短波長赤外域をカバーする連続的な185バンドのデータにより、資源分野で必要な多数の鉱物の分布状況、環境分野で必要な森林や草本の詳細な分類、農業分野で必要な農作物や土壌の状態の把握など、現状では得ることができない新たな情報が得られることとなり、衛星リモートセンシング技術を新たなステージに引き上げてくれる潜在力を有しています。

出典:宇宙システム開発利用推進機構「HISUI 宇宙実証用ハイパー・マルチスペクトルセンサ」

HISUIは赤外線の領域まで観測し、樹木や草本の詳細な分類ができる。観測画像の精度は30メートル、一度に観測できる領域は幅30キロメートルで、河川敷や線路沿いのような細長い土地ならば利用できそうだ。

衛星画像プラットフォーム「Tellus」による都市部の植生マップ
衛星画像プラットフォーム「Tellus」による都市部の植生マップ

HISUIセンサーの画像は、プロジェクトを進めるJSS(宇宙システム開発利用推進機構)からの有償配布になると思われる。ただ、衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」でも将来はHISUIデータの取り扱いを検討しているといい、最小限のコストでデータを入手できそうだ。

HISUI衛星データで花粉は本当に見えるか?

HISUIの観測データで本当に草本花粉症の植物を探すことは可能なのか。専門家に聞いてみた。

RESTEC リモートセンシング技術センターの小田川信哉主任研究員によると、「ハイパースペクトルセンサーは植物の微妙な変化を見分けることが得意なので、技術的には可能だと思います」という!

ただし、ハイパースペクトルセンサーで観測したデータが本当に花粉症の原因植物、イネ科の雑草やブタクサの特徴を捉えているのか検証することが必要だという。そのために必要なのが、地上で取った「教師データ」だ。例えば実際に生えているネズミホソムギやブタクサを地上で撮影して、データの中から草の特徴を確実に捉えられる部分を見つけ出す。これをもとに衛星データを解析して、「ここに同じ特徴を持つデータが含まれている」という部分を取り出す。さらに衛星が撮影した場所で、実際にネズミホソムギやブタクサが生えているか確かめる。こうした解析と検証のサイクルを繰り返し、衛星データから真に目的の草を判別できるように精度を上げていくのだ。

「できれば1年間はこの作業が必要ですね」(小田川さん)といい、草本花粉症対策サービスを立ち上げるまでには最低でも1年の研究開発期間が必要であることがわかった。幸いなことに、対象の草は都市部の河川敷にある。これが高山植物など生息域が限られる植物の場合は山に登るだけでコストがかかるが、河川敷なら許可を取れば立ち入れる。ただし、思うように教師データが作れず試行錯誤を繰り返す可能性はあるといい、その場合は費用が数千万円の規模になることも考えられるという。

どんなサービスになる? データを買ってくれる対象は?

衛星画像を使った草本花粉症情報サービスが技術的に成立しそうだということが見えてきた。これをサービスとして一般に提供するならば、Webサイトやスマートフォンアプリ、天気予報の「草本花粉予報」のようなものを通して一般ユーザーへ情報を提供すれば、多くの人が利用しやすいだろう。利用者が住んでいる地域や行動範囲に草本花粉のリスクがあった場合、医療機関の受診やアレルギー症状の治療薬の購入、マスクやメガネ、除草用品の購入などの行動につなげることができる。

米CNNニュースサイトの花粉予報。樹木以外に、草本花粉症の予報を選ぶことができる。
米CNNニュースサイトの花粉予報。樹木以外に、草本花粉症の予報を選ぶことができる。

ただし、現在のスギ花粉症情報サービスは、ニュースや天気予報の一部として一般ユーザーが無料で利用できる。草本花粉症の情報サービスが有料では利用者は少数だろう。スギ花粉情報と同じように、無料の情報を提供する方が良さそうだ。

一般ユーザーから利用料を得ることが難しいならば、草本花粉症の情報サービス開発に投資しそうな相手は誰か。東京都の報告書によれば、花粉症患者のおよそ6割は、市販薬やマスク、症状が重い場合には医療機関を受診して処方薬などを利用している。そこで、顧客ターゲットは花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)の治療薬を製造する製薬会社、マスクなどの衛生材料を製造するメーカーが考えられる。除草すれば原因を取り除けるので、園芸用品のメーカーもターゲットに入る。

