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自殺大国「日本」でマイノリティが生きていくためには。いじめ問題とLGBT(性的少数者)について考える

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
人の死を後押しする社会とは一体何のために存在しているのだろうか

日本の自殺者数は年間3万人を下回るようになりましたが、まだまだ問題の深刻さは変わっていません。背景の一つには、自殺のハイリスク層に対する視点がまだ盛り込まれていないことが挙げられます。

自殺のハイリスク層としては、自死遺族やアルコール依存症者、複数回の自殺未遂経験者などが挙げられますが、セクシュアル・マイノリティ(※)も実は自殺リスクがかなり高いことが知られています。2012年に改正された自殺総合対策大綱では、自殺のハイリスク層として初めて「性的マイノリティ」という文言が入り、教育現場での支援等を掲げることになりました。私自身も「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」での活動を通じ、大綱改正に関わった一人ですが、ここに至るまでにはサバイバーとしての人生の大きな苦しみがありました。

※セクシュアル・マイノリティについて詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。

SYNODOS JOURNAL

LGBT/セクシュアル・マイノリティ基礎知識編  遠藤まめた

日本の自殺対策は道半ばですが、セクシュアル・マイノリティの視点からの自殺対策の必要性について本稿では取り上げます。

一人のサバイバーとして

「語られなかった”生”を見つめて セクシュアルマイノリティの自殺予防を考える」
「語られなかった”生”を見つめて セクシュアルマイノリティの自殺予防を考える」

中学生の頃、私はクラスメイトから「ホモ」「オカマ」「女っぽい」「気持ち悪い」……などと言われていました。自分では、自分のことを特別に「男らしくない」と考えたことはなかったので、当時はなんのことだか見当も付きませんでした。自分が同性愛者かもしれないと思ったのは、中学3年のときでした。

性的な部分を攻撃されるので、大人に相談することにはためらいがありました。また、いじめ被害の訴えをうまく大人たちに説明する自信もありませんでした。しばらく不登校になりましたが、親や教師に急かされるまま、二週間後に無理やり学校に戻りました。教師は「男らしくない君にも問題がある」と言い、親から「もう大丈夫だから」と聞いていた教室は、相変わらずの地獄でした。

このときに教師や親たちがきちんと対応してくれていたなら、だいぶ楽だったと思います。中学を出て高校に進学した頃には、いじめの影響による心身症で引きこもりへ。「このまま家にいたら本当におかしくなってしまう」と怖くなり、17才のとき必死の思いで家出した先は、寮つきのニューハーフパブでした。

自分がセクシュアル・マイノリティかもしれないと思ったときに、目の前にあった情報源はテレビだけでした。女性の格好がしたいわけでも、女性になりたいわけでもなかったのですが、当時はそれしか思い付きませんでした。その後、実家に戻りましたが、同性愛者であることも、希望した進学先も、両親は否定するばかり。親の決めた大学に落ちたとき、「自分のやりたいこともできず、親の希望どおりにもできず、自分にはもう自らの命を絶つ選択肢しか残されていない」と自殺を図りビルの上から飛び降りました。全治半年の重傷でしたが奇跡的に命は助かったので今の私がいるものの、ここまでしないと周囲の人が私の話を受け止めてくれることはありませんでした。

以上が、一個人としてのライフヒストリーです。このような子ども時代を送り、その本心を周囲に語ることなく、自ら命を絶つ若者たちは他にもいるのではないか――あるいは、子ども時代をなんとか「生き延びた」としても、その後も「いじめの後遺症」を抱えて生きている大人は少なくないのではないか、と考えています。

65%が自殺を考え、15%が自殺未遂を経験

自死遺族弁護団の勉強会「セクシュアル・マイノリティの自殺リスクと対策」の様子
自死遺族弁護団の勉強会「セクシュアル・マイノリティの自殺リスクと対策」の様子

宝塚大学の日高庸晴氏らによる調査では、同性愛/両性愛の男性の場合には、約半数が「ホモ」「オカマ」などといじめられた経験を持ち、65%が自殺を考えたことがあり、15%が実際に自殺未遂を経験していることが指摘されています。これは、かなりショッキングな数字だと言えます。

SYNODOS JOURNAL

セクシュアルマイノリティと自殺リスク (日高庸晴×荻上チキ)

同性に対して恋愛や性愛の感情を頂く人々は、人口の約3~5パーセントほど存在するといわれています。この統計からは、一教室にひとりは、セクシュアル・マイノリティの子どもが存在することになります。

