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全仏OPテニス:“皮肉なユーモア”は逆転のサイン?大坂なおみ、絶体絶命の危機を切り抜け薄氷の初戦勝利

内田暁フリーランスライター
(写真:REX/アフロ)

■全仏1回戦:○大坂なおみ[0-6 7-6(4) 6-1]A・K・シュミエドロワ●

 自らが放ったフォアのショットが大きくラインを割った時、彼女はファミリーボックスに向け、笑顔で親指をかざた――。

 そのミスショットは、セカンドセットの第11ゲームで、相手にブレークを与えた一打。シュミエドロワがゲームキープすれば敗戦という、絶体絶命の窮地を呼び込んだミスでした。

 「どう、この素晴らしいテニスを楽しんでいる?……そんな感じの、もちろん、ひねくれた自己表現なの」

 自嘲的な笑みを浮かべ、後に彼女は打ち明けます。

 「チームのみんなには、悪いことをしちゃったと思っている。もっと違った方法で自分を立て直す方法を学ばないといけないけれど」

 そんな反省の弁を口にした彼女ですが、その「ひねくれた親指立てポーズ」は現実として、彼女を窮地から救います。続くリターンゲームで大坂は、ボールに食らいつき、時にうなり声をあげて打ち返し、ドロップショットもねじ込みながら、3度のデュースの末にブレークバックに成功。

 かくしてもつれ込んだタイブレークでは、硬さの見える相手のミスもあり大坂が終始リードします。剣ヶ峰で踏ん張り第2セットを奪った女王が、第3セットは主導権を握りしめたまま、ゴールまで走りきりました。

 0-6、7-6、6-1というドラマチックなスコアの訳を、大坂は、「キャリアで、最も緊張した試合だった」と説明します。

 初めてのグランドスラム第1シード、さらには初めてのコート・フィリップ・シャトリエ――それらの状況が大坂の足を止め、腕をこわばらせる。その緊張は試合が進んでも消えぬまま迎えたのが、冒頭に挙げた「ひねくれた指立てポーズ」だったのです。

 そのシニカルなユーモアの表出は、彼女に「試合に集中しすぎた状態から解放し、楽しむこと」を可能ならしめました。大坂は「チームに悪いことをした」と反省しましたが、彼女は過去の経験から、そのような行為がプラスに作用することを知っています。

 「ここはグランドスラムよ。誰もが勝ちたいと願う舞台。ここで楽しまなくてどうするの!」

 そう自分に言い聞かせた時、彼女のプレーは見違えるように、本来の伸びやかさを取り戻しました。

 危機を切り抜けた大坂がいかに強いかは、過去の2度のグランドスラム優勝が証明しています。

 果たして、2度あることは3度あるか……? 次のアザレンカ戦が、1つの試金石となりそうです。

※テニス専門誌『Smash』のFacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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