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全豪オープンレポート:大会も『自信レベル100%』の太鼓判 杉田祐一、世界8位を飲んでの快勝

内田暁フリーランスライター
(写真:ロイター/アフロ)

■男子シングルス1回戦 杉田祐一 61、76(4)、57、63 J・ソック■

 世界40位と8位の対戦は、数字だけ見れば当然40位が不利でしょう。しかし全豪初戦での組み合わせが決まった時、嫌な思いを抱いたのは、恐らくは8位だったはず。

「正直、一番相性の良い相手だと思うので。絶対に相手の方がやりづらいだろうなと思っていました」

 相手を精神的に飲むようにしてショーコート2に足を踏み入れたのは、ランキングでは下の杉田祐一の方。過去の公式戦唯一の対戦は昨年のシンシナティ・マスターズで、その時は杉田が快勝しました。さらに2週間前のホップマンカップでも、杉田は序盤から試合を支配し、相手の棄権ながら勝利を手にしています。

「低い弾道で、相手のバックに集めることは徹底していました。そこで相手がボールを持ち上げたところを、自分から展開できればという感じで……」。

 試合後の杉田は、思い描いた戦術がハマった事実を味わうように、口角をあげ自身の言葉を噛み締めました。

 相手が抱いただろう苦手意識を定着させるうえで、大きかったのは試合序盤の攻防です。狙い通りの速い展開で、ソックのミスを誘う杉田。打ち合いを嫌がるソックが前に出てくれば、今度は鋭角に刺さる強打でパッシングを決めます。誇らしげに拳を掲げる杉田の姿に、大会公式ツイッターも「自信レベル100%」のコメントをつけました。

 第2セットも中盤までは、完全に杉田のペース。ところが4-1とリードしたところから勝利が頭をよぎったか、追い上げを許しタイブレークに持ち込まれます。しかも自身のミスも重なり、タイブレークでも0-3と許すリード。主導権は明らかに、ソックの手中に収まったかに思われました。

 しかし、このセットこそが分水嶺と睨んだ杉田は、追う立場になりながらなお、自身の心理的優位を疑いません。

「なんとしてでも取りたかったセット。ジワリジワリと攻められながらリードするのは相手のメンタル的につらいだろうと思ったので、食らいつこうと思っていた」

 果たして、杉田の理詰めの攻撃を恐れるようにソックはミスを重ね、ボールを叩きつけては警告を受けるほどに乱れます。その機を逃さず5ポイント連取した杉田が、もつれた第2セットをも逆転でもぎ取りました。

 第3セットは失うも、杉田が睨んだ通り、2セットを奪った時点で手にした趨勢が大きく変わることはありません。フォアの逆クロスを豪快に叩き込み勝利を決めたその瞬間、杉田はラケットを落とすと両手を地面に着き、勝利の熱を全身で味わいました。

 試合中はソックに声援を送り続けたショーコート2の米国人観客も、試合後には歓喜の声を上げる日本人ファンと共に、杉田の勝利を称えます。それら3千人の観客の声に、親指を立てて応える杉田。

「大会初日の、最も忘れがたいシーン」

 夕日に映えるその背に、大会公式ツイッターはそんな言葉を添えました。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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