判決は泰典氏に対し懲役5年、諄子氏に対しては懲役3年、執行猶予5年というものだった。

幼稚園の補助金詐欺について、諄子氏は無罪判決。

検察側から見ると、泰典氏について面目躍如、しかし諄子氏は求刑の半分以下ということで完敗という結果に終わる。 

筆者は19年3月6日の初公判以降の審理すべてを傍聴した。公判の流れをおおまかに振り返ってみたいと思う。

実際に証人尋問が始まったのは二度目の法廷となる5月29日から。初公判からかなり日が経っているのは、主任検事の人事異動があったためと思われる。後任は堀木博司検事。大阪地検特捜部に在籍していた際、籠池泰典氏の家宅捜索や逮捕後の取り調べを行った。いわば因縁の間柄の人物が自ら手がけた事件の裁判も担当することになる。

起訴事実は小学校の校舎建設において国から交付を受けたサステナブル補助金の詐欺、および幼稚園の運営に関して大阪府や大阪市から交付を受けた補助金詐欺の2件である。

サステナブル補助金について泰典氏は故意に詐取した事実はないと主張。幼稚園の補助金に関しては「一部で不正な手段を用いた受給であることは否定できない」とする一方、詐欺罪ではなく補助金適正化法違反で裁かれるべきだとした。

諄子氏に関しては詐欺行為の成立を否定。全面的な無罪を訴えている。

サステナブル補助金に関する審理

まず審理はサステナブル補助金詐欺事案から始まった。5月31日より始まった設計監理業者への尋問のなかで明らかになったのは、泰典氏が「補助金を詐取するよう指示した」ことを示す書類やメールはなく、口頭でもハッキリと命じたことはないこと。ただしそれをほのめかす膨大な音声テープの存在である。

法廷で披露されたテープの録音反訳によると、とりわけ直裁な表現は諄子氏の発言に多く、「国から多めにもらう」「取ったろ、先生、もうほんまに。ほんまに取ったろー」というような会話が明らかにされた。

検察側と弁護側でスタート時点に関する認識が違っていることも分かってくる。検察側の見立ては学園が補助金交付のため、15年7月17日に提案申請書を提出する以前から補助金をだまし取ろうとする欺罔行為は始まっていたというもの。しかし弁護側は工事の正確な建築費用など見積の段階で確定するのは不可能であり、提案申請の段階において多めの見積書を添付することは十分あり得ると主張したいことが伝わってきた。

法廷では十本以上の録音反訳が示されたのだが、なかでも16年1月29日にものが鍵となることもわかった。そこでは確かに泰典氏が「まあ前進めてください」と述べ、それに続き諄子氏も「前進めて」とは言っている。検察側はこの文言が詐取の指示だとする。

ただし、その前の部分には諄子氏の「もう任せてますのでそこのところは、任せてくれってM先生言うてはったから」「だから私らの許可を得てとかではなくて……」と口を濁している部分があり、設計事務所の職員が言質を取って録音すべく誘導しているようにも取れた。この部分について19年10月30日に行われた検察側の論告では「刑事責任を問われる可能性を意識したもの」だとしている。

論告を聞いていて最も驚いたのは、サステナブル補助金の詐欺を発案したのは泰典氏ではなく、夫人である諄子氏であり、従犯というより、むしろ主導したという論調だったことである。検察側が諄子氏についてそこまでの主体的な関わりを主張してくるとは思ってもみなかった。

証人尋問を通じ、籠池夫妻のあずかり知らぬところで設計事務所が補助金の手続きを進めていたことはわかり、弁護側の指摘するよう、従属的であったように感じられた。ただし本来の建築費用を大きく上回る23億円の契約書に泰典氏が署名捺印したのは間違いない。その部分を裁判所は詐取する意図があったと捉えるのかどうか。審理を聞き終えて最も気になった点である。

幼稚園の補助金に関する審理

こちらの方は先にも述べたよう、泰典氏は一部不正受給を認めており、諄子氏は無罪主張。

幼稚園の補助金詐欺事案は二つに分かれている。まず経常費補助金について。これは勤務実態のない職員に対する補助金を受給していたもので、弁護側に争いはない。

争点となったのは特別支援補助金について。これは心身になんらかの弱点のある子どもさん達に対し、幼稚園が特別な配慮を行うことに対して支給される補助金である。

公判前整理手続きの段階において、泰典氏はこの補助金を申請するに際し、診断書に手を加えるなど不正な方法を使ったことは認めていた。公判で争ったのは金額である。検察側は森友学園や籠池学園が得た特別支援補助金全額について詐取であるとしていた。

しかし弁護側は、まったく特別な配慮をしていなかったわけではなく、年度ごとに濃淡はあったものの、出来うる限りのケアを行っていたため全額を詐取したという点は不当であると主張した。

19年7月2日から大阪府教育庁私学課の職員の尋問が始まった。出て来たのは5人。特別支援補助金を担当する職員は毎年変わっているため数が多くなった。

審理を聞いていると一人の職員で千人以上の児童の補助金審査をしていたこと。担当者の裁量によってかなり差のあることなどがわかってきた。私学課の職員のなかには7年も前のことをまるで昨日の出来事であるかのように語るものもいれば、覚えていないことは覚えていないとハッキリ述べる人もいた。証人尋問前の検事とのリハーサルが5~7回も行われていたことも明らかになる。

