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どうする家康のうどん…人気土産「家康公が愛したうどん」開発には図書館の無料サービスが!

秋元祥治やろまい代表取締役/武蔵野大学EMC教授/オカビズ
大河ドラマ「どうする家康」で人気の「家康公の愛したうどん」(大正庵釜春提供)

人気お土産の誕生秘話

 みなさんはお土産を選ぶ際、何が購入の決め手となっていますか?お土産というのはその土地の魅力をぎゅっと凝縮したもの。ゆえに開発には、イートインメニューを考えるのとはまたひと味違った難しさがあります。

今回取り上げるのは、お土産づくりに挑戦した老舗うどん店の話です。新たな魅力を創出し、新商品開発のお手伝いをした岡崎ビジネスサポートセンター(通称オカビズ)で私が取り組んだ、お土産づくりの裏側をご紹介します。

うどんのイメージがない街でどうお土産に

 行列が耐えない人気うどん店、大正庵釜春があるのは愛知県岡崎市。創業は明治時代中期。釜揚げうどんの元祖として知られ、特注の粉を用いて手打ちするもちもちの生麺が自慢です。また岡崎市名物、八丁味噌を使った味噌煮込みうどんも人気が高いほか、とうもろこしと溶き卵を餡に絡めたもろこしうどんも、テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」などで取り上げられ話題を集めています。

地元で愛されるもろこしうどん(大正庵釜春提供)
地元で愛されるもろこしうどん(大正庵釜春提供)

 うどん店としては順風満帆の経営を続けている大正庵釜春ですが、実はある悩みがあって太田専務がオカビズへおいでになりました。相談内容は、「うどんをお土産として売りたい」というもの。最初この話を聞いた時、正直難しいと思いました

・・・というのもこれまで岡崎市には、うどんのイメージがなかったからです。

香川県のさぬきうどん、群馬県の水沢うどん、長崎県の五島うどんのように、うどんがご当地グルメとして定着していれば話は早いですが、岡崎市で単にお土産として販売しても、なぜうどん?となってしまい、売り上げは伸び悩むことが予想されました。

オカビズに相談に訪れた大正庵釜春・太田専務と筆者(オカビズスタッフ撮影)
オカビズに相談に訪れた大正庵釜春・太田専務と筆者(オカビズスタッフ撮影)

岡崎市ですでに確立されている名物といえば、まず八丁味噌。岡崎城から西に八丁(約870m)行った地点で作られていたことが語源で、今でも「まるや」と「カクキュー」という2大企業が味噌づくりを継承しています。八丁味噌を使っての商品開発はすでに味噌煮込みうどんとして販売されています。では、どうすればうどんをお土産として売れるのか、頭を抱えました。

家康公のうどん好きを証明すべく図書館へ

 滑り出しは順調、とは決して言えなかったうどんのお土産化計画。視点を変えて、今度は徳川家康公に注目してみることにしました。岡崎市といえば、徳川家康公生誕の地。これをうまく生かせないかと考えたのです。

そこでまずネットで情報収集してみたところ、なんと徳川家康公はうどんが好きだったという説を発見。これが事実なら朗報ですが、ネットの情報を何の疑問も持たずに鵜呑みにするのは危険です。なぜならば、複数のサイトで同じことが書かれていたとしても、元を辿れば1つのサイトから引用されていることが珍しくないから。また、情報というのは常に新しくなっていくものであり、時にネット上では正しさより流行っている情報のほうが重視されることもあるからです。

 オカビズは情報の信憑性を確かめるため、図書館のビジネスレファレンスサービスを活用することを提案しました。ビジネスレファレンスサービスとは、図書館のデーターベースにアクセスして、ビジネスに必要な情報を無料で探し出してくれるサービスのこと。これまで発行された新聞や雑誌、全国の図書館に所蔵されている書籍、辞書、法律判例や医学に関する最新の情報まで、検索物は多岐に渡ります。

さっそく「徳川家康公のうどん好きを裏付ける資料を探してください」とお願いしたところ、狙い通り「駿府記」という書物がヒット!

「駿府記」は、徳川家康公が将軍職を退いた後、駿府(静岡県静岡市)で過ごした隠居生活の様子を記したもの。慶長16(1611)年8月から死の数ヶ月前である元和元年(1615)年12月までの動静が記録されていました。そこには、徳川家康公は真夏でも身体を冷やさないように生姜入りの熱々うどんを特別に用意させていたこと、消化が良いように麺は柔らかくして食していたことが、はっきり記されていたのです。

図書館でのビジネスレファレンスサービスを通じて商品化された「家康公の愛したうどん」(大正庵釜春提供)
図書館でのビジネスレファレンスサービスを通じて商品化された「家康公の愛したうどん」(大正庵釜春提供)

 こうして確かな裏付けが取れたことで、徳川家康公が愛したうどんを再現し、お土産として売り出すことが決定。当時はまだ小麦粉の精製技術がなかったと想定し、全粒粉で麺を打ち、さらに生姜を練り込むという工夫を凝らしました。すると、完成度が高い商品のみを集めた「岡崎プレミアムみやげ品」に選定されたのを皮切りに、郵便局のカタログギフトにも掲載され、一気に日本中から注文が入る人気お土産として躍進。

さらに、今年から放送がスタートしたNHK大河ドラマ「どうする家康」の影響で、ますます注目度がアップ。テレビで全国放送されたことで、店頭にはいっそうお客様が増え、お土産も順調に売り上げを伸ばしています。また、岡崎城のある岡崎公園売店「おかざき屋」でも、人気商品となってるとのこと。

大河ドラマ「どうする家康」で人気の「家康公の愛したうどん」(大正庵釜春提供)
大河ドラマ「どうする家康」で人気の「家康公の愛したうどん」(大正庵釜春提供)

「その街らしさ」と「正確な情報」を大切に

 お土産を開発する上で大切なポイントは、来た人がわざわざ買って帰りたいかどうかということ。歴史や文化など、その街ならではの特徴が現れているものを選びたいと思うのが普通なので、そこの理由をどう作るかが重要です。今回のケースだと、「徳川家康公生誕の地」という街の魅力を掘り起こしたことで、岡崎市らしいお土産を完成させることができました。

 また、情報の真偽が分からないからといって簡単に諦めるのではなく、ビジネスレファレンスサービスで裏付けを取ったのも大事なポイントでした。

図書館というと本を借りる場所という印象が強く、仕事と結びつけて考えることはあまりないかもしれません。しかし膨大な量のデーターベースを保有し、しかもそれを無料で共有してくれるというのは、ビジネスシーンにおいて大きな助けとなります。ビジネスレファレンスサービスは大半の図書館で行われており、調べる際も司書の方がお手伝いしてくれてとても便利。1つの情報が思わぬチャンスをもたらすこともあるので、何か調べ物がある時は活用してみることをおすすめします。

やろまい代表取締役/武蔵野大学EMC教授/オカビズ

01年より、人材をテーマにした地域活性に取り組むG-netを創業し03年法人化。現在理事。13年オカビズセンター長に就任。開設9年で約3300社・2万2千件超の来訪相談が押し寄せ、相談は1ヶ月待ちに。お金をかけずに売上がアップすると評判で「行列のできる中小企業相談所」と呼ばれている。2022年より武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授に就任。内閣府・女性のチャレンジ支援賞、ものづくり日本大賞優秀賞、ニッポン新事業創出大賞・支援部門特別賞ほか。内閣府「地域活性化伝道師」等、公職も。著作「20代に伝えたい50のこと」、KBS京都「KyobizX」・ZIP-FM「ハイモニ」コーナーレギュラーも。

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