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飲食業界の危機にゲコノミクス!ノンアル強化で、新たなビジネスチャンスをつかめ。

秋元祥治やろまい代表取締役/武蔵野大学EMC教授/オカビズ
ノンアルペアリングのbistro Ao、品揃えを強化する発知商店(各社提供)

新型コロナ以前から徐々に注目度が高まっているノンアルコール市場は、緊急事態宣言で酒類を提供する飲食店に休業要請が出たことをきっかけに、一気に拡大しました。第5波の収束とともに緊急事態宣言が解除され、街にはすこしずつ活気が戻りつつあります。

とはいえ、酒類提供禁止要請を機会にノンアルコールにビジネスチャンスを見出した事業所の取り組みを紹介します。

まちの酒屋・発知商店さんと飲食店・bistrot Aoさんをご紹介します。

▼ゲコノミクス(お酒を飲めない下戸をターゲットにした新市場)の活況

ゲコノミクスというキーワードを目にしたことがあるでしょうか。藤野英人さんが発起人で、お酒を飲まない・飲めない「下戸」に着目したサービスや商品強化にビジネスチャンスがあるはずだ、という考え方で、著作「ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ! 」も注目が集まっています。

 「平成の時代まではゲコは冷遇されていたが、令和の時代になってついに全国のゲコは立ち上がることになった」――。2019年、フェイスブックでお酒が飲めない下戸の集まり「ゲコノミスト」が発足した。半年で3000人超の参加者が集まり、埋もれていた下戸の本音が浮かび上がっている。

 若い世代のお酒離れや、健康志向の高まりでノンアルコール市場への注目度が高まる一方で、発起人であるレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は、「メーカーや飲食店など提供者側の下戸への理解が足りない」と指摘する。下戸が楽しめるノンアル商品が登場すれば、「ゲコノミクス」効果は3000億円以上の潜在力がある

下戸が開く「ゲコノミクス」で経済効果は3000億円以上(日経ビジネス)

厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(2017 年)の結果では、20 歳以上の 55.4%が週 に何日くらいお酒を飲むかという質問に「ほとんど飲まない」「やめた」「飲まない(飲めない)」と回答。 コロナ禍の緊急事態宣言・酒類の提供中止…といった前から、日常的にお酒を飲まない人々はよのなかの半数以上、だという事実があるようなんです。

居酒屋はもとより、飲食店では利益率の高さからも、お酒をうってなんぼ・・・、つまりアルコールを前提にビジネスが組み立てられてきたんですね。

そのような中で、コロナ禍では酒類提供禁止を逆手にとらえて、チャンスにする流れがうまれています。

烏龍茶とオレンジジュースなど…、といったソフトドリンクのメニュー構成を強化することで、飲食店では非飲酒客の単価アップや新たな顧客開拓の一手として注目されているんです。

▼開発のきっかけは、2年前。ノンアルコールペアリングが好評で定番化へ!

炭火料理に合った自然派ワインのペアリングが楽しめるbistrot Ao(ビストロアオ)は、ソムリエ、バーテンダーと料理の経験を併せ持つ店主・渡辺博史さんのお店です。2年前、友人が東京でノンアルバーを手掛けたことをきっかけに関心をもち、情報収集や商品開発に着手。こうしたバックグラウンドを活かし、独自開発した「ワイン好きのためのノンアルワイン」を、緊急事態宣言の発令とともに定番メニューとして導入しました。

ワイン独特の風味や後味、香りの特徴を再現するため、お茶やハーブ、香辛料などをオリジナルの使い方 でブレンド。見た目もワインに近づけるために工夫し、視覚的にも楽しめる工夫をし、香りの奥行などを妥協なく再現。

2020 年末のクリスマスには、ワインペアリングに加えて、同店で初めて「ノンアルコールペアリング」を提供。ペアリング希望者の 2 割ほどがノンアルペアリングを希望し定例メニュー化を決めたそうです。

