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全米オープン2日目現地リポ:19歳の西岡良仁、炎天下のマラソンマッチを制し四大大会初勝利!

内田暁フリーランスライター

全米は2年連続、グランドスラムは3大会目の本戦出場となる西岡良仁が、フルセット3時間22分の激闘の末に、フランスのベテラン、ポールアンリ・マチューを6-4,2-6,6-7(7),6-1,6-2で破って、うれしいGS初勝利を手にしました。

「コレクション」

判定を覆すその声が主審から上がった時、西岡は表情を戸惑いと怒気にゆがませて、ラインを指さしながら主審につめよります。第3セットのタイブレーク、5-2とリードした場面で相手が犯したかに思われたダブルフォールト――。しかし主審のオーバーコールにより判定は覆り、ポイントは幻に終わります。その後西岡は、「自分で打っていけなかったり、バックで焦ってしまったり」があり、4本のセットポイントを逃しました。逆転でリードを許し、しかも西岡にとっては未知の領域である第4セットに突入……。

このまま西岡の気持ちが切れていまうのではないか? 

それが試合を見ていた、多くのファンが共有した思いではなかったでしょうか。

しかしコートに立つ彼は、外野とは全く異なる想いを抱いていました。

「相手は元トッププレーヤーとはいえ、33歳。長引けば僕が有利」

それが戦前に抱いていた思いであり、試合を戦うなかでその予感は、確信に変わります。マチューが足に問題を抱えたらしく、動きが鈍り始めていたことも西岡の目はとらえていました。

その冷静さがあったからこそ、第4セットは最高の入り方ができたのでしょう。まずはラブゲームでキープすると、次のゲームでは相手の2つのダブルフォールトに乗じて、一気にブレークを奪います。

この頃からマチューの動きは目に見えて鈍り、サービスにも陰りが見え始めました。ただ同時に、試合が長引けば勝機がないと悟ったマチューは、それまではスピンでクロスに打ってきたフォアでも、時おりフラットでダウンザラインに叩いてくるようになります。

その変化に少々戸惑いながらも、西岡は「ならば自分も」とばかりに、バックのアングル主体の打ち合いから、フォアのダウンザラインを効果的に使いつつ相手を走らせました。機を見て放ち相手を走らすドロップショットは、たとえポイントに直結しなくても、ボディブローのように33歳にダメージを与えていきます。第4セットを奪い返し、マチューのメディカルタイムアウトを挟んでファイナルセットに入った時、精神的に優位に立っていたのは、西岡でした。

ファイナルセットの趨勢が決したのは、西岡がブレークポイントを凌いで第4ゲームを取り、続くゲームをブレークした時でしょう。

「相手が、ほとんど限界に来ているのが見えていた。自分が崩れなかったら大丈夫という余裕を持ちながらだったので、最後のサービスゲームもリラックスしながらできた」

左右のダウンザラインへ叩き込んで、迎えたマッチポイント。相手の返球がネットに掛かると、西岡はどこか余裕を感じさせる表情で、ガッツポーズを掲げました。

ジュニア時代は、自分のミスや主審の判定などに怒りをぶつけ、その結果気持ちが切れて崩れることも多かった西岡。

「自分でも直さなきゃと思うんですが……なんでですかねぇ」

敗戦後に寂しそうに呟いていたのは、つい2~3年前のこと。それが昨年の全米予選時には、集中力を最後まで保って予選を突破し、「オトナになりましたよ!」と笑顔で自分の胸を叩いていました。それでも初出場のGS本戦では、前日から体調を崩して初戦で悔しい途中棄権。

「みんなに、知恵熱が出たのかって、からかわれました」

そうバツが悪そうに笑っていた少年は、心身ともに逞しく成長して、今大会では本戦に残る唯一の日本人男子となっています。

「それを色んな人から言われるんですよ、今僕しか残ってないから『君に掛かってるよ』みたいな」

困惑の笑みを浮かべながらも、「そうですね……確かに僕しか残っていないので、できる限り残りたいです」。

若手の旗手としての自覚も胸に、2回戦のベルッチ戦に進んでいきます。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日、テニスの最新情報を掲載しています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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