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難民・移民に厳しいノルウェー与党の支持率が上昇、環境政策に厳しい緑の党は急降下

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
支持率が変化するノルウェー、来年の選挙は? Photo: Asaki Abumi

来年の国政選挙が迫る中、難民問題と環境政策が、ノルウェーの政党の支持率に大きな影響を与えている。昨年の統一地方選挙に圧勝し、笑顔で各地で権力を握った左派勢力だが、支持率が急降下中だ。

ノルウェー国営放送局2016年3月の調査によると、政権を担う保守党24%、進歩党18.6%と、安定の支持率を維持。合意協定を結んでいる自由党4.4.%とキリスト教民主党4.8%。この調子ならば、国政選挙で右翼・保守派政党が再び勝利することができる。

ノルウェー最大政党・野党である労働党は31.6%、左派社会党4%、緑の環境党2.9%。

右翼ポピュリスト政党が支持率を上げる

移民大臣 Photo: Asaki Abumi
移民大臣 Photo: Asaki Abumi

地方選挙の時期は、難民に歓迎なムードが漂っていた。人種差別的だと批判されやすい進歩党は全国で9.5%、首都オスロで6.0%と不人気ぶりを示した。しかし、難民申請者の増加と、進歩党のリスタウグ氏の移民・社会統合大臣就任によって、支持率が急上昇。鍵を握ったのは人気でもあり、不人気でもあるリスタウグ氏の存在だ。一部の支持者からは強烈な信頼を得ており、「左派勢力に政権をまかせると、難民申請者が制限なく流入する」と不安がる層が存在しているとみられる。

驚くほど不人気となった緑の環境党

緑の環境党、ベルグ氏 Photo: Asaki Abumi
緑の環境党、ベルグ氏 Photo: Asaki Abumi

難民問題が世論で騒がれるなか、地方選挙で絶大な注目を集めた緑の環境党は窮地に陥っている。当時は、首都オスロで支持率8.1%と第三位の人気で圧勝。しかし、あまりにも急進的で、人々のこれまでの暮らしを規制・制限する政策を次々と実行することから、市民との距離が大きくなっている。

オスロ市議会の行政府で環境・交通通信局局長のラン・マリエ・ヌイェン・ベルグ氏は、緑の党の顔だ。環境政策を担うが、ディーゼル車規制、中心地カーフリー、理想的で非現実的だと非難を浴びる環境政策案など、さまざまな要素が絡み合い、集中的なバッシングを浴びている。車を環境の悪だとする発言をする一方、自身も政策討論後にタクシーに乗って移動したことは、多くの政党や市民からいまだに理解を得られていない。また、移民風の容姿、政治経験のない若い女性という個人的な要素が、少なからず影響しているともみられる。

ノルウェーの政治を賑わせる2人の女性

進歩党のリスタウグ氏も、緑の党のベルグ氏も、女性でありながらネットでバッシングは受けやすいが、リスタウグ氏はメディアや世間がどう反応するかを理解したうえで発言・行動しているとみられ、戦略に長けている。

緑の環境党の党首はラスムス・ハンソン氏であるが、「なぜ緑の環境党は支持率が急降下?」という見出しで飾る各報道機関は、冒頭写真にハンソン氏ではなく、オスロ市で政策を実行するベルグ氏の顔写真を大きく飾る傾向にある。原因は、オスロ市での環境政策とベルグ氏にあるとしているのは明らかだ。

少数政党が政界の行く末を左右

支持率の変化が目立つのは左派社会党だ。移民政策に厳しい進歩党と、最も対立する党で、人権問題に熱心。進歩党を毛嫌いする層を味方につければ、支持率は今後も上層するかもしれないが、ただ受け入れることだけを主張した場合、今後の国民生活にとってはリスクが高いとも思われやすい。

保守派政権の対抗馬である労働党は、自由党やキリスト教民主党を味方につけようと、ラブコールを送っている。

国営放送局に対し、現地の政治専門の専門家や教授は、今は難民問題に世間が注目しているため緑の環境党に不利な状況だが、「また環境問題に関心が集まれば支持率は変化するだろう」としている。

どこの政党にも環境政策はあり、実は自由党の得意分野でもある。しかし、「移民政策なら進歩党」、「環境政策なら緑の環境党」と、特定のテーマにおいて最も極端な政党に支持者が流れやすいのは、ノルウェーの特徴ともいえる。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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