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全豪OP3回戦:錦織圭、サービス不調も「他で補い」強者のテニスで5年連続4回戦へ

内田暁フリーランスライター
ネットプレーも多く用いる多彩な攻撃で勝利を手にした錦織

○錦織 7-5 2-6 6-3 6-4 ガルシアロペス

コートを去る際に送られた拍手の大きさが敗者の大健闘を物語り、同時に、第26シードが最高のプレーをしてもなお1セットしか奪えぬ、錦織圭の強さを浮き彫りにもしていたでしょう。

そしてまた、試合後にファンのサインの求めにたっぷり応じ、リストバンドやタオルを大判振る舞いで客席に投げ込む勝者の姿に、この勝利の持つ意味が込められていたかもしれません。

錦織圭、難敵ガルシアロペス相手に今大会初めてセットを落とすも、7-5,2-6,6-3,6-4のスコアで勝利し、5年連続で全豪オープン4回戦に進出です。

今大会はサービスが好調で、過去2試合ともに2時間未満の快勝を収めてきた錦織ですが、この日はそのサービスに苦しみます。加えて相手が「フラットでガツガツ打ってきた」(錦織)ことも、やや想定外。屋根が閉まりインドアと化したコートで、速いリズムで低く深いショットを叩き込むガルシアロペスの強打の前に、錦織が守勢に回る場面が目立ちます。第7ゲームでは、リターンから圧力を掛けてくるストロークに押し込まれ、今大会初めて先にブレークを許しました。

相手のサービスが好調だっただけに、挽回は難しいかと思われた第1セット。ところがプレッシャーの掛かるセット終盤で、突如として、ガルシアロペスのストロークが乱れます。その機に乗じ、早いタイミングでボールを叩いて先に仕掛ける錦織。ゲームカウント4-5の剣が峰でブレークバックに成功した錦織は、6-5からの相手ゲームでもリターンから果敢に攻めます。最後は21本の長く高質な打ち合いを制し、第1セットを逆転で奪いました。

この直後に「少し痛かったので」手首の治療を受けたこと、そして相手の猛攻の前に第2セットを落としたことを思うと、逆転で奪った第1セットは、実に大きな意味を持ったでしょう。

セットカウント1-1で並んで迎えた、第3セット。なかなかファーストサービスの確率は上がりませんが、それでも錦織はセカンドサービスのコースと球種を工夫することで、なんとかキープを続けていきます。特に第3ゲームでは、30オールから2本連続で、セカンドサービスでのサービスウイナー。片手バックの強打でウイナーを連発していた相手の勢いを、なんとか押しとどめることに成功しました。

苦しい展開の中で迎えた第6ゲームでは、客席から沸き起こる「ニシコリ」コールに力を得たかのように、相手のミスに乗じてついにブレーク。その後もサービスキープに苦しみますが、ストローク戦に持ち込み、高く弾むフォアで相手の強打を封じつつ、機を見て叩き込む強打に活路を見いだします。5-3からのサービスゲームでは3度のブレークの危機を脱し、最後は際どいコースを狙ったフォアのウイナーでセットをもぎ取りました。

ファーストサービスが40%しか入らない中で手にしたこの第3セットが、結果的に、試合の行方を決したでしょう。第4セットに入ると、見違えるようにサービスの精度とスピードが増し、それに伴い、リターンも鋭さを増していきます。

「相手サービスのコースも読めてきた」との言葉通り、第3ゲームでは狙い澄ましたように、相手のサービスを叩きます。早々にブレークした錦織は、以降は尻上がりに調子を上げるサービスを軸にリードを維持。試合開始から2時間48分後――最後は197キロのサービスを叩き込むと、「カモン!」の叫びと共にフィニッシュラインを掛け抜けました。

サービスの調子はある程度は水物で、それは本人も「悪い日もあるだろう」と予感していた想定内。だからこそ「悪い時でも、違うところで補えた」と、試合後の錦織は落ち着いた表情で振り返ります。

2週目の戦いに向けても「これからどんどん敵も強くなってくるので、1~2回戦みたいに常に自分が攻めてというわけにはいかない。その強い相手に対応できるよう、しっかり攻撃と守備のバランスをとっていきたい」と、厳しい戦いを覚悟しました。

かくして険しさを増す4回戦で、相対するは強敵ジョーウィルフリード・ツォンガ。

「明らかに、サービスとフォアでどんどん攻めてくる選手。それをさせないようにしなくては」と錦織が警戒心を深めれば、ツォンガは「圭はスピードがあり、常にベースライン上に留まりプレッシャーを掛けてくる。それが僕にとって一番やりにくい点だ」と、敬意を表するかのように錦織の長所を口にします。

過去の対戦は6度を数え、錦織が4勝2敗。うち5試合までもがフルセットにもつれ込むほど、常に接戦を繰り返してきた両者。全豪ベスト8を賭けた7度目の対戦もまた、熱戦になることは必至です。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日、大会レポートを掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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