映画「おとうと」のモデル 山谷ホスピス「きぼうのいえ」創設者の今 突然の解任劇→入院→サラ金から600万円…残ったのは愛猫だけ
「山谷のおくりびと」山本雅基氏
東京のドヤ街で高齢ホームレスらを受け入れるホスピス「きぼうのいえ」を創設し、「山谷のおくりびと」などと呼ばれる山本雅基氏(61)。聖職者で、社会貢献者表彰(社会貢献支援財団)など受章の福祉事業家だが、その理事長を解任され、山谷を後にしていた。統合失調症を患い、半ば寝たきりの山本氏が生活保護を受けて暮らす部屋を訪ねた。(全4回の第1回) 【写真】家賃5万3700円…吉原のど真ん中にある1Kマンション。山本氏の家の中、実際の様子。愛猫の姿も ***
小春日和の昼下がり、山谷からほど近い吉原大門を通って本人から告げられた住所を訪ねると、そこにアパートは存在していなかった。つながりにくい携帯へと何度も電話し改めて聞いた住所を訪ねたが、そこも間違い。電話も不通で、千束の街を山本氏所望の「ダブルチーズバーガー」と、さらに豪華弁当2つを手に探し回り、配達中の郵便局員に調べてもらうなどしているとようやく着信があり、山本氏はこう言った。 「ごめんごめん(台東区)清川のを言っちゃった」 清川は「きぼうのいえ」のある住所だ。それで現住所を聞いたが、出てこないので、電話口で指示してもらった。 「(千束)4丁目に情報喫茶があるでしょ。そこの路地を入ってまっすぐ」 実にいい加減な説明だが、精神を病んでいることを思い出した。そうしてようやく現在の住み処 を発見しドアを開けると、埃っぽく、くすんだ匂いが鼻をついた。 山田洋次監督が吉永小百合と共に、山本氏の取材に来た時、 「日本のスラム街にこんなところがあるなんて」と驚き、「きぼうのいえ」をモデルに映画「おとうと」を撮ったことでも知られている。このとき山田監督はこう続けたそうだ。 「普通の病院は患者の病気を治して世の中に帰してあげるのだけど、あなたはその人の魂をしっかり死なせてあげることによってお里へ帰してあげるんですね」 山本氏はしっかりと頷き、自らの使命として施設運営に邁進していたが、その姿は変わり果てていた。カーテンで昼の陽光を遮断した薄暗い1Kのベッドに横たわる姿はかつての巨漢からは想像できないほど痩せて、手足が長く見え、ぼさぼさの頭は真っ白だ。その手はしばしば小さく震えて、言葉も聞き取りにくいところがある。それでも表情は明るく、体調を訊くとこう答えた。 「うん。統合失調症、昔でいえば分裂病、皆から忌み嫌われている病気の患者だからね。とても強い睡眠薬を飲んでる。でも薬はそれくらいだし、週2回、医療介護士でもあるヘルパーさん が来て面倒をみてくれて、訪問介護も週に3回来てくれる。食事の買い出しから、何の不自由もないよ。いやあ、生活保護っていい制度だなあってつくづく感じている。有り難いなあって」