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ATPツアーファイナル現地リポ: 錦織圭、直前の相手変更にも動じず!逆転勝利で準決勝へ

内田暁フリーランスライター
試合前の練習でサーブを念入りにチェックする錦織。対戦相手の変更を知ったのはその後

■試合わずか1時間ほど前に知った対戦相手の変更。その時、錦織は…■

「そこまで大変ではなかったですね。聞いた時にちょっと驚きはあったけれど、何回かやっている相手なので、自分がすべきことも把握しているので。もちろん作戦を変更したり、するべきことはラオニッチと全く変わってきますが、気持ちでただ準備すれば良いだけなので。試合に入ったら、ほとんど問題はなかったです」。

これが、対戦相手の変更について聞かれた、錦織の試合後の第一声。特に気負うでも、自分に無理やり言い聞かせるような激しさもなく、ただ胸にある想いを素直にそのまま、彼は言葉にしているようでした。

この変更を知ったのは、試合開始のわずか1時間ほど前。しかも長身でサービスが武器のミロシュ・ラオニッチから、鉄壁の守備とマラソンマッチを得意とするストローカ―のダビド・フェレールという、いわば対極に位置する選手へと変わったのです。それでも試合に向かう錦織圭に、さほどの動揺はなかったようでした。勝利直後のオンコートインタビューでは「戦術も変えなくてはいけないので、大変だった」と言いましたが、それは多少のリップサービスだったでしょうか。

第1セットこそ、ファーストサービスの入りが51%とやや低くダブルフォールトも4本重ね落としますが、第2セット以降はフェレールの守備を、硬軟自在の攻めで突き崩します。

フォアに回り込んでの逆クロスを効果的に使い、相手を左右に走らせたところで、心憎いばかりのドロップショット。それすら多くの局面でフェレールは拾いますが、それも織り込み済みの錦織は、慌てることなく今度はロブボレーで相手の頭上を抜く――第2セットの中盤以降は、そのようなシーンが何度も見られました。

同時に、試合全体の潮流を読みギアを入れるタイミングも見事で、第2、第3セットはいずれも最初の相手のサービスゲームでリスクを取って攻めていきます。その姿勢がことごとく結実し、いずれのゲームもブレークに成功。

「ファイナルセットは、ほとんどミスする恐れなく打っていけました」。

リズムでボールを左右に打ち分け、第3セットは快調にポイントを重ねて4ゲーム連取。迎えたマッチポイントでは、錦織がボールの跳ね際にラケットを軽く合わせるように振ると、きれいな放物線を描くボールは相手コート深くに刺さり、フェレールのラケットを弾きます。その行方を横目で見送ると、錦織は控えめに、しかし力強くガッツポーズを握りしめました。4-6,6-4,6-1の、鮮やかな逆転勝利です。

この勝利により、約3時間後の試合でロジャー・フェデラーがアンディ・マリーから1セットでも奪えば、錦織の準決勝が決まることに。

「フェデラー戦は見るか?」。

試合後の会見でそう聞かれると錦織は、「たぶん結果だけ見るよ。おいしいディナーを食べたいから。試合の時間は、夕飯と被っちゃうから」と笑顔で応じます。果たして結果は、フェデラーがマリーからわずか24分、6-0でセットを奪い、この瞬間に錦織の準決勝進出が確定しました。

ところで、今回のツアー最終戦に初出場した選手は錦織を含め3人いますが、棄権したラオニッチをはじめ、全米王者のマリン・チリッチも力を出し切れずまだ一勝もしていません。初出場組苦戦の理由の一端として、会場のO2アリーナの遅いサーフェスや、照明過多でフェンスの低い構造のやりにくさを上げる選手もいます。

果たして、錦織もそう感じているのか――? 

そんな問いをぶつけてみると、日本の……いや、テニス界のホープは少し小首をかしげ、やや困惑したような笑みを浮かべて、こう言います。

「その……けっこうニブイので、あまりそういう細かいことは気にしないというか……特に集中している時は、そこまで気にならないんです。最初1~2回打った時は、選手のすぐ後ろに観客席があるので、トスと観客とが被ったりするな~というのはありましたが、そこまで邪魔とか、やりにくさは感じてなくて」。

さすがは錦織圭!

この時も彼はやはり、特に気負うでも自分に言い聞かせる風もなく、ただ胸にある想いを素直にそのまま、言葉にしているようでした。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。

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フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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