今後はシャンパン風や樽の香りのするノンアルカクテルなど、さらにラインナップを増やしていく予定なのだそう。

これまでワインペアリングなど、お酒と一緒に楽しむことが中心に考えられてきたコース料理でも、飲めない人でもペアリングを楽しむことができるようになったのです。

店舗側にとっても、烏龍茶やジュースなどのソフトドリンクで終わっていた顧客が、料理ごとに合わせ工夫されたノンアルコールドリンクを楽しむことを通じて、客単価の向上にもつながったり、新たな顧客層の開拓…といった効果が生まれています。

渡辺さんは「幹事さんやドライバーの方、妊娠中の方など、飲酒を控えている方にもワインと同様に料理や雰囲気を楽しんでいただけるお店にしていきたい」と話しています。

bistrot Ao(ビストロ アオ)

愛知県岡崎市材木町1-22 アクロスビル B1F

https://www.instagram.com/bistrot.ao.2018/?hl=ja

▼まちの酒屋も、ノンアルコールドリンク拡充で、ビジネスチャンスに

発知商店(岡崎市)は、地域に根差した酒屋として創業102年。コロナ禍の影響は大きく、平時は売上の 5 割以上が飲食店への卸業であるため、コロナ禍の蔓延 により受注が最大 9 割減という大きな危機を迎えました。また、コロナ前の2019年12月に新たな取組としてスタートした店頭で気軽にお酒とつまみを楽しめる「角打ちサービス」も、一時は売上の 2 割強を占めるほど評判を呼んだものの、短縮営業・休業の要請やお客様の外出自粛により来店者が激減。コロナ禍の中で営業時間もたびたび制限され、新しい顧客層の開拓や魅力づくりのために本格的にノンアルコールドリンクの販売強化を決意したのでした。

かねて世界中のプレミアムノンアルコール飲料を30種類近く取り扱っていたこともあり、卸先飲食店からの「この機会にノンアルメニューを強化したい」という声を受けて、ノンアルドリンクの品ぞろえを拡充。

さらにモクテル(ノンアルコールカクテルのこと)のレシピも取り揃えて、顧客に提供する「プレミアノンアルモッテGO!」を開始。“下戸”という新たな層にアプローチすることで、アルコールが飲めない人とも一緒におうち時間を充実させる新習慣を提案し、飲食業界が苦しい状況を乗り越えていくための後押しをしています。

株式会社 発知商店・角打ちリカーホッチ

〒444-0833 愛知県岡崎市柱曙1丁目3-5

https://hotchisyouten.boo-log.com

緊急事態宣言が解除されるなかでも、年末に向けて第6波がまた到来することも予見される状況です。1年半を超えるコロナ禍の中で「いつか、またもとのように戻るはずだから下を向いてぐっと耐え忍ぼう」という姿勢で過ごすのか。あるいは「このような中だからこそどこかにチャンスがないか、試行錯誤を繰り返そう」と捉えるのか、その姿勢の違いが事業成果に違いを生み出しつつあるように思います。

ワクチン接種の広がりと経口治療薬の普及が日常を取り戻す大きな転機になると、期待が集まっています。もちろん筆者もそれに期待する一方、やはり前と同じには戻らないでしょう。コロナ禍によって生まれたライフスタイルやワークスタイルの変化は、さらに加速するのかもしれません。

ピンチをチャンスと捉えて、チャレンジする姿勢がますます求められていると思います。

やろまい代表取締役/武蔵野大学EMC教授/オカビズ

01年より、人材をテーマにした地域活性に取り組むG-netを創業し03年法人化。現在理事。13年オカビズセンター長に就任。開設9年で約3300社・2万2千件超の来訪相談が押し寄せ、相談は1ヶ月待ちに。お金をかけずに売上がアップすると評判で「行列のできる中小企業相談所」と呼ばれている。2022年より武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授に就任。内閣府・女性のチャレンジ支援賞、ものづくり日本大賞優秀賞、ニッポン新事業創出大賞・支援部門特別賞ほか。内閣府「地域活性化伝道師」等、公職も。著作「20代に伝えたい50のこと」、KBS京都「KyobizX」・ZIP-FM「ハイモニ」コーナーレギュラーも。

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