テニス・マスターズ:西岡良仁、世界14位のT・ベルディヒを破り4回戦へ。大逆転勝利を支えた思考とは?

(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

○西岡良仁 1-6,7-6,6-4 T・ベルディヒ(13)

練習時から右ひざに巻かれていたテーピングは、これが4週連続出場のトーナメントであり、予選の時点で「足がつりそうだった」ほどの疲れを物語るようでした。そこに追い打ちを掛けるように、容赦なくコートを焼く太陽と、38度に達する猛暑……。

持ち味である“足”を十分に生かすことができない西岡は、ベルディヒが放つフラットの強打にもタイミングが合わず、苦しみます。第1セットを失い、第2セットも序盤でミスを重ねた時には、「ほんとに、ボールが入らない!」と、呻くように叫び声をあげました。第2セットもゲームカウントは、瞬く間に2-5に。

試合開始から、僅か1時間5分……スタジアムに居た誰もが、もはや勝敗は決まったと思ったことでしょう。

勝負はついたかな……との想いは、コートで戦う本人も同じだったと、後に西岡は吐露します。ただ試合が進むにつれ、彼には、徐々に見え始めていたことがありました。

その一つが、ベルディヒのサービスコース。

「コースを読るようになり、リターンを返せるようになったので、ブレークのチャンスは来るかなと思っていました」。

そしてもう一つが、ナーバスになり、ミスが増え始めた相手の心の動き。

「相手が緊張し、ミスが増え始めたのが分かった。彼の2回戦の試合も見たが、その時も第2セットでナーバスになっていたのを知っていた」。

だからこそ西岡は、「今日の試合でも、相手はナーバスになるだろう」と思えたのだと言います。

その読み通りベルディヒは、大量リードにも関わらずどこか不安そうで、特にフォアのミスが増えていきます。3-5からのサービスゲームでマッチポイントを握られた西岡ですが、ここでも相手のフォアのミスで危機を脱出。5度のデュースの末に西岡がキープし4-5とした時、精神的重圧を覚えたのはむしろ、勝利まで1ゲームに迫る第13シードの方でした。

「戦術を変えた訳ではないが、相手が打ち合いを嫌がっているのは分かった。だから長いラリー戦にもちこもうと思った」。

試合中に何度も屈伸を繰り返し、チェンジコート中もうな垂れる程に疲れていたにも関わらず、彼はこの時、身心のスタミナ勝負に持ち込もうとしたと言うのです。

果たして何が、彼を駆り立てたのか……?

「相手が強いし、大きな大会の上のラウンドまで、一歩一歩上がってきて……。せっかくここまで来たのだから、上の選手相手に、なるべく最後まで頑張りたいなと言う気持ちがありました」。

後にそう振り返る彼の、170センチの小柄な身体でひた向きにボールを追う姿が、観客の心をつかみ、スタジアムの空気を塗り替えていきました。

彼の名を叫ぶ応援、あるいは「バモバモ、ヨシ!」というスペイン語の声援も飛び交います。

2-5と敗戦まで1ゲームまで追い込まれてから、約30分後――フォアのミスで第2セットを落とした時、ベルディヒは手にしたラケットを2度、コートに叩きつけました。

第3セットもベルディヒの苛立ちは続き、最初のゲームを西岡がブレーク。ところが続くゲームでは、あれほど外れていたベルディヒのフォアが、突如火を噴いたように両コーナーを抉ります。

それでも西岡は、「多くボールを打ち返すこと」に集中し、ウイナーを決められたら「仕方ない、仕方ない」と自分に言い聞かせたと言いました。揺るがぬ西岡に対し、追いついてなお、自分を信じ切れぬベルディヒ。続くゲームも、長い打ち合いに持ち込みミスを誘った西岡が、再びブレークをもぎ取ります。そしてこれが、両者を通じ最後のブレークとなりました。

試合開始から、2時間22分――。この日5本目のエースで熱戦に終止符を打った時、彼は精根尽き果てたように前に倒れ込むと、降り注ぐ歓声と拍手を背中で受け止めていました。

試合後の西岡は、会場に3つある会見室の中でも、最も大きなメインインタビュールームに呼ばれます。

「なぜ、大逆転勝利できたのか?」 

勝因を問う各国の記者の声に、参戦選手中で最も小柄なラッキールーザー(予選繰り上がり選手)は、少し控え目で……しかし確信と誇りに満ちた口調で、答えました。

「今日の試合は技術ではなく、メンタルの勝負だった。僕は最後まで、メンタルを途切れさせることがなかった。それが、勝った理由だ」。

※テニス専門誌『smash』のfacebookより転載。連日、テニスの最新情報を掲載しています。