当事者の子どもの多くは思春期にかけて同性が好きであることを自覚し、メンタルヘルス上の危機を抱えやすくなります。しかし子どもたちの声は、大人たちの知識不足や間違った思い込みから適切に受け止められないことが多いのです。教師や親も、適切な情報がないためにどう対応してよいかわからないし、叱責したり、かえって当事者を追い詰めるよう振る舞ったりする場合も多くあります。このように、どこにも相談できないことで不登校、抑うつ、自傷、家出、自殺念慮、自殺企図など、様々なリスクに高率に曝されていくことが考えられます。

子どもを取り巻く大人が適切な知識を持とう

西東京市市民部健康課保健係主催の自殺対策事業「ゲートキーパー研修」の様子
西東京市市民部健康課保健係主催の自殺対策事業「ゲートキーパー研修」の様子

セクシュアル・マイノリティの生きづらさをめぐる状況について書きましたが、それでは私たち一人ひとりが、この問題について取り組むにはどうしたらよいのでしょうか。

ひとつ外せないのは、学校の中で多様な性のあり方について、適切な情報やメッセージを伝えられる仕組みを作ることです。現状では、子どもを取り巻く大人たちが適切な情報を持っていないために、当事者が孤立を深めています。きちんと支援を行い、あるいはいじめが起きたときには介入するためには、子どもを取り巻く大人自身がセクシュアル・マイノリティに対して正確な知識を持っているか、偏見や差別的な言葉を口にしていないかどうかを検証する必要があります。

自殺対策は、自殺に追い込まれる人を減らす施策である必要があります。セクシュアル・マイノリティを孤立させやすい社会の仕組みが、自殺の要因の一つにあることを多くの人たちに知って欲しいと思います。

シンポジウム「いじめ問題とLGBT(性的少数者)~男らしさ・女らしさの圧力を考える~」を開催

ゲストはタレントの牧村朝子さん
ゲストはタレントの牧村朝子さん

10月25日(土)に「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」と、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」が共催で、いじめとLGBTに関するシンポジウムを開催します。

いま、いじめの問題は子どもたちの安全を脅かす重大な問題として注目されています。しかし、LGBTをはじめ、いじめのターゲットとして選ばれやすいマイノリティ集団や、いじめの背景にある「男らしさ」「女らしさ」の圧力について、これまで正面から語られることは稀でした。

10月の「いじめ防止週間」に合わせて、基調講演に評論家の荻上チキさん、ゲストにレズビアン当事者であることを公表しているタレントの牧村朝子さんをお招きして、いじめ問題について改めて皆さんと一緒に考えたいと思います。

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【シンポジウム「いじめ問題とLGBT(性的少数者)~男らしさ・女らしさの圧力を考える~」】

<日時>10月25日(土)14時~16時半(開場13時半)

なおイベント終了後、17時半まで会場内での交流の時間を設けております。

<場所>日本財団2階大会議室 

(東京都港区赤坂1丁目2番2号)

<主催>本シンポジウムは、下記2団体の共催で行います。

NPO法人「ストップいじめ!ナビ」

「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」

<ゲスト>牧村朝子さん

1987年生まれ。タレント、文筆家(オフィス彩所属)。2010年度ミス日本ファイナリスト。2012年、フランス人女性と婚約し、レズビアンとしてカミングアウト。2013年、フランスの同性婚法制化を機に結婚した。主な出演『スッキリ!!』、著書『百合のリアル』ほか。

<内容>

・基調講演 (荻上チキ/「ストップいじめ!ナビ」代表理事、評論家)

・「LGBTの学校生活調査」の調査報告 (遠藤まめた/「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」共同代表)

・パネルディスカッション(パネリスト:牧村朝子さん、荻上チキ、遠藤まめた/コーディネーター:明智カイト)

<参加費>500円

<参加方法>事前申し込み制(先着順):70名

申し込みフォームよりお申し込みください。

※会場の都合上、定数に達し次第、受付を終了することがあります。

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執筆協力

「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」共同代表 遠藤まめた

バラバラに、ともに。 遠藤まめたのホームページ

「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」

LGBTの子ども、若者に対するいじめ対策、自殺対策(=生きる支援)などについて取り組みをしている。LGBT当事者が抱えている政策的課題を可視化し、政治家や行政に対して適切な提言を行い問題の解決を目指すことを目標としている。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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