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全豪OPリポート1日目 錦織64,63,63コールシュライバー:相手を「リスペクト」し手にした快勝

内田暁フリーランスライター
ほぼ満席となったハイセンスアリーナの観客の声援に応える錦織

心地よい打球音を轟かせ時速195キロのサービスをセンターに放つと、力ないリターンをフォアの逆クロスで叩き込み、すかさずネットに詰めて最後はボレーを華麗に決める――試合最初のポイントが会心の展開を予感させ、果たして予感は、1時間55分後に現実になりました。

世界34位のフィリップ・コールシュライバーと、初戦で当たる厳しいドロー。しかしながら、その難敵に一度のブレークポイントすら与えず、6-4,6-3,6-3の危なげないスコアラインでつかんだ勝利。錦織圭の2016年グランドスラム開幕戦は、結果的には、これ以上望めない好スタートを切りました。

「なんで、(コールシュライバーに)シードがついていないんだろう?」

対戦が決まったとき錦織は首をかしげましたが、それもそのはず、コールシュライバーはこの3~4年、常に10位台後半から30位前後のランキングを維持している実力者。また錦織にとっては、昨年末のIPTLのチームメイトであり、その間に「仲良くなった」という相手。だからこそ「1~2セット取られるタフな試合も想定していた。強い相手だからこそリスペクトして、集中して試合に入ることができた」と、錦織は試合後に振り返りました。

その高い集中力は、試合開始直後から最後まで、ほとんど途切れることが無かったでしょう。立ち上がりから「感覚が良かった」サービスを軸に自身のゲームをキープすると、第7ゲームでは豪快にフォアで“エアK”を叩き込み、さらにアクセルを踏み込みます。また、「スタジアムやアリーナのサーフェスはかなり弾むので、スピンを掛けたボールも使っていきたい」と戦前に語っていた通り、フラット系の強打と高く弾むボールを巧みに織り交ぜ、相手にリズムをつかませません。第1セットは、5-4から相手のサービスゲームをブレークして奪取。気合いの籠った「ヘーイ!」の叫びも飛び出しました。

第2セットは最初のサービスゲームでもつれますが、ここを制すると主導権を掌握。第4ゲームでは、リターンで押し込みボレーで決めるパターンを連発すると、最後はウイナー級のリターンでブレークに成功しました。

流れを完全に支配下に収めた第3セットの第3ゲームでは、ミスの増え始めたコールシュライバーが、ブレークポイントでダブルフォールトを犯します。このリードを錦織は危なげなく維持すると、5-3からの相手サービスゲームで、再び一気にギアチェンジ。バックで、次いでフォアで次々にウイナーを叩き込み、最後はフォアの逆クロスで完勝と呼べる勝利をつかみ取りました。

「2週間戦い切ることを考えると、短く終えられるのはとても重要。自信にもなる」

自らそう評する勝利の先で、次に戦う相手はアメリカのオースティン・クライチェク。同じIMGアカデミー育ちで、かつてのルームメイトでもあり、少年時代はクライチェクが英語を教え、錦織がお寿司の食べ方を教えた友人でもあります。

そんな日々から、約10年――現在の2人は世界の7位と84位。昨年末にギリギリで本選入りを決めたクライチェックが「当時のルームメイトや仲間たちは、みんな圭のことを尊敬している」と言えば、錦織は「去年のメンフィスでの対戦では苦労した。サービスが凄く良くて攻撃的な選手。相手のアグレッシブなプレーを出させないよう注意したい」と警戒し、また「友達としても凄く好きな選手」と敬意を表します。

ランキングなどは関係なく、アスリートとしても人としても、リスペクトし合う同士。そんな2人の対戦は、結果の如何を問わず、素晴らしい試合になるでしょう。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日大会レポート等を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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