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ノルウェー軍のセクハラ・パワハラ・いじめ 告発された上司の多くが処分逃れる

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
(提供:イメージマート)

ノルウェー公共局NRKが5月後半に続けているスクープが波紋を広げている。

NRKが把握している限りでも、士官によるセクハラ・パワハラ・いじめの内部告発は70件以上に及ぶ。

だが告発された側が高い位にあるほど処分を逃れており、軍内の男性中心のカルチャーやヒエラルキーが問題視されている。

報道されている告発内容の一部は、

  • 上司が部下と肉体関係を持った
  • 上司を内部で応援したら将来の昇進を約束される
  • 弾丸が意図せず発射された場合の対応の欠如
  • 上司が自分の親戚を優先して雇用
  • 上司軍内で横領しても警察に通報されず、本人は退職後に自治体のトップの役職に就任
  • 上司がセクハラをしても告発は却下される
  • 上司の飲酒運転がばれないように、警察に虚偽の証言をするように上司が部下に依頼。上司は釈放後も階級はそのままで、昇進し続けた。
  • 上司が飲酒運転や暴力で2か月半の監禁中、その上司が乗っていた海軍の船は使用されず、船がなぜ業務利用できないかは口にしないように部下は上層部から指示される。釈放された上司は処分を受けことなく船の任務に戻り、昇進し続けた。

報道によると、告発されている内の17人は最上級に位置する将官クラスだ。ノルウェーには将官クラスに当たるのは70人ほどしかいない。何人かの将官は複数の告発が届いている。

公共局の取材に対して、長官であるアイリック・クリストッフェルセン氏は「リーダーは責任領域が広く、批判がされやすい。意見の不一致でリーダーたちに対して告発が多いことは予想できる」とし、位が高いほど処分を逃れるという指摘には「そのような認識はしていない」と反論した。

北欧では労働組合の影響力が社会では大きいほうだが、軍隊で働く人々の労働組合は「高い位にある人ほど処分はされにくい。軍内での問題解決能力の欠如が理由のひとつ。リーダーの多くが告発が届いてもどう対応したら分からずにいる」と説明している。 

上司が処分を逃れる内部構造や、告発しても進展はなく、精神的に疲労する環境に耐えきれず辞職する者もおり、公共局は被害者の声を実名・顔出しで報道している。

軍側は「いじめやセクハラ対策の努力もしている」「今後はさらなる改善努力をする」と答えている。

小国の課題

北欧諸国では#MeTooが国ごとに異なる特徴を持って、今も継続的に告発報道がされている。ノルウェーの課題は人口の少なさが原因による「誰もが誰かの知り合い」という限られた人脈内でハラスメントが起きやすいこと。小国なので昇進にも転職にも人脈が影響するため、「告発した場合の自分への影響」を心配する人が多いことだ。

今まで政界や一般企業など、さまざまな業界で#MeTooが起きているが、軍隊という特殊な男性中心社会やヒエラルキーが残る内部となると、内部カルチャー問題は世間に知られにくい。

現地メディアが把握しているだけで70件となると、まだ把握されていない事例だけではなく、「怖くて言えない」事例が多いと見られ、氷山の一角だと指摘されている。

特定の業界で権力構造がスクープされた場合は、さらなるスクープが続く、改善がされるなどの歯車が回り始めるが、軍隊という特殊な機関となると、実際に大きな変化を起こすのは難しいだろう。

今後、実名での告発が増える、リーダーの顔触れに多様性が広がるなどの進展がないと、現状では問題が残りそうだ。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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