予想を超える17時間「はやぶさ2」搭載の欧州着陸機「MASCOT」の大活躍

小惑星リュウグウ表面で活躍した欧州のMASCOT着陸機 Credit: DLR

2018年10月3日、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載された欧州の着陸探査機「MASCOT(マスコット)」は小惑星リュウグウ上で予想を上回る17時間の観測活動を終了し、こんなツイートを送ってきた。

(追加の時間で、ぼくは小惑星の3日目を少し迎えてもう1回ホップできたよ! でも、一番よかったのはぼくが集めたデータを“ぜんぶ”はや2くんに送れたってことだね! さあ、チームのみんな、リュウグウの解明はまかせたよ)

※ツイート時間は10月4日

マスコットは、フランス国立宇宙研究センター(CNES)とドイツ航空宇宙センター(DLR)が共同で開発し、はやぶさ2に搭載された着陸探査機。2018年9月21日にはやぶさ2から投下された日本のローバー「ミネルバ2-1」に続いて日本時間10月3日昼、小惑星リュウグウに向けて投下された。

ミネルバ2-1が1機1キログラムほどと小型で、移動メカニズムの検証や画像撮影などを主な目的としているのに対し、マスコットはより大型の10キログラム近い重量がある。広角カメラ「MASCAM(マスカム)」、分光顕微鏡「MicroOmega(マイクロオメガ)」、熱放射計「MARA(マーラ)」、磁力計「MASMAG(マスマグ)」と4つの本格的な観測機器を備えている。小惑星表面での移動を目的としたローバーではないが、モーターを用いてホップ(跳ねる)して移動したり姿勢を正すことも可能だ。

MASCOT着陸機。 Credit: DLR
MASCOT着陸機。 Credit: DLR

4つの観測機器の中でも、マイクロオメガとマーラは重要な役割を担うとして観測成果が期待されていた。これまでのはやぶさ2に搭載された近赤外分光計「NIRS3(ニルス・スリー)」の観測では、小惑星リュウグウの表面に水を含む鉱物は多くないかもしれない、という結果となっている。より詳しい分析は、はやぶさ2が持ち帰る表面の物質の分析が待たれている。その中で、リュウグウの表面に降り、ニルス・スリーと同じ赤外線で鉱物を顕微鏡で観測できるマイクロオメガの存在は水を含む鉱物の発見につながるかもしれないのだ。

分光顕微鏡「MicroOmega(マイクロオメガ)」 Credit: DLR (CC-BY 3.0)
分光顕微鏡「MicroOmega(マイクロオメガ)」 Credit: DLR (CC-BY 3.0)

マイクロオメガは、先端の部分を小惑星表面に押し付けるようにして観測する必要があり、3ミリ四方の範囲を1回に15分かけて観測する。岩だらけででこぼこしたリュウグウ表面で、うまく観測に向いた姿勢を取れるのか、これはミッションを実施してみなくてはわからない要素だった。

一方、マーラは小惑星表面の温度の変化を記録する観測機器だ。小惑星の表面も地球と同様に日中は太陽に照らされて温度が上がり、夜になると冷える。この温度の変化を記録し、「熱慣性」と呼ばれる温度の“変わりにくさ”を分析することで、小惑星の表面にある物質の内部を調べることができる。「物質がスカスカの場合、昼間は急激に熱くなり、夜はすぐに冷めて熱慣性は小さいということになります。物質が稠密(ちゅうみつ)な場合、昼間は内部まで熱がしみこむので温まりにくく、夜は内部の熱が出てきて冷めにくいので熱慣性が大きいと言えます。表面の物質が密かどうかがわかることで、小惑星リュウグウを形作ることになった元の天体でどのような密度の物質ができていたかがわかるのです」(JAXA宇宙科学研究所 MASCOT担当の岡田達明准教授)という。

熱放射計「MARA(マーラ)」 Credit: DLR (CC-BY 3.0)
熱放射計「MARA(マーラ)」 Credit: DLR (CC-BY 3.0)

マーラが温度測定を予定通り行うには、およそ7.5時間で自転する小惑星の昼夜を両方共過ごさなくてはならない。マスコットの活動時間は、搭載した電池寿命の16時間だ。想定通りの時間を無事に過ごすことができるのか、こちらも案じられていた。

一度きりのチャンス。マスコットの運命は?

マスコット投下の前日となる10月2日、マスコットチームのプロジェクトマネージャーであるDLRのトラミ・ホー博士はブログに「But we must also'let him go' so that he can follow his own path.(彼が自分の道を行くことができるように、送り出してやらなくては)」と記している。日本時間10月3日、はやぶさ2チームの津田雄一プロジェクトマネージャは、マスコットチームに「グッドラック」と伝えて分離コマンドを実施したという。

MASCOTは日本時間3日午前10時58分にリュウグウの表面から高度51メートルのところで切り離され、20分ほどかけて表面に着陸した。

MASCOT着陸機が小惑星リュウグウへ降下中に撮影した画像。右上に着陸機自身の影が写っている。 Credit: MASCOT/DLR/JAXA
MASCOT着陸機が小惑星リュウグウへ降下中に撮影した画像。右上に着陸機自身の影が写っている。 Credit: MASCOT/DLR/JAXA

着陸からまもなく、マスコットは20枚ほどの写真を撮影し、小惑星に向かって降下中に自らの影が写った写真をはやぶさ2に送信してきた。「MASCOT Lander(@MASCOT2018)」のツイートによると、姿勢を立て直し、マイクロオメガとマーラでの観測を実施したという。さらに、16時間の想定を超えて電池は17時間以上も持った。そして、観測データをすべてはやぶさ2に送信した、と宣言した。

MASCAMカメラが撮影した着陸直前のリュウグウ。高度10~25メートルとされている。 Credit: MASCOT/DLR/JAXA
MASCAMカメラが撮影した着陸直前のリュウグウ。高度10~25メートルとされている。 Credit: MASCOT/DLR/JAXA
MASCAMカメラが撮影した着陸直前のリュウグウ。高度10~20メートルとされている。 Credit: MASCOT/DLR/JAXA
MASCAMカメラが撮影した着陸直前のリュウグウ。高度10~20メートルとされている。 Credit: MASCOT/DLR/JAXA

DLRの発表によると、日本時間10月4日午前4時4分にマスコットの電池がつきたとのことだ。また、すべての観測機器がデータを集めることができたといい、ホップする機能を用いて小惑星の複数地点で写真撮影にも成功したという。「ミニ・ムーブ」と呼ばれるわずかな姿勢変更を実施することができ、小惑星のステレオ画像を撮影したとのことだ。

マスコットからはやぶさ2本体に送信されたデータを地球に向けて送信するには数日かかり、そこからデータを解析する作業が始まる。マスコットから「後はまかせたよ」と託されたデータでどんな小惑星の姿が明らかになるのか、期待されるところだ。

はやぶさ2搭載の光学航法カメラ(ONC-W2)から撮影された降下中のMASCOT着陸機。 JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研
はやぶさ2搭載の光学航法カメラ(ONC-W2)から撮影された降下中のMASCOT着陸機。 JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研