運用の落とし穴

草本花粉症の情報サービスを実現させる技術と、顧客が見え、これは可能性があるのではないだろうか、と思いかけたとき、衛星画像の技術者から意外なコメントがあった。

「HISUIのデータは重すぎるから、ISSから電波では降ろせなくてデータストレージに入れて地上に持ち帰ってくるはずですよ」

まったく想定していなかった落とし穴だった。地球観測衛星のデータは大容量で、地上にどのように送るかについてはこれまでも問題になっている。ハイパースペクトルセンサーは観測する波長の数が飛び抜けて多く、データのサイズが重量級だ。そのため、ISSのデータ送信アンテナが利用できないというのだ。

急いで運用計画を確認すると、ISSから「補給機によるデータストレージ定期回収」と確かに書いてある。データストレージとはハードディスクドライブのことだ。

ISSから実験資材などを持ち帰ってくるスペースXのドラゴン補給機の飛行は1年に3~4回程度で、HISUIのデータが入ったハードディスクが地上に戻って観測データを入手するまでに、3~6ヶ月の時間がかかる。だが草本花粉症の情報は季節のもの。5月にネズミホソムギを観測できたとしても、データ入手が9月になるのでは、花粉のシーズンは終わっていて対策のしようがない。

もともとHISUIの開発目的は鉱物資源の探査などで、データ回収までに時間がかかっても問題なかった。しかしシーズンが決まっている植生の分類に利用しようとすると、目標時期に間に合わない大きなリスクがあるということがわかった。

宇宙データビジネスのギャップ

「人工衛星の画像データを使って、草本花粉症の情報サービスという宇宙ビジネスを作り出せないか?」と考えて、技術的な成立性、開発期間、顧客ターゲット、運用計画などを検討してみた。技術的にはどうやら可能であるようだが、運用計画でつまずいてしまうという結果に終わった。

地球観測衛星の大容量データを地上に送れない問題はHISUIだけでなく他の衛星でも起きている。2019年中に「データ中継衛星1号機」という衛星データ通信専用の衛星が打ち上げられる予定だが、残念ながらこの衛星は内閣府の「情報収集衛星」のためのもの。2019年には「光データ中継衛星」が打ち上げられるが、光通信という新たな技術が確実に利用できるようになるまで待たなければならない。地球観測衛星ビジネスを計画する民間の研究者からも、「事業者はみんな、データ中継衛星が使えたらいいのにと思っています」という嘆きを聞いたこともある。このボトルネックが解消されない限り、日本で「宇宙データを利用して新たなビジネス創出」の手前で足踏みが続くのではないかと思われる。

【参考文献】

Big Data in Earth Observation

Earth Observation Data Market to Reach $2.4 Billion, VAS Market Potentially at $9 Billion by 2027

第3回宇宙開発利用大賞 受賞事例集

日本における宇宙産業の競争力強化

宇宙基本計画工程表 (平成30年度改訂)

農業分野における衛星データの活用事例~ 「青天の霹靂」での高品質米の生産支援 ~

・2019年2月28日「衛星データを身近に活用し、あなたのビジネスをアップグレード」イベント資料

環境省|花粉症環境保健マニュアル2014

環境省花粉観測システム(はなこさん)

東京都|花粉症患者実態調査報告書(平成28年度 )

国土交通省 関東地方整備局 江戸川河川事務所 江戸川堤防に生育するイネ科植物の花粉対策の手引き(案)

ブタクサ属(Ambrosia spp.;Ragweed)花粉飛散量の増加について -埼玉県における秋期の主要アレルゲン花粉飛散状況の推移-

ブタクサ花粉症からみた鼻アレルギーの診断と治療

Tellus

国土地理院|植生指標データについて

Identifying urban sources as cause of elevated grass pollen concentrations using GIS and remote sensing

精密な草地管理のためのリモートセンシング

AVNIR-2(アブニール2):高性能可視近赤外放射計2型について

次期地球観測衛星システムのJAXAにおける動向

ハイパースペクトルデータを用いた植生指標画像作成支援を目的としたバンド選定アルゴリズムの一提案

ハイパースペクトルデータによる都市域における植生分類手法の検討

ハイパースペクトルデータAVIRISを利用した都市域植生分類精度に関する研究 -コロラド州ボウルダーにおける詳細な植生把握-

「石油資源を遠隔探知するためのハイパースペクトルセンサの研究開発」プロジェクト評価用資料(中間評価)

『鼻アレルギー診療ガイドライン 2016年版』鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会

『基礎からわかるリモートセンシング』日本リモートセンシング学会編

『野草・雑草の事典530種』金田初代(文) 金田洋一郎(写真)

『雑草のはなし 見つけ方、たのしみ方』田中修

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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