公判で大きな転換点となったのは19年7月4日のこと。この日は二人の私学課の職員の質疑のあと、森友学園の顧問税理士が証言台に立った。

顧問税理士は捜査段階での供述において、自らの許に届いた架空人件費計上を依頼するファックスの筆跡について、諄子氏のものであると語っていた。しかし、弁護側の尋問の際、もう一度しっかり見るよう依頼されると、「諄子先生の字ではありません」と証言を翻したのである。このファックスは幼稚園の補助金詐欺において諄子氏の共謀を立証するうえで最も大切な証拠だった。

さらに7月8日に行われた幼稚園の二人の教諭に対する証人尋問は荒れに荒れた。諄子氏の共犯性に関する調書内容をひっくり返してきたのである。

検察側の尋問は執拗を極めた。与えられた時間も2時間近くオーバー。穏やかな訴訟指揮を続けていた裁判長からも苦言を呈される。弁護側が持ち時間を削って審理を終えたものの、それでも予定終了時刻を2時間過ぎてしまい、傍聴席からも怒号が飛んだ。

7月12日には森友学園の現理事長である籠池町浪氏が証人として呼ばれた。弁護側検察側の尋問の後、左陪席の裁判官から、

「答えなくなかったら答えなくてもいいんですけれども、今ね、康博被告人や真美被告人、あなたのお父様、お母様だと思いますけれども、どんな気持ちでいらっしゃいますか? 答えたくなかったら、この質問、答えなくても結構ですが……。(中略)答えなくていいんですけれども、お気持ちを述べられるのであれば、述べていただけますか?」

と意外な質問が飛ぶ。

町浪理事長は、以下のように答えた。

「平成29年以降、(沈黙) 当園は家宅捜索の後、私を含めて教職員はみな取調べを受けて参りました。これに関しては、みな、純粋に受けていたと思っています。私の中に関しても、この事柄があっも通い続けて下さった方、そして卒業からも今、お声掛けいただいている方々がいらっしゃる中で、本当にありがたい環境のなかで今、させて頂いているなと思っております。

数々、今だけはなくて、書類の方を見させていただいておりますけれども、私が見せていただいた書類に関しては、(沈黙) いけないことをしているなと思う面もありました。確かにあります。それがありましたので、私の方も前園長とはまた違って、引き継いで、また新たに当学園を進めていこうと思って、やっております。

今は29年度以降、発信をし、カリキュラム面を精査し、着々と立て直しております。当学園で育ってこられた子どもさん方や、関わって下さってました先生方、そして保護者の方々、の、ことを一番に考えた上で、これからも森友学園、塚本幼稚園として、頑張っていきたいと思っております。

少なからず私は前園長、副園長が幼児教育に真剣であったのは見て参りました。子どもたちに対して、我が子のように接していたのも、一教職員としてずっとそばで見ておりました。このことに関しては、敬意は今も持っております。その敬意、敬意を表しながら、また今後もあらたに、私自身がまとめる園としてやっていこうと思っております。以上です」

静まり返った法廷が妙に印象に残っている。

諄子氏に焦点を絞った被告人質問

被告人質問は19年8月28日と9月2日の両日にわたって行われた。8月28日は終日泰典氏に対して。9月2日は午前中、泰典氏、午後から諄子氏という段取りだった。

弁護側は泰典氏の生い立ちから教育者としての足跡について振り返る。その上で、特別支援を要する児童に対し、具体的にどのような対応をしていたのか細かく質問を重ねた。

泰典氏に対する検察側の反対尋問を聞いていて驚いたのは、泰典氏への質問も諄子氏の共犯性に関わるものばかりだったことである。

泰典氏は経常費補助金の不正受給について争っておらず、特別支援補助金についても金額については争っているものの、不正受給があったことに関しては認めている。有罪であることに揺らぎはない。検察側は無罪主張をしている諄子氏にターゲットを絞っていることは明らかだった。幼稚園の補助金詐欺の審理において、証人が供述を翻したことに焦りを感じているようにも見受けられた。

先にも述べたよう、10月30日の論告において諄子氏がはサステナブル補助金詐欺を主導したともとれるストーリーを述べ立てたのである。

そして求刑。

特捜部に対し、緘黙を貫き、法廷においても激烈な検察批判を繰り広げた泰典氏に対する7年の求刑は予想の範囲内だった。

しかし従犯だと思われていた諄子氏へも同じ長さを求めてくるとは想定外だった。弁護団も意外だっただろう。7年ということは仮に半分の3年半でも実刑。検察側の「絶対にブタ箱に放り込んでやる」という強い決意が込められていた。

判決を見てみると、サステナブル補助金については被告側に対して厳しいものとなった。スタート時点は提案申請が行われる前の15年6月10日。「国から多めにもらう」という録音反訳が決め手となった。

23億円の契約書について裁判所は設計事務所の職員から提案があった可能性は認めたものの、それとて施主の意思に基づいた実務上の提案であったという判断だった。

他方、諄子氏の幼稚園の補助金詐欺に関しては、経常費補助金については検察の主張をすべて退け、特別支援補助金について一部の故意は認めたものの共謀の成立は認めず、無罪判決となった。

戦いは控訴審に移ると見られる。

万が一、諄子氏の執行猶予判決が確定した場合、300日にわたる勾留の妥当性が問われることになるだろう。

ただし森友学園事件の本丸は夫妻の詐欺事案ではない。8億円値引き、さらには公文書改ざん事件という国家の中枢で行われた出来事の真相が闇に葬られたままで幕引きが行われてはならない。