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王者ジョコビッチ、復活にかけるナダルが準決勝に。カタールオープンベスト4に見る異なるオフの過ごし方

内田暁フリーランスライター

シーズン開幕直後のこの時期は、短くも貴重な約6週間のオフシーズンを、いかに過ごしてきたかを映す鏡でもあるでしょう。1月4日に開幕したシーズン開幕戦のカタールオープンで準決勝に進んだ4選手は、それぞれが異なる形で、しかし自分にとってベストと思えるオフシーズンを過ごしてきたようです。

昨シーズン、82勝6敗という驚異の勝率および試合数を誇った絶対王者ジョコビッチは、IPTL出場を取りやめ、アブダビのエキジビションも欠場して心身のリフレッシュに努めてきたそう。選手の中には「数日でもラケットを握らないと、テニスの感覚を失ってしまう」という人もいますが、ジョコビッチは「僕個人は、オフはしっかり休みたいタイプ。数日練習しなくても、テニスはDNAに組み込まれている」と表情に自信をみなぎらせます。まずは母国で穏やかな時間を過ごした後、昨年末には家族と共にドーハ入りして、この大会に備えてきました。その調整力を発揮し、3試合連続ストレート勝利でのベスト4進出です。

ジョコビッチとは対照的に、IPTLとアブダビのエキジビションに出場し、故郷のマヨルカでも多くのボールを打ち込んできたのが、今季の完全復帰にかけるナダルです。3回戦のクズネツォフ戦も含め、3試合のうち2試合がフルセットにもつれ込む苦しい戦いを重ねましたが、むしろそのことを「ポジティブにとらえている」と言います。なぜなら、昨年は重要な局面ではナーバスになることの多かった彼にとって、プレッシャーの掛かる接戦を制することは「自信を取り戻し、メンタル面の強さを得るためにも不可欠」だから。日に日に自信を深めつつ、準決勝に進みます。

そのナダルが準決勝で当たるのは、驚きの活躍を見せているマルチェンコ。初戦でフェレールを破ると、その後は精神的な高揚感や肉体的な疲労を乗り越え準決勝に到達しました。

現在28歳の94位は、今季に勝負をかけるかのように、このオフには「リスキーな自己投資」をしたと言います。コーチに加えてフィジオとトレーナーを雇い、「トッププレーヤーと比べても遜色のないチーム」を結成したそうです。そのチームの指導のもと、オフには高地で徹底的にフィジカルを鍛えてきた男は「こんなにすぐに見返りがあってうれしい」と、さらなる番狂わせを狙います。

そして最後にベスト4の座を確保したのが、第3シードのベルディフ。30歳を迎えたトップ10の常連選手は、このオフは「これまでにないくらい激しいトレーニングを積んできた」と言います。「男子テニスは年々ラリーが長くなり、フィジカルの比重が大きくなっている。僕の身長と体重を思えば、フィジカルの強化は最重要事項」というその成果は、ジョコビッチ戦でこそ真価が発揮されるでしょう。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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