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【シンシナティ・マスターズ】自分への期待と信念――ベスト4はならずも、杉田祐一が期したこととは……

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

●杉田祐一 2-6,1-6 G・ディミトロフ

「自分に期待しすぎた……」

 試合後に杉田は、再三そう口にしました。

 初のマスターズベスト8の戦いに、用意された舞台はセンターコート。対戦相手は、長く“次期王者候補”と呼ばれ続けるディミトロフ。そして杉田の手のひらには、前日の3回戦で強打自慢の若手相手に、激しい打ち合いを制した記憶も残っていたでしょう。

「きれいに当てることにこだわりすぎた」

 それも彼が、幾度も繰り返した言葉でした。

 杉田が心を捕らわれた「きれいに当てること」とは、特にディミトロフのスライスに対してを指しています。上空を強風が吹き抜け、コート上では風が巻くようにボールを流すなか、ディミトロフのスライスは予想以上に不規則に回転し、特にバウンド後はコート上を滑るように伸びたと言います。あるいはサービスにしても、ディミトロフはワイドに逃げていくスライスを多用。それらのボールに対し「きれいな当て」ができない自分に、杉田は落胆していきます。

「もっと色んなやり方があった」「もっと泥臭く行かなくてはいけなかった」

 コートから離れ時間が経った時、彼はようやく、冷静に省みました。

 同時に、杉田が“できなかったこと”とは、ディミトロフが“させなかった”ことでもあるでしょう。1年前の対戦時に敗戦まで2ポイントに追い込まれた経験が、シンシナティを得意とする世界11位に、明確な杉田対策を取らせます。サービスにしてもこの日のディミトロフは、スピードよりもコースの打ち分けと、スライスやキックなど球種を重視。

「彼が最近、とても良いプレーをしているのは見ている。初のベスト8に来たことに興奮しているだろうし、そのことが一層彼を危険な存在にするはずだ」

 対戦前に杉田を冷静に分析していたディミロトロフには、このステージの経験やコートの特性への知識でも、一日の長がありました。

「終わり方が悪いという思いが非常にあるので……」

 今大会の総括を問われた杉田は、まずは悔いをこぼすもこの数日を思い返し、小刻みに頷くと「でも、本当に良い経験。こういう舞台で自分の幅を認識できたし、変えられる部分もかなりあると思う」と続けます。

「色んなものが見つかりつつある」

 その「見つかりつつある」ものへの解を携え次に生かすためにも、「このレベルにステイする」ことを、彼は自らに期しました。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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